Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

グループ型自主活動
AIと人間の意思決定プロセスについて考える議論の場
ーグループ企画支援 活動レポートー

2025/5/8

図1 グループHP*1用として制作・使用している画像

 

執筆者:瀬戸 ひろえ(人間科学研究科)・名取 大雅(基礎工学研究科)・KANG KIWON(人間科学研究科)

活動の概要

 瀬戸・名取・KANGの3人は(以下、本グループ)AIが普及し様々な場面で活用されていく現代において、人間の意思決定はどこまでAIに任せられるのかについて考える必要性を感じ、活動を開始している。そして実際に考える場として哲学対話を用いることを試み、様々な場所とテーマで哲学カフェを開催した。また、哲学対話という議論方法の有用性を評価する研究活動も並行して行い、既存の議論方式と比べて哲学対話は参加者の自由な発言と考えの変化を期待できる点が示唆された。このような活動の成果はHP・SNSの掲載や学会発表など様々な手段を用いて発信を行い、本グループが抱えている問題意識と共に対外的に共有している。活動の限界としては、一般の人の声を拾い上げることが十分ではなかったことが挙げられる。これには、今年度の成果を次年度の活動につなぐことで解消していきたいと考えている。

(注)
*1 https://sites.google.com/view/aixdecision

1. 活動の背景

 近年、artificial intelligence(AI)が急速に我々の生活に溶け込む中で、AIがどのように利用されるべきかについて、社会全体として議題されるべき事柄が生じてきている。例えば、健康管理を促すAIの助言にどこまで従うべきかについては、自分がどう生きたいか・死にたいのかの価値観に合わせ、個人が利用の有無に答えを出さねばならない。また、自動運転による事故がはらんでいる、トロッコ問題のような倫理的ジレンマに対しては、専門知識の有無にかかわらず社会全体でとして答えを出していく必要がある。
しかしながら2つの課題が存在している。一つは、ひとりひとりが自分の考えを形成する機会を持たないまま、AIの利用を加速してしまう可能性があることである。実際、消費者庁の調査では、多くの人が、AIがいつどのように利用されているかわからぬままに、AIは暮らしを豊かにすると考えている傾向にあることを示している(消費者庁, 2023)。もう一つの課題は、AIの利用方針が専門家のみの判断で、トップダウン式に決定されているという課題である。現在世界各国でAIの倫理原則やガイドラインがほぼ専門家のみで作成されているが(Council of Europe, 2020; 内閣府)、先ほど紹介した通り、使い方を専門家が決めるだけでは解消できない問題がいくつも存在する。
こうしたことから、本グループでは、AIと人間の意思決定の関係について、人々が自分の考えを醸成するための場を設けること、市民の考えをボトムアップ式にまとめていくことが必要であると考え、活動を実施している。

2. 活動内容

 上記の背景に基づいて、我々は、一般人が自分の意思でAIを利用するか判断するべきだと思い、一般の人々が考える場を設け、ボトムアップで意見をまとめていくことが重要だと考えた。具体的な活動としては、哲学カフェの形式で、その有用性を実証しつつ、意見を集めてきた。

図2 哲学カフェの様子(左:2024年8月実施・右:2024年11月実施)

2-1. 対外的活動

 4月より活動を開始したが、7月までは具体的な活動計画を練り活動の方針を決めるために、メンバーの中で繰り返し議論を行った。その成果を用いて、8月から本格的に哲学カフェの実施を中心とした活動を開始した。
8月に学内にて、本グループとしては最初の対外的活動として自動運転の是非をテーマとした哲学カフェを実施した。我々の初めての活動でもあったので、哲学カフェは本当にボトムアップの意見をあつめるのに有用かを検討する試みでもあった。
9月には「超域への扉」にて、医療系を中心としてAIを研究に活用している学生との対談を実施した。8月に実施した哲学カフェの内容とは方向性が異なっていて、やはり研究者とそうでない人では考え方のベクトルが異なることを実感する機会となった。
10月には、超域の先生方の協力を得て哲学カフェを実施した。哲学カフェのファシリテーター未経験のメンバーが哲学カフェを実施するにあたり、メンバーのスキル向上が主な目的だったが、先生方の話が大変興味深かったことがとても印象的だった。また、この会には哲学カフェを学生間で開催されている学部生にも参加してもらい、これをきっかけに我々の活動のアドバイザーになってもらったという機会でもある。
11月から1月にかけては、本格的に哲学対話の有用性を証明すべく比較研究を実施した。具体的には、一般的な議論の形の代表例であるグループディスカッションと、哲学対話の2条件に参加者を分けて参加してもらい、その前後でのアンケート調査を比較することで、考えの変化や自由に意見を言えるかなどを確認した。その結果、哲学対話では考えの変化が表れたと認識する人が多く現れた。議論の録音データからも対立が多かったグループディスカッションと比べて、哲学対話は自ら気づきを得られた省察型が多く表れるといった違いが見られた。このように、知識や人間関係に影響をうけず考えを述べることができるという点で哲学対話の有用性が確認できたと判断している。
また1月には、大学の外で意見を集めるための活動を実施した。具体的には箕面市北部・西南地域包括支援センターで訪れた方との哲学カフェを実施した。興味深かったのは、AIそのものへの不安より、それを巡り周囲との摩擦や失望への恐怖が強かったという点だ。やはり専門家の目には見えない、一般人ならではの事情があるのだと確信した。

2-2. 発信

 本活動の趣旨から、多くの意見を募ることと同程度に対外的に発信することを重要であると認識している。そのため、活動の成果をHP・SNSでの掲載、学会発表で専門家と意見交換を行うなど様々な方法で発信を試みている。基本的な発信の土台となる本グループのHP は全ての活動を記録するアーカイブ的な性質も兼ねており、活動の終了後も特段と問題がなければ維持する予定である。HPへの案内は、活動用として作成している名刺にQRコードを添付し、辿れるように設定している。

図3 グループ活動用に制作した名刺(メンバー3人+活動協力者の岡崎もも花さん)

 SNSには、超域および大阪大学人間科学研究科「哲学の実験グループ」のX(旧ツイッター)アカウントへの掲載依頼を行った。本来はグループ独自のSNSアカウント(X・Facebook・Instagram)を作成して自ら広報を行っていく予定であったが、知名度が低い問題からまずはオフィシャルのアカウントの発信力を借りる戦略をとった。
オンラインのみならず対面での発信も実施した。2024年9月、大阪市内で実施された「TEAM EXPO 2025」ミニMEETINGに参加して本活動の報告・発信を行った。本グループ活動を学外で発表する初めての試みであったものの、多くの参加者から支持を得る成果を収めたと考えている。特に、AIという一種の技術をただ鵜呑みにするのではなく敢えてもう一度考え直すという活動の趣旨には、実際にAIを仕事に使用している参加者を含めて問題意識を共有することができた。
さらに 2025年2月には電子化知的財産・社会基盤研究会(EIP研究会)での学会発表を行った。11月から1月にかけて実施した比較実験の報告が主な内容となってはいるが、本グループ活動の趣旨や理念を専門家向けに発信する趣旨も兼ねたものであった。哲学対話という試みに興味を示してくださった参加者が多く、一般人の意見を拾い集める試みに専門家からも興味を持っていることが確認できたのも重要な成果の一つである。

3. 活動の成果

 

3-1. 哲学対話の有用性の確認

 2008年以来、サイエンスカフェは日本で急速に増えている。ところが、サイエンスカフェは専門家と一般人が場を共有しつつ間近で交流ができるという長点がある反面、一般人との関係は専門家の権威が保たれつつ、教える側と教わる側で大別されるという限界があると本グループは判断している。
より一般人の本音を集めるボトムアップのアプローチとしてはどのような手段が適するか様々な方法を検討した結果、サイエンスカフェの源流(中村, 2008)と称させる哲学対話に着目している*2。問題は、哲学対話という手段が特定のテーマにおいてボトムアップで意見を集めることに適しているかは、学術的に証明されているとは言い切れない部分である。そもそも哲学対話は、参加者自身が話し合いを吟味することが主な目的として設定されることが多く、時には参加者へのケアの観点から実施されることもある。無論、本グループも哲学対話を実施するにおいて参加者が変化を感じるか、自由に話ができたという満足感を提供することを主眼に置きつつも、意見収集という本来の目的に適しているかどうかには憂慮していた。よって、本グループは11月から2月にかけてグループディスカッションと哲学対話の比較実験を実施した。日常における意見交換の多くはグループディスカッションの形式をとることが多いと本グループでは判断したため、グループディスカッショングループを対照群として設定して比較を行った。実験対象者が大学生という点も否めないが実験結果としては、どちらも意見の変化を感じたと言いつつも、詳細な事項に関しては変化がなかったと矛盾した回答が多く表れた対照群と比べて、介入群(哲学対話)には矛盾が見られなかった。

図4 比較実験のアンケート結果(抜粋)

 対話の録音からは、互いの意見を否定する「対立型」が多く表れた対照群と比べ、相手の意見を受け入れ気づきを認める「省察型」が介入群に頻出した。このような量的・質的分析の結果から、対照群において矛盾が表れているのは、実際には相手の意見に気づきを得つつも反感が先だってしまう、いわば防衛機制が働きやすいと判断した。反面、介入群においては防衛機制の発現を回避できるという可能性が示唆された。また、一つの意見に集約する形をとる対照群と比べて、各自が自身の意見を持ったまま終わりとする傾向も表れたため、やはり哲学対話は多様な意見の収集が可能という当初の仮説が検証されたと判断している。このように哲学対話は、より自身の意見を話しやすく変化を受け入れやすい、また、多様な意見を収集するボトムアップ形式の議論に適している、という二つの有用性が示唆された。ただし、此度の実験はパイロット調査的な位置づけであり、本格的な実験を次年度に実施したいと考えている。

(注)
*2 「他にもコンセンサス会議というアプローチがあるが、大規模で実施されるため2010年代以降はほぼ実施されていない。また、持続的に一般人の意向を確かめるより短期間で結論を見出すに適した手法であるため、今回は対象外としている。

3-2. メンバーの成長

 本グループに参加しているメンバーは、それぞれが異なる思いを持っていながらも「誰か(AI)に意思決定を任せて良いのか」という共通の問題意識が活動の背景となっている。しかし、問題意識へのアプローチが「ボトムアップの形式で意見を集める必要があるのか」という点にはなかなか合意に至らず、グループ内で無数の時間をかけて議論を繰り返した。各自がそれぞれへの理想に向かって真剣な取り組みをしていた分、妥協点を探し出すのが容易ではないことは最初から予見されていたことでもあった。
しかし、実際対話を繰り返しつつ色んな意見や考え方を学ぶにつれ、社会的な問題に取り組むには専門家の見解だけでは不十分ということが浮き彫りになっていた。例えばEIP研究会での発表では「知識を伝えてから、一般人に議論をさせるべきではないか」という質疑があったように、知識の欠如が不信やミスリードに繋がるというサイエンスコミュニケーションにおける「欠如モデル」は、今でも専門家の中では主軸となっていることが現実と思われる。反面、実際に一般人の声を拾い上げたところ「周りと異なる意見を持つことで、揉め事や摩擦が生じるのが懸念だ」という、技術そのものとは関係のない懸念が垣間見られた。言わば一般人は専門家と異なる文脈を持つという「文脈モデル」の典型例ともいえるだろう。
このような専門家と一般人の乖離は、社会に出て直接人々の話を傾聴していく過程を経ない限り、限りなく専門家に近い博士課程の学生としては得にくい気付きでもあった。総じていうと、それぞれの異なる専門性を持つ本グループのメンバーは、正しい意思決定とは何か、新技術と人間の向き合い方は何かにおいて、本活動は今までと異なる方向で考えるきっかけとなったと言えるだろう。本グループのメンバーそれぞれが目指す方向は異なれども、活動を通じ培った知見は大事な糧になると考えている。

3-3. グループとしての総括

 活動をまとめると、方法論としての哲学対話の有用性が確認できており、対外的発信として学会発表を実施したことは、当初定めていた目標値を上回る成果といえる。また、学内外で哲学対話を実施し多様な意見を集められたのは、本活動の趣旨からもっとも重要な成果とも言える。
専門家と一般人の考え方に乖離が存在する点には、直接一般人の声を拾い上げていかない限り確かめるすべはなかったことから、活動が適切な方向で実施されたと自己評価している。また、活動を通じて得られたメンバーの成長という側面も看過できない。社会に出ることでようやく互いのディシプリンの壁を越えた合意を成し得た経験は、今後の活躍においても大事な糧になることであろう。博士論文執筆や主専攻の研究といった現実の縛りもあり、メンバーの共通理解を得るまで多くの時間を要してはいたが、本活動がメンバー各員を、社会課題を解決する超域人材に近づけてくれたことには疑いの余地がない。
今年度に得られた経験と成果を、次年度の活動につなぐことで引き続きグループの理念を実践していきたいと考えている。

4. 残された課題

 大学内を中心に複数回の哲学カフェを実施、その効果についても有用性をまとめるなど成果は得られたが、その多くの回が大学生や研究者を対象としたもので、まだまだ一般人との対話は足りていないと思っている。特に大人だけでなく、子どもであったり高齢者、様々な仕事の方の声を拾い集めていくことが必要だと感じている。また、哲学対話の手法が有用と示してきたが、あくまでパイロット調査の段階に留まっているのも現状であり、さらに参加者数を増やしてより実証的な研究も引き続き行いたいと思っている。

図5 「ななーる訪問看護ステーション」にて(2025年4月実施予定哲学カフェの事前MTG)

謝辞

 哲学カフェの開催・参加に協力してくださった超域イノベーション博士課程プログラム教職員・履修生のみなさま、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)のみなさま、箕面市北部・西南地域包括支援センターのみなさまに深謝いたします。また、大阪大学人文学研究科 小門穂先生、中村征樹先生、秦かおり先生、望月太郎先生およびゼミ生のみなさま、同学社会技術共創研究センター 鈴木径一郎先生、同学人間科学部 岡崎もも花氏には多大なご助言・ご協力をいただきました。ここで謝意の意を表します。

参考文献

・消費者庁:第1回消費者意識調査(オンライン),入手先 〈https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting _materials/assets/consumer_policy_cms101_20316_03.pdf〉(参照 2025-01-15)
・Council of Europe:Ad hoc Committee on Artificial Intelligence (CAHAI). Feasibility Study(オンライン),入手先 〈https://rm.coe.int/cahai-2020-23-final-eng-feasibility-study /1680a0c6da〉(参照 2025-01-15).
・中村征樹:サイエンスカフェ,科学技術社会論研究, Vol.5,pp.31-43(2008).