Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 超域イノベーション総合


大人の心に届く環境教育

2018/2/2

課題提供者: サントリーホールディングス株式会社

多くの水を消費する都市部において、生活者である「大人」が水の役割やその重要性を身近な問題として理解し、一人ひとりが水を大切にできるような社会の実現が望まれています。このような都市生態系にも目を向けた「大人のための水育プログラム」の提案に取り組みました。

■活動概要&成果

従来の環境教育の弱点を分析する

これまでも環境教育プログラムは数多く行われてきたはずであるのに、どうして社会は変化しないのか。サントリーが実施する「水育」プログラムへの参加をはじめ、複数の環境教育プログラム・イベントに参加することで得た情報を分析し、「水循環」「次世代環境教育」「波及効果」などのキーワードをもとに、課題文を再定義しました。また、子供向けプログラムに参加した親世代の満足度の高さ(自身の学びとして)や、参加者が帰宅後に伝える側に回った場合のプログラム内容の難易度評価からは、既存のプログラムとの相互作用も検討事項であると考えました。

森と都市部を繋ぐものとは?

都市部で生活する大人を対象とする際に着目したのは、これまでの環境教育ではマイナス要因でしかなかった「都市部ならではの利便性」を、水育手段として利用した際の可能性です。ミネラルウォーターやウォーターサーバーを「森と都市部を繋ぐもの」と位置づけ、その利用時に焦点を当てて突破口を模索しました。利便性の追求と水循環の実感、相反する二つの感情・動作を統合させる仕組みを考えました。

「教育」ではなく「学ぶ機会」を提案

持続可能性、コスト面、波及効果などを検証した結果、ウォーターサーバーの利用者に焦点を当て、「年間の飲料水量(l)×年間の森の整備面積(m2)=ウッドポイント」と仮定した仮想通貨ポイント付与の仕組み、水をモチーフとしたボードゲーム(共有資源の持続性を維持しながら個人の利益増加を目指す)による教育手段、情報発信ツールとしての雑誌「月間水人」の創刊を考案しました。これらはいわゆるedutainment(education×entertainment)であり、本課題の対象とした「都市部の大人」だけでなく、その家族を含めた周囲への波及効果も見込んでいます。

■履修学生チームの声

本課題を進めていく過程において、座学では経験できない多くの学びを得ることができました。以下に特筆すべき二点について述べます。一つ目は、答えのない問いに対し、暫定的な解を出し漸進していくことの難しさです。時には原点に立ち返り議論を振り出しに戻す勇気と柔軟性が求められました。議論が行き詰まっていることは分かっても、結論を捨てて一から考え直すことは容易ではありませんでした。しかし、プロジェクトの後半にさしかかり、採用をあきらめていたアイデアが最終的なアウトプットにつながることが数多くありました。議論の結論がプロジェクトにとっての結果なのではなく、結論を導く過程で検討を重ねてきたすべてのことが結果であることを学びました。二つ目は、新しいモノを生み出すことの難しさです。新規性を求めるあまり現実離れした案に陥ることや、逆に現実性を追求するあまり、ありふれた案になることもありました。このトレードオフから抜けだし、新規性と現実性を両立した斬新な案を生み出すためには、既存の解釈の中では答えを導くことはできないことを痛感しました。課題を再定義し直し、新たな視点からモノに価値を与えることの重要性を学びました。これらの学びは、絶えず変化する社会の中で求められているイノベーションのあり方ではないかと考えています。

■課題提供者様の声

サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 水科学研究所 近藤 平人

蛇口をひねれば自然と出てくる清らかな水、現代の日本人には当たり前すぎて深く考える機会の少ない水の世界。このような状況の中、山紫水明の豊かな水が実は限りある資源であることを認識し、次の世代へと繋いでいくためにも、都会人に対する「水育」の必要性が高まっています。豊かな地下水を育む森林の重要性を実際の天然水の森で体感した上で、都市の生態系にも目を向けて、大人のための「水育」プログラムの提案を学生にお願いしました。中間段階では多くのジャストアイデアが錯綜して訴求したいことがぼやける感があり心配しておりましたが、纏めの段階に来て、WATERサーバーを通じた水の価値訴求に着眼し、水が我々に自然との繋がりを想起させ、生活の豊かさを届けていることを実感させる「水育」プログラムの提案に至り、また、水への関心と理解が深まった大人を「水人」と称するといった「超域」的な発想で方策展開に導けたことは、異なる分野で研鑽を積んだ博士課程学生ならではの深い洞察力の賜物と感謝しております。今回の活動を通じて得た協創の力を是非今後に活かして頂ければと思います。

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