プログラムコンセプト

はじめに

 今日の世界は、優れた知恵の競い合いが顕著になりつつある時代です。科学と技術の発展は社会の変化を牽引してきましたが、社会においては、環境問題やエネルギー問題、経済発展に伴う貧困や格差の出現、人口減少社会などに代表される様々な問題や課題も深刻さを増しています。知の爆発的な拡大が際限のない専門分野の細分化をもたらしており、現実の問題や課題の複合的な性質にうまく対応できなくなっています。今日、諸々の複合的な問題や課題を解決していくためには、特定の分野における高い専門性を有することはもちろんのこと、全体を俯瞰した上でその専門知を他の専門知と統合して活かしていくことができる独創的な力が求められています。

変貌するイノベーションのすがたと「知と社会の統合」

concept1-zu-1

 現代において、学術が生み出す様々な知識がものごとを動かしていくしくみとして社会をより良いものにしていく上での原動力の一つになっていることに疑う余地はありません。しかしながら、学術に限らず、社会そのものが成熟してきたことを受けて、その知と社会の関係は静かにしかし大きく変貌しつつあります。
 かつて、“How to do”を創り出すインベンションはほぼそのままのすがたで世の中に変革をもたらしました。やがて、“How”を束ねひとつのしくみとして“Something new”を創り出すイノベーションが重要になりました。今日では、イノベーションで狙うところを見定めておくことも求められるようになって、“How”を束ねるに先立って“What to do”が問われています。目指す“What”のためには、社内・社外に限らず、あらゆるところに“How”を求めるようになっていて、昨今、各方面でオープンイノベーションが求められています。しかしながら、社会を取り巻く種々の未知で複雑で困難な課題に挑んでいくためには、なぜ、それをするか、何のためにそれを行うのか、また、場合によっては、敢えて行わないのか、しくみがもたらす価値そのものが問われるようになっています。つまり、“Why we do”をも考えることが求められています。そのため、イノベーションの課題はエコシステムやネットワークの課題へと広がってきています。そのさらに深い問いかけ“Why”から始めるイノベーションは、“What”を問いかけるオープンイノベーションとは区別され、オープンイノベーション2.0と呼ばれはじめています※1。
 一連の変化は社会のあり様が変容しつつあることと表裏一体であり、学術が関わる「知」とリアルな場である「社会」との関係性は大きく揺らいでいます。社会そのもののしくみ、それを担っていく人々の働き方、社会の将来を牽引していく人材に求められる要件、そのような人材を育成していく大学院教育への要請などが、陰に陽に様々な影響を及ぼし合いながら、じわじわと変化が進んでいます。そのような動向のもと、大阪大学では、次なる時代に求められる教育研究のすがたに向けて、改めて社会との関係を問い直し、知の社交空間と位置づけて大学を産官民に広く開き、オープンエデュケーションによる新たな学びの場を実現しようとしています。知の協奏と共創によるオープンエデュケーションを通じて、「知と社会の統合」を図っていこうとしています※2。

参考:

※1:例えば、European Commission, Open Innovation 2.0 A New Paradigm ― White Paper、
http://ec.europa.eu/newsroom/dae/document.cfm?doc_id=2182

※2:大阪大学、OU Vision 2021、http://www.osaka-u.ac.jp/ja/ja/oumode/open2021/index.html

次代の大学院教育

 高度な人材の育成を担ってきた大学院教育は、従来、ある限定された分野で高い専門性を有する人材、つまりエキスパートの養成を主目的としてきました。しかし、前項のような時代の背景のもとで、社会が求める人材像は大きく変化しつつあります。新たな知を創り出すことに留まらず、多様な専門における知の力を駆使して困難な課題に挑んでいき新たな価値を創り出す高度な人材としての「知」のプロフェッショナルが求められるようになっています。
 文部科学省は、そうした動向と呼応しながら、平成23年度より、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官民にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くために、専門分野の枠を超えた博士課程前期・後期一貫の学位プログラムである「博士課程教育リーディングプログラム」を構築する事業を支援してきています。この博士課程教育リーディングプログラム構築への支援は、養成すべき人材像および解決すべき課題の分類に応じて「オールラウンド型」「複合領域型」「オンリーワン型」の3つの類型に分かれており、現在、全国の各大学で計62件の取り組みが進められています。
 大阪大学の「超域イノベーション博士課程プログラム」(以下、本プログラム)は、それらのうち、文理の枠組みを超えた新しいタイプの博士人材を養成するオールラウンド型において、平成23年度に提案し、採択された取り組みです。平成24年度以降、「超えることでしか生まれない」イノベーションを社会にもたらす新時代の高度人材を養成する学位プログラムの構築と履修生への教育を、次代の大学院教育の理想型の実現を目指して、全学体制のもとで強力に推進してきました。この間、平成26年度に行われた支援事業としての中間評価では、“超域イノベーション”という明確なコンセプトと新たに構築してきたコースワークの充実、さらには、履修生の着実な成長などが高く評価されました。また、経済界のリーダーの方々からは、今日の社会が直面している混沌とした諸課題の解決に向けて、本プログラムとその修了生への期待が寄せられています。それらのもと、現在、13研究科の5学年66名の大学院生が所属研究科での専門力の研鑽とプログラムでの汎用力の獲得に邁進しています(平成28年10月1日現在)。
 大阪大学では、本プログラムのそのような進捗や評価なども踏まえながら、専門知を基盤として様々な知を統合して社会においてイノベーションを起こす能力、イノベーション人材に求められる能力を「高度汎用力」と呼び、その教育の推進を第3期中期目標期間 (平成28~33年度) の重点課題の一つに据え、高度汎用力を下記の3つの力から構成されるものとして定義しています。

concept1-zu-2

 大阪大学では、学士課程から博士課程に至る様々な教育にこの高度汎用力の教育を展開していくことを展望しながら、引き続き、本プログラムを先導的な取り組みとして強力に推進していくとともに、本プログラムをはじめとする研究科横断型教育において、それらを統合した次なる進化を目指そうとしています。

「文部科学省博士課程教育リーディングプログラム」における3つの類型

■オールラウンド型 :
国内外の政財官学界で活躍し、グローバル社会を牽引するトップリーダーを養成する、大学の叡智を結集した文理統合型の学位プログラム。大阪大学「超域イノベーション博士課程プログラム」のほか、平成23年度採択の京都大学「京都大学大学院思修館」、慶應義塾大学「超成熟社会発展のサイエンス」、平成24年度採択の東京工業大学「グローバルリーダー教育院」、名古屋大学「PhDプロフェッショナル登龍門」、平成25年度採択の東京大学「社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム」、九州大学「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」、計7大学で取り組みが進められている。
■複合領域型 :
人類社会が直面する課題の解決に向けて、産学官のプロジェクトを統括し、イノベーションを牽引するリーダーを養成するため、複数領域を横断した学位プログラム。大阪大学では、6つのテーマ領域のうち、生命健康、物質、情報、多文化共生社会の4つのテーマ領域で取り組みが進められている。
■オンリーワン型 :
新たな分野を拓くリーダーを養成するため、世界的に独自かつ当該大学で最も国際的優位性ある学位プログラム。

超域イノベーションを目指して

 本プログラムは、高い志と意欲、無限の可能性を持った大阪大学の大学院生が、研究科を超えて集い、ともに学び、特定の専門知のみに精通しているプロフェッショナルを超えた、「知」のプロフェッショナルとしての新たな高度人材へと育っていくところです。
 本プログラムは、社会システムに変革をもたらす真のイノベーション、超えることでしか生まれない「超域イノベーション」を実現するハイレベルの俯瞰力と創造力を有した「知」のプロフェッショナルの養成を目指します。それは、高い専門力と専門を統合する汎用力を備えながら、専門領域に限らず、国境、既成概念、相場観といった“境域”を超える俯瞰力と大胆な変革を起こそうとする独創力により、未知で複雑で困難な課題の解決に挑み、新たな価値を生み出していくことができる「超域力」を持った、新時代の高度人材です。

concept1-zu-3

超域イノベーション博士人材のイメージ

 超域イノベーションを実現する高度人材に求められる基盤は、我々の思考や行動をいつのまにか拘束している境域を超えた思考を展開し、実践する知的体力や勇気です。本プログラムでは、そのような超えるべき「境域」として下記の8つを設定しています。

concept1-zu-4

 それらを超えていくことにより「真のイノベーション」を先導する“超域力”を具体化し、新時代の高度人材を生み出すべく、本学教員に加えて社会の多様なセクターからの参画を得て、「知と社会の統合」を目指すオープンエデュケーションの先駆けとして、従来の大学院教育にはなかった、斬新で多彩な教育を提供、実施しています。