Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 社会課題を解決する授業


自主設計科目「授業をつくる授業」

2016/10/24

授業をつくる授業

担当教員: 西森 年寿(人間科学研究科)、黒崎 健(工学研究科)、山崎 吾郎(COデザインセンター)、大谷 洋介
Text: 西森 年寿

■教員が楽しむ

本プログラムで開講されている授業「自主設計科目」について、担当教員の1人として紹介します。ただ、自分で出鼻をくじくようなことを言ってしまいますが、授業の詳細についてはよく書けた受講生のレポートがあるので、まずはそちらをご覧ください(授業レポート)。

上記のレポートには「本授業科目の進行のほとんどは履修生自身に任されており、どのようなプロセスで自分たちが企画する授業の内容を決めていくかも含めて、履修生が議論しながら詰めていった」と書いてありますね。その通りです。つまるところ、これは教員が楽をさせてもらえる授業であり、学生に汗をかいてもらう授業です。いや、楽というより、楽しませてもらっているといったほうが正確ですね。以下では、そんな教員の立場から、上記のレポートとはダブらないところで授業の内容や、H28年度に履修生によって設計された授業の紹介を書きます。

■超域生が授業をつくる意味

初回の授業では、授業設計というこの授業の最終課題の提示とあわせて、例えば1単位の授業をつくるなら何時間の学習活動を用意しないといけないのかといった大学授業のルールや、シラバスの書き方など、授業設計上の基礎知識を簡単に説明します。これらは昨今の大学教員にとっては、FD(Faculty Development)と呼ばれる研修でも扱われる馴染み深い内容です。もちろん、この授業は大学教員の養成を目的とはしていません。しかし、授業設計の知識は、本プログラムが育成を目指しているところのリーダー的人材が「研修」を設計する際などに応用のきくものです。より抽象的にいえば、効果的な授業(学習環境)をどう組み立てるのかという戦略は、リーダーが持つビジョンを周りの人にどのように伝えるのかという戦略と通底するはずです。また、授業の設計はある意味でイベントの設計ともいえます。イノベーションをすすめる上では、多くの人が参加する種々のイベントをプロデュースする機会も珍しくありません。ですから、授業の運営を通して、イベント実践の難しさを学んでもらえるのもこの授業の有意義な点だと思います。例えば、「ゲスト講師にイベントの主旨を理解してもらう」という単純な原則も意外と難しいものです。交渉の中で、うまく伝えるには相当に配慮しないといけない、といったことを体験してもらえるでしょう。

超域生が授業をつくる意味

■みなで頭をひねって

続く授業では2回程度、全員での企画会議を行います。まず各自に授業のアイデアを提案してもらい、教員と学生でコメントしていきます。ところで、教員といえば、実は文理にまたがる授業担当教員が4名そろっているのも、この授業の隠れたウリです。学生から飛び出してくる「プレゼン」「文学」「出版」「恋愛」「仏教」「ライフヒストリー」「笑い」といったテーマについてコメントが求められるので、私などは普段使わない脳みそを必死に動かして対応しています。学生のみなさんもそれぞれの観点でコメントしてくれますので、多彩な話題に対応する力を鍛える場にもなっているでしょう。

提案された企画を検討するときの観点はおもに、1)超域イノベーションのカリキュラムにどう位置づくのか、2)実現可能性はあるのか、の2つです。1つ目は、既に開講されている授業とのダブリさえなければそう難しくはなく、みんなで知恵を出すと、どんなテーマでも複数の側面で超域イノベーションの理念と結びつけられるものだなといつも驚きます。2つ目の実現可能性は、想定しているゲスト講師が受けてくれるのかだとか、そんな壮大なテーマが5回程度の授業で実現できるのか、だとかの問題です。こちらはどうしようもないときもありますが、これまた人が集まって考えれば、何か解決策らしきものは見えてくるもので、協働での課題解決の面白さがあります。

■カリキュラムに欠けているもの

また、企画の案出においては、今の超域の授業に欠けているものという視点も意識してもらっています。このため、学生のみなさんからの指摘で、現在のカリキュラムに不足している要素に教員が気づかされることになります。先述のレポートにあるように、昨年は「独善的エリート主義を超える」という課題を考えることになりました。たしかにこのプログラムの矛盾ともいえる部分であり、私は見て見ぬふりをしている課題でした。今年は、本プログラムで養うべき資質やスキルをまとめた「超域コンパス」の中でも、「エネルギー」や「パッション」といった内容を扱う授業が少ないという指摘がありました。これまた、資質として大事なことは分かっていますが、授業で扱いづらかったのかもしれない内容です。

授業をやっている人間からすると、個々の授業の準備だけで息切れしそうになっていますので、受講者からのそうしたチェックは痛くもありがたいものです(ここに「ありがいたい」という言葉を造っちゃいましょう)。リーディング大学院のプログラムは、先進性というその性質上、学生のみなさんと試行錯誤で練り上げていく部分が大きいですが、この授業はそのさいたるものといえるでしょう。

■そして今年は「アイドル」

さて、こうした検討を経て、整えられ、選抜された企画は、個別の会議を通してより詳細の設計と実施に進んでいくことになります。H28年度に企画された授業は「アイドルは、超域する?—現代アイドルプロデュース論—」です。この原稿を書いている段階では、授業は履修登録受付中。裏では授業提案者の学生によって外部講師陣との交渉が行われています。企画検討中の議論を通して私もその一端を知ることになりましたが、メジャーからマイナーまで含めて幅広く展開されているアイドルプロデュースの現場では、現代の様々な欲望にこたえる形で、そこかしこに「イノベーション」が噴出しているようです。それは「まっとうな生活・人生」からの離脱を誘うような強烈な魅力を撒き散らかしつつ、経済、音楽文化、恋愛・人間関係、情報技術などをミックスし、新しい秩序を形成しているように見受けられます。この魅惑的な現場から、「エネルギー」や「パッション」の源泉について学ぶことができるのではないか。そんな期待をこめて授業の準備はすすんでいます。

そして今年は「アイドル」

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