インタビュアー:2014年度生 堀 啓子
2015年度生 猪口 絢子
2016年度生 井奥 智大
写真撮影:2015年度生 勝本 啓資
インタビュイー:2016年度生 石井 大翔

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。超域プログラムは5年制博士課程と並行して、5年制博士課程の2年次に進級する学生や4年制博士課程に入学する学生で、本プログラムでの1年分の履修に相当するものを既に有していると認められる人を対象に、編入生の枠を若干名設けています。Vol.24の今回は、選抜試験前の特集として、工学研究科環境・エネルギー工学専攻で原子力工学を研究する石井大翔君(超域2016年度生)にインタビューを行い、編入生という視点から見た気づきや学びについて話を伺いました。編入生として2015年度生と2016年度生のカリキュラムを経験し、同期のみならず先輩とも頻繁に活動するなかで、何を感じ、何を思うのか。特に大学院2年次からの超域編入を考えている方必見です。

取材日 2016年10月7日

■ 超域に入る前と後の変化

インタビュアー井奥:石井君は、関西大学環境都市工学部エネルギー環境工学科を卒業して、阪大大学院のM1へ。で、更に超域に応募してきている。それってハードルの高い決断だったと思うけど、どうして超域に入ろうと思ったの?

石井超域のコンセプトと自分の考えが一致してたからかな。それに学部時代に英語ディベート活動を続けていた中で、理系でありながら文系の知識を持っていると役立ちそうと思っていたから。ドラッガーを読んだり、学際融合という言葉も聞いてたりしたので。文系の経済とかの話が単純に好きだったことも動機になった。そんな感じで以前から「領域を超える」という考え方に興味を持っていたから、超域に入る敷居は普通の人より低かったと思う。自分が専門にしてる環境というテーマは、学際融合していくことと親和性が高いしね。

インタビュアー堀:超域に入る前のイメージと入った後の実際とでは、超域生はどう違った?

石井:中に入ってみると、超域生は意外と普通。自分の中で超域生を神格化してしまっていたんだけど、関わりをもってみると思ったより普通の学生が多いという印象を持った。神ではなく普通の学生だけど、何でも頑張ってやる、成果を出す努力を惜しまないんだよね。研究も授業も頑張れるし、学習意欲が相対的に高い。超域生はみんな生きる力というか芯があるのが特徴。だから一緒にグループを組んでも学びが多いし、期待できる人が多い。入ってよかったと思う。

■ 研究科との両立

デザイン思考

井奥:超域に入って半年、活動を振り返るとどう思う?研究科との両立は大変じゃない?

石井:超域の履修と研究業績を積み上げていくことはトレードオフ(どちらか一方の選択が他の行動を制限する)の関係ではなく、超域と研究は相乗効果を生み出すのだと思う。常々、周囲からは超域をやってると研究の時間がなくなるのではないかと聞かれるよね。確かに時間は有限で、超域を履修することで研究に割り当てることのできる時間は減るけど、僕は両者が相乗効果を生むと考えているし、実際に相乗効果を生んでいることを実感してる。

井奥:「俯瞰性をもたらす超域」と「専門を深める研究科」の相乗効果を実感したんだね。具体的に教えてくれる?

石井:自身の研究を俯瞰的に見つめて、社会的な意義という点から研究を位置づける視野を持ち合わせたことかな。たとえば、研究内容を専門外の人に伝える際の分りやすい説明に繋がっていくことを体験できた。細分化が進み視野が狭くなりがちな理系分野の研究で、自身の研究の社会的な面での貢献を積極的に発信できる機会や手段が持てていることは自身の強みだと思う。その視点は超域に入って、授業を受けたり、同期生と日常的に会話したりする中で身に着けることのできたものだね。一方で、日常の生活においても、超域の履修で身に着けた「短期間で高水準の成果物を出す」という意思を習慣化することができた。研究に取り組む際にも、同じ心持ちで取り組めていると感じている。自分の場合は超域の履修が研究業績を後押ししていると考えているし、どの分野においても研究と超域は両立するように思う。

■ 超域で何が身に着いたのか?

井奥:相乗効果に限らず、超域に入ってから得たことは?

石井:まず、学内での交友関係がひろがったことかな。博士後期課程に進学しようという同じ志をもった人と知り合えた。これは2016年度生と2015年度生両方に対して言えることなんだけど。あと、超域のコンセプト(専門性×汎用性)に則って言えば、汎用性の部分は自分だけでは切り開くのには限界があることを悟った。というのは、汎用性を広げるには他分野のことを学ぶ必要があり、一から他分野のことを自分で勉強するのは時間的にもコストが高いから。だけど、超域で他の研究科の人と話したりすることで、学ぶハードルを下げることができるよね。それが、知の汎用性を広げる上では役立っている。他の専門分野という点以外でも、学生一人一人との付き合いの中で、気づくものがいろいろある。みんな考え方や視点が違うから。より多くの学生と関わることができるという意味で、入学年度単体で活動する他の履修生に比べて、編入生としてプログラムを履修できる自分は恵まれていると思う。

井奥:確かに人脈は広がるね。具体的にはどんなプラスがあった?

石井:他の学年の先輩とも知り合えたから、お手本になる人が増えたことも利点の一つかな。この夏に、長崎県対馬市でのフィールドスタディー企画があって、僕は積極的に企画班に参加していたんだけど、その企画には2013年度生以外のすべての学年から人が参加していたんだ。そこで先輩方が、デザイン思考などの講義で学んだ手法を、外部の人を巻き込んで実践するということを企画・実行まで主導して行っていたのを見て、“実践する”とはこういう事か、と学べた。また先輩たちの、訪問先において「直接訪問した際にしか得ることのできない情報」を、的確な質問で相手から引き出すという質問力にも感心した。こんな機会を沢山持てたら、自分はもっともっと成長できると思う。

デザイン思考2

井奥:先輩は先にいろんなことを経験しているから学ぶことが多いよね。おれももっと先輩たちと絡んで学んでいきたいと思ってた。

石井:うん、そうだね。それから、超域の授業から学び得たことについてもう一つ挙げると、さっきの相乗効果の話と重なるけど、自分の研究をわかりやすくアウトプットすること。これは本当に役に立っている。学会などでは、専門知識を持った人に対して話すから理解してもらえるけど、一般的には、自分の研究ってどう評価されるかわからない。それって社会とか外部に出して初めてわかるものなんだけど、その前に自分と専門の違う人に研究について話す機会はふつう得られないんだよね。超域ではそういう機会を持つことができる。例えば、研究室エクスプローラ。これは様々な領域の研究科・研究室の研究対象や研究手法を学ぶ授業なんだけど、そのなかで自分の研究を発表する機会があった。いつも通りの発表内容でプレゼンをしたところ、「これはさすがに伝わるだろう」と自分が思っていたことでも伝わらなかったことがあった。そういう気づきがあったのは大きかったかな。自分の考えをアウトプットするという意味でいうと、プレゼンテーションの技術も向上した。何かを伝える必要に迫られた際に、まず思考を整理する、相手を理解する、説明の方法を考える、言葉を選ぶ、話し方を工夫するなどの細かな点を意識できるようになった。それは超域の授業が双方向型の授業が多いからだと思う。

研究室エクスプローラ

■ 超域コミュニティと多様性

井奥:編入生として、同期の2016年度生だけでなく、超域の色んな代のコミュニティに接していると思うんだけど、そんな石井くんからみて、超域生の各世代はどんな感じ?

石井:2016年度生は調和型で、ハーモニー重視。集団で成果を出すことに重きを置く傾向があるよね。2015年度生は「超域イノベーション展開」でがっつりグループワークをしたんだけど、個々のパワーが強くて、一つのことに自分自身で強く考えている感じがしているよ。両方とも学ぶ姿勢は強いけど、重きを置くところは違う。

井奥:協調性に重きか、主体性に重きか、とも言えそう。まずは2016年度生を石井君はどう見ている?

石井:2016年度生の良いところや姿勢は社会的に受け入れられやすいと思う。みんなそれぞれの専門分野からみた問題解決の糸口を知っているし、色んな知識を持ってて、話をしていて楽しいよね。ディスカッションを建設的に行いやすい雰囲気もあるし。

井奥:逆に2015年度生と授業を受けていて学んだところはある?

石井:良いと感じたのは個々の主体性。超域が望んでる強い人材が育つポテンシャルがあるように思えた。手本にしたいし、学べることが多い。刺激が強い。社会に出た時にも、コミュニティにそれぞれの形で寄与ができる人なんだろうなと思う。自分の力がちゃんとあって、いろんなことの解決方法を知ってる。一般的にいう、スペックが高い人が多いんだと思う。

展開

井奥:グループワークの中で、個々の主体性が強い2015年度生はどういう風に折り合いやコンセンサスをとってるのかな?どういうプロセスで合意に至っているように見えた?

石井:うーん、それは課題の目的に依存すると思う。その時その時で目的、それを達成するための最適な行動が違う。その目的の共有ができていれば、その時自分のとるべき行動を理解して、それぞれが自分の役割を果たそうとしているように見えた。つまり、状況の変化を見ながら、やるべきこと、したいことの優先順位を変えることでコンセンサスをこまめにとろうとしているんだと思う。

井奥:それぞれと課題に取り組む中で何か意識していることはある?

石井集団の中のバランスで自分のポジションが変わる、そして変えることは意識しているよ。2015年度生の中に入った時は、ある意味「部外者」というかノイズ的効果になろうと思ってる。慣れ親しんだ型に沿って進む時にできる隙みたいなのを見つけて指摘することで、最終成果物の質を上げることに貢献しよう、みたいな。2016年度生の中では、自分は一つ上の学年でもある分、ちょっと視野を広げた提案を心がけているかな。全体を見て足りてないことに気付くとか、自分の力を試すような取り組み方をしている。

井奥:2015年度生の、既に構築済みのコミュニティに入って衝突することはある?

石井:意見の食い違いは当然あるよ。その中でも気をつけているのは、自分の話が必ず通ることを前提に置かないこと。部分的にでも自分の発言によって生み出せる価値があればいい、という心づもりを持っているんだ。

■ 自分と超域の今後について

:自分の将来と超域とのつながりについてはどう思う?

石井:教育プログラムのT字理論(広い汎用的知識と深い専門知識)に基づく力が発揮されるのは20年後とかだと思う。社会に出てからも下積みがあって、すぐにリーダーになれるわけじゃない。その基盤を今作ってるんだと思ってる。将来社会で活躍する人間が出た時に、その人は実は過去にリーディング大学院を出てた、みたいになるといいよね。成果がすぐ出ないことは、わかっててほしいな。ただ履修生は現状に甘んじずに努力を続けてなくてはいけないとも思っているよ。これからの40年の中で、どう活かすか考えながら自分は生活を積み重ねていきたい。

井奥:超域はどう石井君の研究にどう活きていくのかな?

石井:自分は原子力工学を勉強してて、日本の原子力産業の抱えている問題が本当に複雑で一筋縄での解決が難しいことを肌で感じている。課題を一つ一つ見つめる中で超域の履修を通して学んだことの1つ1つが生きてくると思う。「超域イノベーション博士人材」として自分を生かすことができる将来のキャリアを設計できたら良いな。

井奥:超域で成長した自分を生かすことができるキャリアとしてどう描いている?

石井:自分の場合は、エネルギー問題、とりわけ原子力政策に貢献できる博士人材になりたい。原子力産業は、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の問題、福島の復興、原発立地自治体とのリスクコミニュケーションといった解決までに時間がかかる問題が山積している。専門分野に特化できる力を備えているだけでなく、具体的な問題の解決へ導く人材が必要とされているんだよね。幅広い知識と専門的な強さが必要とされる場所で日本人として働けるのが理想。例えば国際原子力機関(IAEA)には原子力防災計画を専門に取り扱う部門が設置されているんだけど、そこでは原子力の専門家だけでなく行政や医療などあらゆる分野に精通した人が協働している。そういう場所で修行ができたら社会の要求に応えられるような気がしている。

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 専門領域だけでなく、学年も超えた様々な人々とネットワークを築いていく石井君。超域で築いたネットワークから見識を広げるとともに深め、専門性と汎用性を高めようとする姿が見られました。これからの日本原子力産業が抱えている問題解決にどう貢献していくのか。石井君の成長を活躍に期待したいと思います。超域では、尖った専門性とともに、広い汎用性をも求める学生の参加をお待ちしております。