Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

活動レポート
アクティビティ・プラスを超えた活動へ
―大学院生が住民と協働しながら離島・隠岐の島町でのまちづくりに関わる意義を求めて―<後半>

2020/11/5

執筆者:島田広之(文学研究科)・田尾俊輔(言語文化研究科)・小島晋一郎(理学研究科)

1.私たちの活動の軌跡:2019年→2020年(<前半>からの続き)

1-4.プロジェクトを超えて:様々な人脈の形成とチームワークの醸成


 次に,プロジェクトを超えた様々な波及効果について紹介したい.隠岐の島町での滞在期間中には,事前に予定していたインタビュー以外にも,多様なステークホルダーの方々から話を伺う機会がたくさんある.私たちが活動拠点としている京見屋分店は,地域の方々や観光客が集まるコミュニティの拠点として広く愛されており,隠岐の島町内外の方々が交流を求めて訪れる.その際に,店舗の一部を借りて活動している私たちのことを主(あるじ)の谷田夫妻が訪問者に紹介し,そこからコミュニケーションが始まる.話題は本活動のテーマである教育に関することだけでなく,日々の生活で感じていることや将来への思いなど多岐にわたり,その多くは私たちのフィールドワークに広さと深さを与え,実践における新たな視点をもたらしている.来島する度に,主は「会わせたい人がいる」とたくさんの方々を紹介してくれるだけでなく,偶然店に訪れた観光客の方にも「面白い学生たちが来ている」と言って出会いの機会を即座に作ってくれる.主の人柄,そして地域にも観光客にも開かれた京見屋分店の場所性は,私たちが開催するWSの企画内容を思いつくきっかけにもなっている.
 また,滞在期間中に町内の居酒屋などで地域の方々と交流したことも,プロジェクトの進行には重要であったと思われる.翌日に仕事があるのにもかかわらず,朝方近くまでいろいろな話をしてくれた地域の方々の助言によってプロジェクトを批判的に見つめ直すことができ,またその場で新しいアイデアが生まれ,様々な活動が動くことにもなった.まだまだ半人前のフィールドワーカーである私たちにとって,このような地域の方々の歓迎と手厚いフォローがなかったなら,これまで紹介してきたような活動を成功させることは不可能であっただろう.
 フィールドワークの夜の時間は,上述のように地域の方々との交流はもちろんのこと,私たちがチーム内で議論する時間にもなっている.実践活動において,目下のプロジェクトの進行は最優先事項である.その一方で,「活動そのものが社会課題の解決に本当に繋がっているのか」といったプロジェクトに対するメンバー各自の視点からの議論や,「私たちの専門性は地域に対して本当に貢献できているのか」といった超域プログラムに参加する意義に関わる本質的な議論,それらを包括した上でのプロジェクトの再考察が夜な夜な展開された.異なる専門分野から集まったメンバーが一つのチームとして活動し,率直に議論を行なうこと.この夜の時間は私たちにとってチームワークの醸成だけでなく,個々人が自身の活動や将来のビジョン,各自の専門性を見つめ直す時間として非常に重要だった
 このような「社会課題解決」「学際的共同研究」という探究テーマに対し,私たちはその答えを現在も追求し続けているのだが,実践活動という総合的な課題においては,専門性や性格がそれぞれ異なるメンバーがプロジェクトとの親和性を探りながら,時にはリーダーとして牽引し,時にはサポーターとしてフォローするといったように,役割を柔軟に変えつつ活動することが一つの答えとなり得るのではないだろうか.2019年度の本活動は,一言でいうと離島での教育機会格差を巡る課題解決プロジェクトであった.しかし,活動内容を詳細に見ていくと,WSの運営や研究会の開催,地域住民主体の塾の立ち上げ・運営参加など,多種多様なものである.さらに言うと,例えばWSは参加者やファシリテータ,方法論を考える役,記録者の他にも,些細ではあるが日程調整やまとめ資料作成などの多くの役割があって成り立つ活動であるといえる.チームメンバーが専門分野を超えてお互いを理解できたことが役割分担を円滑にさせ,分担を柔軟に変更しつつも,WSを成功に導くことができたと考えている.つまり,単なる表面的な専門性に囚われた役割分担ではなく,各メンバーの強みや弱みを複合的に捉えることができるだけのチームワークを私たちは築くことができた.
 もちろん,チーム内での意見の対立や方針をめぐる激論,エフォート過多によって生じる衝突は多々あった.特に,修士論文執筆及び提出の時期と活動が重なってしまったことは,多くのメンバーにとって負担であった.台風や現地の方々の都合など様々な要素が重なって,普段の大学の授業ではあり得ないような過密スケジュールになったこともある.そのような中で,各々の予定の合間を縫って活動を行なった経験は,今後超域プログラムを超えて直面し得る複数のプロジェクトをかけ持ちながら成功に導いていく際の糧となるだろう.本活動と各自の専門研究の両立は時間的にも精神的にも大変な部分はあるが,達成した時に得られる経験値は何物にも変えがたいものである.

(注)
単なる店主という意味合いではなく,店主の意志や人柄に注目した表現として主(あるじ)を用いている.詳しくは,田中ほか(2007)を参照されたい.
各自の専門性が活動にどのように貢献できるのかという議論については,島田ほか(2020)を参照されたい.

2.私たちの活動へのまなざし:隠岐の島町の住民と元活動参加メンバーから本記事に寄せて

 次に視点を少し変えて,隠岐の島町の住民が私たちの活動に対してどのような印象を抱いているのかを見ていくことにする.以下に取り上げるのは,現地でのコーディネーター的役割を担っていただいている隠岐の島町役場の舟木睦氏と,私たちが現地での活動拠点としている京見屋分店の谷田一子氏からのコメントである.私たちがチームとして一つの方向を決めて活動を進めることができ,様々な出会いを織り成す中で未来を考える機会を生み出せていることが特に評価されているようである.

【舟木氏から】
 出会いと“思いつき”にあふれる1年間.現地WSをきっかけに生まれた「隠岐塾」など,アイデアが形になり「ただならぬことが起きている」という興奮を覚えます.堤研二教授の研究をきっかけに始まった隠岐での交流と実践が,“未来”に向けて発展することを楽しみにしています.この町に,いい風を吹かせましょう!

【谷田氏から】
 研究チームの学生さん達には,今回の取組,『このまちの明日を語る』WSに関する一連の流れの中で,何度も島に足を運び,島のくらしの中にある魅力や課題にむき合いつつ,私達と共に『島の未来』を考えて頂きました.専門的で深い知識を生かした視点と発想は,小さなコミュニティの中で暮らす私達にとって大きな刺激となりました.
 具体的なところでは,WSによって島への熱い思いを持つ人達が一堂に会して繋がりあう機会ができたこと.それはとても意義深いことでした.それをきっかけとして有志の若者達が決起,『島に塾を』という願いに寄り添う形で『隠岐塾』というボランティアの無料塾が動き出しています.島には大学がありません.塾に参加した中学生にとって,対面で,または遠隔で,大学生と関わりながら学ぶ機会ができたことは貴重な経験だったに違いありません.大学の学びがこうして遠く離れた地方に生かされること,その機会を頂けたことに,深く感謝しています.

 また,本活動は,かつて参加していたメンバーにとっても多くの学びが得られるものであったようだ.次のコメントは,元超域生の中野将氏によるものである.

 私は修士課程までを対象とする準履修生として超域に所属していました.本来,超域は博士課程進学者を対象に開かれたプログラムであり,準履修生に与えられる社会課題解決に挑戦する機会の少なさが自分の中で納得が行かず,アクティビティプラスの制度を利用して隠岐の島町での活動に参画することにしました.
 その活動は,新しい「人と人の繋がり方」を模索することがテーマでした.活動を通して,自身の専門外にある乗り越えなければならない壁があり,そもそも本活動を維持するためのチームワークの難しさもありました.
 現在,一般企業の研究者として働く私にとって,プロジェクトの先にある希望を見出し,それに向かって果敢に挑戦し,社会に新たな価値を提供する楽しさを道半ばながらも勉強できた活動だったと思います.

3.私たちの活動の再考と今後の展開の方向性

 最後に,私たちが行なってきた活動を改めて振り返ってみる.1-1にて述べた2つの目標に関して,私たちが(Ⅰ)社会課題解決のための活動を上記の流れで進めていく中で,(Ⅱ)離島での大学院生としてのアイデンティティについて気づいたことがある.それは,島内ではあまり見られないキャリアモデルの一例としての大学院生という身分を有していること,そしてその身分にて現在進行形で活動することが専門分野の別を問わずに期待されていた一方で,専門分野を超えて活動したからこそ私たちの役割は多様なものになり得たということである(島田ほか 2020).
 活動をする中で私たちがチームとして意識してきたのは,単なる分業で終わらせるのではなく,活動内容ごとに担当者は決めつつもメンバー全員が対処できるように知識や技能,経験を共有していくことである.それに加えて,メンバー全員が自分事として捉えられるテーマであるまちづくり活動(2019年度は特に地域における教育)を通して,各々の専門性を見つめ直し,改めてそこからテーマの内容を再構築するというプロセスである.これらの過程には,真の協働へと繋がるヒントがあるのではないかと考えている.また,一つの活動を最初から最後まで一貫して全員が責任感を持って取り組むという経験は,普段の授業だけでは得にくいものであると感じられた.さらに,活動を通して,メンバー各々の専門力というよりは汎用的能力が求められることが多く,専門力が必要となる状況は現地の住民が私たちをどの視点から見るのかによって左右されることも印象的であった.
 さらに,本活動を通して,多くのステークホルダーの方々と関わることができ,そこでの経験は,今後研究者として活動していく上でかけがえのないものとなった.その中で,地域課題に関わる上で短期的には解決されにくい構造的な課題や,大学やコースワークという枠組みに関係なく当事者として活動し続ける地域の方々の存在に気づかされた.そして何より,私たちにとって,これらの活動のやりがいが大きかったことから,地域の方々からの賛同が得られる限り,2020年度以降も活動を継続することにした.
 ところが,2020年度も新たな企画を展開しようと考えていた矢先に新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい,現地での活動が難しくなってしまった.現在は,隠岐の島町とオンラインで繋ぎながら,今だからこそできることを模索している最中である.私たちには,現地に対して大学院生としての新たな関わり方を紡ぎ出すことが求められているといえる.
 今後,今しがた指摘した内容を心に留めつつ,隠岐の島町での新たな活動方法を考えていくことになる.そして,この活動に関わる人が増えると,上記の学びや考察は更なる深みを増すことになるだろう.興味を持たれた方は,ぜひ私たちまでご連絡ください

(注)
注ⅴに記載しているウェブサイトからもアクセスできるので確認されたい.

文献・ウェブサイト

  • 島田広之・田尾俊輔・小島晋一郎・中野将・岩泉達也(2020)「住民と大学院生の協働によるまちづくり活動の展開―島根県隠岐の島町での活動報告―」『Co*Design』8,49-74.
  • 田中康裕・鈴木毅・松原茂樹・奥俊信・木多道宏(2007)「コミュニティ・カフェにおける『開かれ』に関する考察:主(あるじ)の発言の分析を通して」『日本建築学会計画系論文集』614,113-120.
  • Casual Researchers(online)「このまちの明日を語るworkshop(島根県隠岐の島町)」,https://trans-cbi.com/activities/workshop-okinoshima/,最終アクセス日:2020年9月24日.