Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 超域イノベーション総合


超域イノベーション総合:座談会「未来の都市を構想する」

2020/5/19

メンバー: 今村都(経済学研究科)、許俊卿(人間科学研究科)、沈吉穎(言語文化研究科)
ティーチング・フェロー(TF):石井大翔(工学研究科)
グループ担当教員:戸谷洋志(国際共創大学院学位プログラム推進機構)

授業担当教員: 藤田喜久雄(工学研究科)、山崎 吾郎(COデザインセンター)、大谷 洋介(COデザインセンター)、戸谷洋志(国際共創大学院学位プログラム推進機構)

■はじめに

超域イノベーション総合は、超域イノベーション博士課程プログラムの3年次(博士後期課程1年)に行われる必修科目です。それまでの2年間にプログラムで培ってきた知識や経験を総動員して、8ヶ月に渡るプロジェクトにチームで取り組みます。プロジェクトを通して、これまでに学んできたことを一段と深く理解するとともに、実社会の課題に自分たちなりの新しい価値提案をすること、それがこの科目の目指すところです。

2019年度は、超域プログラムの2017年度生(6期生)3名が竹中工務店と協力してプロジェクトに取り組みました。大阪ビジネスパーク(OBP)のエリアマネジメントに関するこのプロジェクトの内容を紹介します。

© 一般社団法人 大阪ビジネスパーク協議会

 

 

今回、授業にご協力いただいた竹中工務店の担当者から提示された課題は「20年後をみすえた大阪ビジネスパークの将来構想の提案」というものでした。1986年の街開き以来、大阪のビジネスの中心地として発展してきたOBPですが、近年は大阪市内の新たな都心軸の形成によって、相対的な魅力の低下が課題になっています。そうした現状を踏まえた上で、履修生たちは街開き50周年となる2036年のOBPの姿を構想し、新たな仕組みや価値を提示することに挑戦しました。

履修生たちが約1年間、どんなふうにこのプロジェクトに取り組み、そしてそれを通じて何を学んだのかを、プロジェクトを振り返るオンライン座談会の形式で聞いてみました。

■1. 社会課題に向き合う

戸谷:今日はお忙しいところ集まって下さってありがとうございます。今村さん、沈さん、許さんは今年度の課題に取り組んだチームですね。この超域イノベーション総合の授業に取り組んだ感想を聞かせてください。授業が始まった頃はどんな気持ちでしたか?

許:課題文を見た時は、場や歴史といったどちらかといえば抽象的なテーマであったため、難しそうだと思いました。ただ、自分にとっては大きな挑戦になるとも思いました。あと藤田先生の講義がとても興味深かったです。

今村:私はもともと課題の内容次第だなと思っていました。最初に感じたことは、今回はエリアマネジメントということで、課題がとても難しいということです。私、普段は製造業で調査しているので、そういうところに関わりがあると取り込みやすいという期待がありましたが、今回の課題はそういうわけにはいかなそうでした。なので、どういうところから何をフックにして考えればいいのか分からず、最初は不安が大きかったです。

沈:私も最初は不安でした。ただ、課題のテーマは超域でよく言われる「未知で複雑な社会課題」そのものでしたし、自分ひとりではなくチームメンバーや学外のステークホルダーと連携しながら取り組むということも含めて、とてもチャレンジングな課題だと思いました。

 

戸谷:プロジェクトを進めていくなかで大変だったことはありますか?

許:私たちは7月の中間発表で、「開く」と「閉じる」という二つのキーワードを使った解決策を提案しましたが、そのアイデアを伝えるのが大変でした。「開く」方針は、OBPに外部から観光客を誘致することを目指すもので、「閉じる」方針は、反対にそうした観光客に依存するのではなく、OBPにもともと関係する人々によって魅力を創出するというものです。

今村:エリアマネジメントという概念的なものを扱っているので、結局、人の気持ちを相手にする課題だなということを感じました。だから、課題を定義する際にも「幸せ」とは何かという話になり、災害に強い街とか、人の住めるビジネスエリアとか、割と散漫なアイデアが出てきてしまい、最初は混乱しました。どれに対してもフィードバックが良くなかったですね。最後のアイデアに収束するまでが一番難しかったです。

沈:このプロジェクトを進めていくとき、私は明確なゴールに向けて一歩一歩進むことが理想だと思っていたのですが、実際には右往左往したり、模索しながら進んだりすることが多かったように思います。

今村:プロジェクトを進める過程で、出張を計画しながら実現できなかったこともありました。出張をすれば、少なくとも出張している間はメンバーがこの課題にフォーカスし続けるので、行く価値はあると思っていました。ただ、出張先でヒアリングをしようと思っても、聞きたいことが漠然としているために、忙しい人にそれを言うのは申し訳ないという気持ちもありました。強いて言えば、そういう学生が来てくれてディスカッションするということ自体に意義を見出してくれる人もいるかも知れませんが、そういう人ばかりでもないので、葛藤がありました。

沈:私たちは最終的にはSchool of Public Business Osaka (School of PBO)という産学連携の教育施設を開校する、という提案に行きつきました。企業が主体となる大学の先例に、中国のHUAWEI大学というところがあるので、その大学の訪問も出張先として検討していました。チームメンバーのうち二人が中国人であるという強みを生かそうと思ったのですが、これも実現できませんでした。限られた期間のなかで出張を計画し、きちんと実現までもっていくのは難しいことだなと、改めて実感しました。

戸谷:課題提供者の竹中工務店とはどのように関わっていましたか?

今村:今回の課題はOBPというビジネス街を対象にしているということで、最初のヒアリングは竹中工務店を中心に行いましたが、途中からは竹中工務店に紹介して頂いて、OBPアカデミアや読売新聞社など、OBPに入居している様々な企業に話を聴かせてもらいました。特に、私たちの最終的なアイデアはOBPを学び続ける街として構想するものでしたので、OBPアカデミアの方と話ができたのはとてもよい機会になりました。

許:竹中工務店に紹介して頂いた、西新宿のエリアマネジメントに携わる大成建設に訪問できたことも、私たちのプロジェクトを進める上で重要な契機になりました。

沈:学生だけでこうした多様なステークホルダーとネットワーキングすることは難しかったと思います。そういう意味で、竹中工務店が仲介役となっていろいろな方と繋いでくださったことはとてもありがたかったです。

戸谷:課題提供者からのフィードバックについてはどうでしょうか?

沈:中間発表や最終発表では、最初の資金がどこからくるのか、誰が旗振り役になるのか、といった現実的な疑問が多く寄せられ、うまく答えられないことが多かったです。特に、最終的な解決策の提案で私たちが重視していたのは、企業の社会的責任(corporate social responsibility)だったのですが、その実現可能性に疑問が集中したように思います。

今村:私が最初の発表のときにすごく思ったのは、思った以上に自分たちの考えていることが伝わらなかった、ということです。私たちは、長い時間をかけて議論をして、その経過を分かった上で話しているけど、その前提を共有していない人には、当然うまく伝わらない。そういう部分を説明しきれなかったという反省があります。

■2. 壁を乗り越え、チームで課題に取り組む

戸谷:先ほど沈さんも言っていましたが、このチームの大きな特色はメンバー3人のうち2人が中国からの留学生だったということだと思います。グループワークをする上で言葉や文化の違いを感じたことはありましたか?

許:やはり、本当に自分が伝えたいことを伝えられない、ということはありました。ほかの授業ではそういう難しさをほとんど感じないのですが、こうしたプロジェクト型の授業では、自分の表現がほんの少しでも違ったら方向性が変わってしまう、ということがよくありました。自分の日本語はまだまだだなと思います。

沈:私も同じで、心に思ったことを言葉で表現できない、という難しさがありました。他のメンバーがフォローしてくれたり、日本語でうまく整理してくれて助かったこともありましたが、反対にうまく話せなかったことがそのまま流されてしまって、悲しかったこともありました。

許:もう一つ思ったのは、日本人と中国人には考え方の違いがあるということです。中国人の考え方には、目標に向かって最短のルートを発見しようとする、という特徴があるように思います。それに対して日本人は、どちらかといえば、いろいろなアイデアを発散しながらルートを探す、という形で考えているように感じました。

今村:実はですね、授業を終えてからラーメン屋で話していたことがあるんですけど、そのとき二人から、中国の人は意見をぶつけ合うことを割とOKだと思っていると聞いたんですね。日本人の感覚だと、意見をぶつけ合った結果、その意見が取り入れられなかったりしたら、その意見を言った人はやる気をなくしてしまうのではないか、と気にしてしまいます。そのことを気にしすぎて、できるだけ多くの人の意見を取り入れようとしすぎるあまり、プロジェクトのスピードが落ちてしまう。そういう意味で、中国人と日本人はやり方が違うのかなと思いました。

戸谷:そうするとグループワークではバチバチにやり合っていたのですか?

今村:そういうわけでもないんです。私は当初、こういう多様なチームだからこそ喧嘩しない方が意見を出しやすくなるかと思って、喧嘩しないように最善を尽くしていたんです。っていう話を、さっきのラーメン屋でしてみたのですが、そのとき二人はむしろ喧嘩したかったみたいなことを言っていたんですよね。

沈:ただ、チームは中国人2人、日本人1人だったということもあって、私自身はできるだけ喧嘩を避けていました。自分が言いたいことをそのまま言ってしまったら、日本人の方から見ると、喧嘩を売っていると感じられるかも知れない、と思って。

 

許:喧嘩することのメリットは、対立する意見やアイデアの優劣をはっきりさせることができるという点にあります。ただ、喧嘩してしまうと一つの考え方にこだわることになるので、アイデアの発散ができなくなってしまいます。反対に、喧嘩を避けていけば、対立する意見やアイデアを組み合わせることができるようになります。そういう意味で、日本的な思考法は多様なアイデアを創出できるという強みを持っていると思いました。いまの私の考えでは、中国の大学では喧嘩した方がうまくいくけれど、日本ではしない方がうまくいく、といった感じです。

今村:私は最初の頃は不安感が強く、自分がなんとかしなきゃという思いがあり、議論をリードしなきゃと思っていたのですが、後半になるとみんなが平等にリードしていけるんだ、みたいな気持ちが芽生えてきました。相手の動き方が分かってきて、グループワークをする上での不安感もなくなっていきました。

沈:私自身にも、最初は日本人と留学生という区別が心のなかにあって、苦手な役割を今村さんにお願いしていましたが、プロジェクトが進んでいく過程で、今村さんが途中でグループワークから離れたり、最後の成果発表会に参加できなくなったりしても、自分の力を発揮することはできるんだな、という自信を持てました。そういう意味で、言語の壁・文化の壁を超えられたことが、私にとって大きな変化でした。

■3. 授業を終えて

戸谷:授業を終えてみて、超域イノベーション博士課程プログラムのカリキュラムのなかでこの授業はどのような位置づけにあると思いますか?

許:私の考えでは、この授業はBasicコースで学んだ知識を現場で実践するものであり、自分の知識やスキルを試しながら、自分の研究をビジネスチャンスに結びつける能力を学ぶ授業だと思いました。

沈:Advancedコースにはほかに自主実践活動という科目があり、自ら解決策を探してくわけですが、それは一人ひとりでそれぞれやっていく授業ですね。それに対して超域イノベーション総合はチームとしてプロジェクトに取り組むので、自主実践活動の準備段階という位置づけもあると感じました。

今村:学生がグループとして一番主体的に関わる授業だなと思います。グループとしての授業はBasicコースにもありましたが、そうした授業では先生がファシリテーションしてくれるという安心感がありました。一方、GEや自主実践活動は完全に学生が自主性を発揮しなければなりませんが、これはあくまで個人の活動なので、グループとしての軋轢や摩擦は感じません。そういう意味で、グループでありかつ自主性を発揮するという意味で、総合は超域のコンセプトに一番あった授業だと思います。

戸谷:この授業を経て自分が成長したと思うところはありますか?

沈:私は最初、ゴールに向かって確実に進むことにこだわっていたのですが、実際にプロジェクトを経験して、時には間違うことや挫折することを恐れず試してみることも大事だと気付きました。まっすぐゴールに至らなくても、思考錯誤して、右往左往してもいい、と思えるようになりました。

今村:私はプロジェクト運営に関する知識が手に入ったと思っています。何もないところからまったく新しいことを提案しても、実現可能性が低い。今回でいうと、OBPアカデミアとか公立大学法人大阪とか、すでにある資源を活用することで、現実的で受け入れられやすい解決策を提案できるようになるんだな、という学びがありました。

許:今までの課題を解決するとき、自分がどんな立場からアイデアを出すのか、ということに悩んできましたが、生活者・当事者の視点から教育や社会を眺めることができるようになりました。そうした立場に立つ視点こそが研究にも必要になると思います。

© 一般社団法人 大阪ビジネスパーク協議会

 

戸谷:最後に、これから超域イノベーション総合を履修する後輩たちにメッセージをください。

許:普段、私たちは知識を蓄積したり、社会問題について考えたりする機会がたくさんありますが、学んだ知識を社会課題に応用する機会はほとんどありません。超域イノベーション総合は、そうした応用をするためのプロジェクトであり、履修生にとって大きな挑戦です。実際の課題解決では、答えを見つけることはそれほど単純ではなく、また答えを見つけても問題が解決できない可能性があります。課題に関わるステークホルダーは多様であり、その利害関係が複雑に絡みあっているために、それらを慎重に考えないといけません。後輩の皆さんが、包括的に状況を分析し、その背後にある関係性を深く掘り下げ、課題を定義し、最適な解決策を見つけることができることを期待しています。自分の専門性と能力を最大限に生かしながら、イノベーションを起こしてください!

今村:「チームの多様性を生かした活動にしたい」というのが私のこの総合プロジェクトに対する個人的な目標でした。日本人・留学生や文系・理系などいろいろなメンバーがいる中で、プロジェクト中はできるだけ多くの人の考え方を取り入れ、専門知識を生かすにはどうすれば良いかを試行錯誤しました。プロジェクトの達成度を高めるということももちろん大切ですが、一方で自分が試したいこと・達成したいことを意識してやってみるのも縛りの少ない超域イノベーション総合だからこそできることではないかと思うので、そういう意味でもこの授業を活用できるかなと思います。

沈:プロジェクトを進めていく時に、色んな課題に直面すると思います。異なる分野の知識の学習と理解に悩んだり、チームメンバーと意見が食い違ったり、課題提供者などのステークホルダーに納得してもらえなかったり、大変だなあと思う時があるかもしれません。普段は自分がいる専門分野、物事の捉え方、自分なりに見ている世界を意識しないかもしれませんが、うまく行かない時こそが、自分の立ち位置や限界を知る機会ではないかと思います。この授業を、そうした限界を超えるための最初のステップとしてポジティブに捉えて、楽しく課題解決に取り組んでいくのが大事だと思います。長期戦のプロジェクトですので、後輩の皆さんには、ぜひ楽しくやっていただきたいです。