Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 超域イノベーション総合


10年後の美しさをつくる化粧のあり方

2023/6/26

課題提供者: 株式会社 資生堂

■活動概要&成果

活動概要

美しさの探究は、人類の普遍的な営みであると同時に、時代によって移り変わるライフスタイルや、そのときどきの流行を映し出す文化的実践でもあります。では、少し先の未来において、美しさの探究はどこまでが不変であり、どこまで変化しうるでしょうか。本課題では、化粧という日々の行為に目を向けて、これからの社会で望まれる「美しさ」とはどういったものか、またそれを実現させるために企業や化粧品開発にできることは何かを検討しました。

自分らしくあることの困難

化粧は「自分のため」におこなうのか、それとも「自分以外の誰かのため」におこなうのでしょうか。まず取り組んだのは、人はなぜ化粧をするのかという、基本的な問いでした。化粧によって自信や満足感が得られる一方で、時と場所を選んで化粧をしなければならないとき、私たちは化粧を「させられている」ことになります。そうなると、美しさを考えるには、個人と社会との複雑な絡まり合いと、そこでの生き方を解きほぐしていく必要が出てきます。
履修生チームは、化粧をとおして垣間見える複雑な社会状況に翻弄されながら、現代をとりまく「個人化」の傾向に焦点を合わせました。決して手の届かない理想的な美を追求し続けることから、自分らしくなることへの転換。誰からも強制されることのない、自由な生き方。そうした価値観が、これからの美しさに必要な条件ではないかと考えたのです。しかし、問題はそこで終わりません。「自分らしくあれ」という要請は、ときに息苦しさを作り出す原因ともなるからです。自分らしさを実現することは、決して容易ではありません。

美しさの条件と基本コンセプト

これからの化粧品開発は、この自分らしさという問題にどう向き合っていけるのでしょうか。少なくともそれは、手の届かない理想を提示したり、画一的なイメージを流布させたりすることではなさそうです。個々人の生き方を抑圧する「美しさ」を手放して、ひとりひとりが行動できる自分になること。それが、これからの化粧の基本コンセプトなのではないか考えるに至りました。最終報告の場では、このコンセプトに即したかたちで、忙しい日々を過ごすある女性のペルソナを設定し、日常のなかでふとした行為を触発するような化粧品のアイデアを複数提示しました。

■課題提供者からの声

R&Dの現場では社会の動向を見据えた製品開発が行われています。化粧品市場を見てみると環境に配慮したブランドや、健康志向のオーガニック商品、マスク生活に対応した商品が並んでおり、変化し多様化するライフスタイルや価値観が反映されています。
こういった社会動向を、過去に起きた事象を踏まえて先読みできないか、というのが今回課題提供させていただいたモチベーションです。
課題に一年間取り組み感じたのは「一緒に取り組んでいくうちに自身の中で状況が整理・統合されていく」という感覚でした。提案された社会分析には個人化、多様化、抑圧化、規範化というキーワードがあり、それ自体は抽象度の高いものでしたが、議論していくうちに部署のそれぞれ異なる参加社員各人の中で自身の業務にどう結び付けられそうかをつかみ、その知見を持ち帰ることができました。
状況を拾ったあとに具体的なアクションプランにまで落とし込むのは現場でないと難しい部分があります。また、部署ごとにどのように具体化するのがよいかが異なる場合があります。これらを踏まえると、「社会構造の把握」とある程度の具体化までを産学で共創し、それらを「自身の業務との関連性」で「総合化」するのは各社員で行うという適切な棲み分けができたのではないかと思います。
議論を通じているうちに、自分の業務でいうとこういうことになるな、と知識がつながっていく発見は非常によい経験となりました。

■履修生チームの声

「10年後の美しさをつくる化粧の在り方」を考える中で、当初は各々が思う美の在り方に乖離があり、方向性が定まらず苦戦しました。文献を探り、アイデアの発散・収束を繰り返しては原点に立ち戻る中で、ふとした瞬間に全員が納得するコンセプトを打ち出せた時は、一気に視界が開けたような感覚に襲われ鳥肌がたちました。
そこからは、学術的な知見から提案するコンセプトの裏付けをとり、アカデミアならではの長所を生かした最終報告ができたと思います。今回の貴重な経験は、今後の研究活動や超域イノベーションを起こす糧になると確信しています。

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