Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 自主実践活動


パラオの伝統と調和する法整備のありかたとは?

2018/2/2

Text: 法学研究科 宮田賢人

パラオの森林資源の保全に向けた法整備のロードマップの作成 ―伝統的慣習に基づいた法整備の新たな方法論の探求―

主に環境保全活動や環境教育を実施しているパラオのNGO、Ebiil Societyにて5ヶ月間の活動を行いました。このNGO最大の特徴は、コミュニティと協力しつつパラオで継受されてきた環境に関する伝統的知識や慣習を、環境教育や保全活動に活用するという、ボトムアップアプローチを採用していることにあります。ボトムアップアプローチに基づいた立法に関心を持っていた私は、伝統的な環境の知識や慣習がどのように環境政策へ活用されうるかを考えたいと思い活動を実施しました。

本活動ではパラオ北部のガルアロン州を拠点に、環境教育キャンプの補助や亀の産卵モニタリング等をしつつ、今年州で制定された漁業規制の立法過程を調査しました。ガルアロン州は、広大なサンゴ礁を有する州として知られ、その海洋資源の適切なマネジメントの必要性が国内外で主張されていました。その結果、国際NGOやパラオの研究機関Palau International Coral Reef Center(PICRC)の海洋調査を基に、州の歴史で初めてとなる州漁業規制が制定されました。しかしコミュニティの住人と話をするうち、私は漁師と海洋生態学者との間に意見の隔たりがあることに気づきました。そこで「意見の相違を解消し、漁師たちの自発的遵守を促しうる立法過程を提案する」ことを課題として、彼らへのインタビューを開始しました。その結果、規制に反対する漁師たちの海洋調査に対する不満が調査結果への不信感に繋がっていること、調査結果を共有する公聴会は複数回実施されていたにもかかわらず、調査目的や手法に関する公聴会は実施されていなかったことが明らかになりました。この結果を踏まえ私は、ガルアロン州とPICRCにおいて、調査実施前の段階から海洋調査のデザインに関する公聴会を実施し、漁師の有する伝統的知識や経験を調査へ統合することが、漁師の信頼の確保にも、調査の頑強性の向上にも繋がるという解決策を報告しました。

以上の活動では、超域プログラムのカリキュラムで培った様々なスキルが非常に役立ちました。例えば、地元の漁師にインタビューするときは、異なった文化圏や考え方を持つ相手の意見にもじっくり耳を傾け、共感し、理解するという、フィールド・スタディ等で培った傾聴スキルが求められました。また、海洋生態学の資料を読む際には他分野の情報収集の経験を活用しました。漁師側および科学者側という考え方の異なる利害関係者の中で暫定的に解を導き出す手法は超域イノベーション総合で訓練を受けており、本活動ではその成果を発揮できたと考えています。