Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

活動レポート
アクティビティ・プラスを超えた活動へ
―大学院生が住民と協働しながら離島・隠岐の島町でのまちづくりに関わる意義を求めて―<前半>

2020/11/5

執筆者:島田広之(文学研究科)・田尾俊輔(言語文化研究科)・小島晋一郎(理学研究科)

1.私たちの活動の軌跡:2019年→2020年

1-1.活動のはじまり:隠岐の島町と私たち


 日本の本土にある島根半島から北東に約80km.対馬海流による恵みで海の幸が豊富に採れ,日本列島の成り立ちを知るための地質現象が蓄積され,自然の雄大さを肌で感じることができる場所.世界ジオパークにも認定されたその場所が,私たちが活動を行なう島根県隠岐の島町である.
 「人口減少」は今や至るところでよく聞く問題であるが,隠岐の島町も例外ではない.現地の方々の話によると,近年,中学校や高校の卒業と同時に島外に出る子どもの割合が高くなっている.例年では中学校を卒業した生徒のうち2割程度が島外の学校に進学するらしいが,2019年はその割合が3割を超えたとのことである.若者が町の活力になることは,同じ隠岐諸島にある海士町の事例を鑑みても明らかだ.隠岐の島町のような離島において,人口減少に伴って生じる様々な社会課題を抑制したり解決したりするためにはどうすればよいのか.そして,大学院生がそのプロセスに関わる意義は何であるのか.私たちは,2019年度からこのテーマに取り組み続けている
 本活動のきっかけは,2018年度に活動メンバーの一人である島田が,自身の専門である人文地理学のフィールドワーク先として島を訪問し,本活動のキーパーソンである京見屋分店の谷田夫妻と出会ったことである.その時,私たちは超域プログラムで学んだ社会課題解決のための手法を授業の枠に収めずに実践する場を求めていたが,島田以外のメンバーは専門研究の分野的にそのような機会に出くわす可能性が少なく,燻っている状態だった.一方,島民には島を盛り上げたいという思いがあった.そのような中で,私たちの「超域プログラムでの学びを実践して確かな力として身につけたい」という強い思いと,谷田夫妻の「島で何かやりたい」という静かなる野望がマッチした.そして,「地域における教育」というテーマのもとで住民と大学院生が協働する活動が始まったのである.
 改めて述べると,本活動の意図は,私たち大学院生の専門性を活かした研究及び実践活動を展開し,住民との交流を通して隠岐の島町の社会課題を解決するための活動を行なっていくというものである.活動当初は,(Ⅰ)教育機会格差をはじめとする地域に潜む社会課題の解決と,(Ⅱ)現役の大学(院)生が少ない離島での私たちのアイデンティティとは何かという問いの探究2項目を目標に掲げてプロジェクトの設計を行なった.単年度(2019年度)の計画としては,複数回のワークショップ(以下,WSと示す)の開催を目指し,そこで議論された課題についてさらに深掘りしていくことを想定した.

(注)
詳しくは,島田ほか(2020)を参照されたい.1は,当該論文を簡潔にまとめつつ,補足事項や最新の内容を加筆したものである.
本活動は,2019年度は大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムのアクティビティ・プラス(現:グループ型自主活動支援)の助成を受けて展開した(企画名:縁辺地域における教育機会格差是正のためのケーススタディワークショップの開催,申請代表:島田広之).2020年からは大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)の支援を主に受け,活動を継続している.
京見屋分店は,お茶・うつわ・くらしの道具・おくりもののお店である.


1-2.活動の具体的な流れ


 持続的に課題が解決され,新しいことや面白いアイデアが次々と生み出されていく状態を作り出すためには,まずは地域の全体的な活力の向上を目指す必要がある(図1を参照).このような道筋を仮定した上で,初めのステップに到達することを当面の目標に掲げて,私たちは住民と協働しながら2019年度のアクションを起こした(図2を参照).

理想状態とそこに至るまでのロードマップ

図1:理想状態とそこに至るまでのロードマップ(島田ほか 2020)



2:2019年度の活動スケジュール

図2:2019年度の活動スケジュール(写真左:WS,中央:研究発表会,右:隠岐塾)

 具体的には,(1)隠岐高校にて高校生から大学院生への質問会を開催する,(2)住民がやりたいことを気軽に語らうことができる町の居場所としてのWSを継続的に開催する,(3)隠岐高校と大阪大学の共同で研究発表会・座談会を開催する,というものだ.(1)と(3)は,島内には通常存在しない大学院生と高校生の間に接点を生み出すことで島内と島外の高校生間の教育機会格差を縮めると同時に,私たち大学院生の本企画が高校生にとってのキャリアモデルの一つとなることで,高校生自身が将来どのように地域に関わることができるのかを考えるきっかけにするという目的がある.また(2)としては,隠岐の島町に関わる人々の協働を可能にする環境を着実に醸成していくために,住民と私たち大学院生を含めた様々なステークホルダーとが隠岐の島町にてやりたいことを気軽に語らえる「まちの居場所」として,「このまちの明日を語るworkshop」シリーズの開催に着手した.そして,このWSシリーズで生み出された「中学生向けの塾を開く」というアイデアが,隠岐の島町の住民が主体となって運営する「隠岐塾」として実現することになった.私たちは塾の立ち上げ時に関わり,現在も継続的に運営に関わっている.これらの活動の詳細を1-3で説明していく.


1-3.活動のピックアップ


1-3-1.WSシリーズ:このまちの明日を語るworkshop

 2019年11月より,私たちは「このまちの明日を語るworkshop」シリーズを主催している(図3を参照).隠岐の島町内にある京見屋分店にて,毎回10名程度の参加者が大きなテーブルを囲み,飲み物を片手に隠岐の島町の課題と今後やっていきたいことについて気楽に語り合う場である.各回のWSで出されたトピックやアイデアについては付箋に書き出し,ある程度グルーピングをした上で,会場の京見屋分店に貼り出すことにしている.お店に来た人はそれに対するアイデアや意見を自由に書き込むことができるという仕組みである.また,開催者である私たちの方でデータ化・可視化してまとめておき,次のWSの時にそれらを印刷したシートを配るという工夫も施した.

WSの宣伝用ポスター

図3:WSの宣伝用ポスター(vol. 2の時のもの)

 執筆時現在(2020年9月)においては,コロナ禍で現地に訪れることができないという制約のもとで,オフラインとオンラインのブレンド型WSを開催するための準備を進めている.しばらくはこの形式でWSを開催しながら,より議論を円滑に進められるような工夫を模索していくことになるだろう.また,これまでのWSでコンテンツの開発や情報の見える化といった話が出ており,そのプラットフォームの作成を進行中である

(注)
京見屋分店(online, a)も参照されたい.
プラットフォームをCasual Researchers(online)にて作成している.

1-3-2.隠岐高校と大阪大学の共同企画:研究発表会「この町の今と未来を語ろう」

 2019年12月19日(木),大阪大学と隠岐高校の共同で研究発表会を行なった.プログラムは,隠岐高校で実施されている地域研究型PBLであるジオパーク研究の発表,私たちが行なってきた隠岐の島町での活動報告,大阪大学文学研究科の堤研二教授による6年間の隠岐の島町での研究報告,及び隠岐の島町の未来を考える座談会である.
 隠岐の島町で一番大きな会館である隠岐島文化会館大ホールで開催された本発表会は,高校生にとっては大人数の前での貴重な発表機会であった.また,私たちにとっては,地域の方々に自分たちの研究発表を聞いてもらう場であり,大学院生としてどのように研究実践活動を行なっているのかを高校生に対して紹介していく場でもあった(図4を参照).

発表の様子

図4:発表の様子

 そして座談会では,堤教授によるファシリテーションのもと,隠岐の島町副町長の大庭孝久氏,株式会社吉崎工務店専務取締役の吉崎英一郎氏,島根県立隠岐高等学校長の西村隆正氏に加えて,隠岐高校の生徒2名と大阪大学研究チームの代表1名(島田)がパネリストとして,「この町の今と未来を語ろう」というテーマで議論を行なった.壇上では,隠岐の島町を今後どのようにいきたいかについての建設的なディスカッションがなされ,産・官・学の有機的な連携によって明るい未来が作り出せるのではないかという提案がなされた.
 発表及び本企画の運営に携わった私たちにとっては,常日頃から欲していた実践経験の場を得ることができただけでなく,地域の方々の意見を広く聞くことができる貴重な機会でもあった.また,本企画終了後には来場された方々との意見交換を通して各々の熱い思いに直接触れられたことが,私たちが本活動の意義を再確認する契機になったといえる.

1-3-3.島内中学生向け学習塾・隠岐塾の展開

 隠岐塾はWSで話題になった数々のトピックの中で,初めて実現に至ったアイデアである.このアイデアの背景には,隠岐の島町には中学生向けの学習塾が非常に少なく,それが島外との教育格差が生まれる要因の一つではないかという問題意識がある.
 隠岐塾は,その理念として「自習を超えた自学を目指した学習場所」を掲げており,「学習に前向きに取り組む環境整備,未来に希望を抱くための仕掛けなど,更新しながら中学生に学習場所を提供」するとしている.2019年12月に始動した本塾は,定期考査前などに不定期で開講されており,2020年9月現在,これまでに4回開講されている.塾の運営メンバーは町役場の職員や学校の教員など主に現地のスタッフで構成されており,私たちも運営メンバーとして1回目は現地で参加し,2回目以降はオンライン会議システムZoomを通して参加している.
 現地入りした1回目は,冬期休業の課題について中学生にアドバイスを行なったり,中学生から寄せられた質問に回答したりした.それと同時に,私たちが同じ空間で自身の勉強や研究活動をすることで,中学生にとって大学院生が学習者モデルの一例になることも意識した.2回目以降は,オンラインを通して,現地の会場に集まった中学生と雑談をしたり勉強や進路についての質問を受け付けたりしている.中学生からの質問をいくつか挙げると,「暗記が苦手だからその方法を教えてほしい」や「理科で計算問題が出たときに単位換算でミスしない方法を教えて欲しい」といったものがあった.それらに対して,「習ったことを翌日や翌々日に復習すれば定着率が上がる」や「簡単な計算でもしっかり書き込んでおくとミスが減る」といったアドバイスをした.
 最近では,隠岐塾の活動が口コミで広がり,隠岐塾に来る中学生だけでなく,現地の運営メンバーも着々と増えている.その結果,隠岐塾の活動に多様性が出てきた一方で,私たちと年齢や学歴の近いメンバーが多くなり,大学院生という立場が活かしにくいという問題が生じている.そのため,前段落で述べたようなアドバイスや勉強法の提示に留まらない,中学生との関わり方を模索する段階にきていると感じている.

(注)
隠岐塾(online)や京見屋分店(online, b)も参照されたい.
1回目は冬休み中の6日間(2019年12月28日~30日,2020年1月4日~6日),2回目は学年末試験前の5日間(2020年2月17日~21日),3回目は学期末試験前の4日間(2020年6月22日~25日),4回目は夏休み中の8日間(2020年8月3日~10日)である.

文献・ウェブサイト

  • 隠岐塾(online)Facebookページ,https://m.facebook.com/okijuku/,最終アクセス日:2020年9月17日.
  • 京見屋分店(online, a)「この島の今と未来を語ろう」,http://kyomiyabunten.com/blog/bunten/2019-12-18/,最終アクセス日:2020年9月17日.
  • 京見屋分店(online, b)「秋の始まりと『隠岐塾』のこと」,http://kyomiyabunten.com/blog/tedium/2020-9-14/,最終アクセス日:2020年9月17日.
  • 島田広之・田尾俊輔・小島晋一郎・中野将・岩泉達也(2020)「住民と大学院生の協働によるまちづくり活動の展開―島根県隠岐の島町での活動報告―」『Co*Design』8,49-74.
  • Casual Researchers(online)「このまちの明日を語るworkshop(島根県隠岐の島町)」,https://trans-cbi.com/activities/workshop-okinoshima/,最終アクセス日:2020年9月24日.
  • <後半>に続く