インタビュアー:2014年度生 堀 啓子
インタビュイー:2014年度生 立山 侑佐、2014年度生 小川 歩人
撮影:2014年度生 白瀧 浩志

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。
 Vol. 16の今回、インタビューに答えてくれたのはふたりの3期生、工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻で医工学を専攻する立山侑佐君と、人間科学研究科の基礎人間学講座で現代思想を専門とする小川歩人君です。
 1年間超域プログラムでの活動を経験したふたりが、出願から現在までを振り返り、超域やこの1年間の自分の変化について本音で語ってくれました。

取材日 2015年2月2日

 

出願時を振り返る:「期待も不安もあったけど、とりあえず出した」

インタビュア:
もうそろそろ超域4期生の募集が始まるけど、ふたりはそもそもなんで超域プログラムへの応募を考え始めたの?

立山
 超域には2年生の時から興味を持っていた。出願前には、超域のことをよく知る先生にも相談したけど、自分は研究室に通うだけの大学院生活には満足出来ないと思ったし、もっと自分を追い込める環境に身を置きたかったことが出願の決め手になったかな。

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小川
 僕は研究室の先輩や先生を通して、超域の内容については前から把握していたから、超域の説明会とかには全く参加しないで出願した。海外経験を積めることや、マネジメントとか科学技術とか普段触れないテーマに触れられることが面白そうだと思っていた。出願時期が卒論提出の時期と重なっていたから、願書はかなり急ピッチで作ったけどね。

インタビュア:
なるほど。ちなみに、出願前に不安だったことはあった?

立山
 やっぱり「5年一貫」のプログラムってところが悩ましかったね。僕の場合も、博士課程に行くかどうかは確定してなかったけど、合格して履修してみてから考えても良いと思った。あとは、同期にどんな人が集まるかは凄く気になったな。超域で長時間一緒に活動する同期が一番大事だと思ったから、説明会でも参加者の方を観察したりした (笑)。けど結局は、超域を始めてみないとどんな同期がいるかはわからないと思ったから応募したんだけどね。

小川
 研究室に超域の履修生が何人もいたから、プログラムに入ると忙しくなるとか、その大変さは良く分かっていた。でもいろんな体験ができるっていう魅力が大きかったから、とりあえず選考は受けてみようと思って出願したね。

1年間を振り返る:「普通じゃできない経験ができる場。でももっと尖れるはず」

インタビュア:
実際に1年間超域プログラムを履修してみて、どうですか?何が面白かった?

立山
 普通に大学院生活をしていたら触れていなかった分野についても学べたことがよかったと思う。ライフスキル合宿みたいに,一流のアスリートから日常生活に活かせるスキルを学ぶなんて普通じゃ出来ない経験だから、かなり面白かったね。

小川
 超域に入って、今まで喋ったことのない色んなタイプの人と真剣に議論出来たことがよかった。学部やサークルの域を超えて、様々な事を議論する場って案外少ないからね。僕は将来、アカデミックな方向に進むことを志望しているけれど、多様な専門を持った履修生との議論を通して、多角的な視点や、自分が使う言語が他の研究科の人には通じないことを学べたことは、すごく意義があったと思う。あと議論の時、みんなポストイットを使って意見を整理したりして、思考を深めるための枠組みに沿って考えていくことが多いよね?そういう方法を使って思考してみたことがなかったから、自分にとってはすごく新鮮だった。

立山
 あと、語学の授業は得るものが大きい!僕らふたりは英語の授業が一緒(注:「超域アカデミック・イングリッシュ」は能力別にクラスがわかれています)だけど、おぎさん(小川の通称)は1年間で英語も凄く上達したよね?僕も超域に入ってから、英語力を磨かなきゃいけないことは痛感するようになったなぁ。

小川
 英語には苦手意識があったけど、海外で英語力を鍛える場を与えられて、自分で実感できるくらい成長できたことは本当に良かった。他の履修生も上達していると思うよ。

インタビュア
 逆に、期待と違ったことはあった?

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立山
 僕は自分だけでモチベーションを高めることが苦手だったから、超域で向上心が高い人から刺激を受けて、自分を引っ張ってもらえたらと思っていた。でも実際に参加してみたら、やるべきことが多いせいもあって、履修生全員が全てのことに対して高いモチベーションを持てているわけじゃなかった。僕も含めて、もっとアツく、学びに貪欲になれる余地はあると思う。

小川
 同じメンバーで議論する授業を1年間受けていたから、最近は議論の落としどころがなんとなく予測できるようになっちゃったと思わない?まだ学生だし超域1年目だし、もっと発散させて尖った意見を出してもいいと思う。

立山
 そうだね。意見を速く収束させるノウハウなら企業とか他の場所でも磨けるから、今は評価や失敗を恐れないで、学生らしい、超域生らしい発想を追及してもいい段階だと思うよ。

インタビュア
 確かにそういう面はあるね。だけど学外の先生から、実行可能な解を出すようにと言われる授業(「超域イノベーション導入Ⅰ」「超域理工学・工学Ⅱ」など)もあるから、そのバランスをどう取るかとか、超域生に求められているのは何かとかが、結構難しいよね。

現在:“新たな課題“を胸に、次のステップへ

インタビュア:
超域に入って1年経った今、何か得られたことはあると思う? わかったことでも、新たに持ち始めた疑問でも。

立山
 受動的に授業やプログラムに参加するだけでは何も身に付かなくて、主体的に動いて、常にその意義や目的を考える必要があるってことがよくわかった。だから今は、超域の活動以外にも、自分が本当にやりたいと思って取り組んでいる活動にも結構力を入れてやっているんだよね。

小川
 例えばどんなこと?

立山
 例えば、友達とやっているアプリの開発とか。自分の手を動かして作ったプロダクトを市場に出した時、社会から評価されることでどんなことがわかるんだろうっていうことが知りたくてやっているんだ。まあ、僕は自分の将来像とか、どんな分野の学問や仕事がしたいのかがまだはっきりしないから、それを探し当てるために色々とトライしているっていう面もあるんだけどね。

インタビュア
 まだ試行錯誤中ってことだね。小川君は?何か得られたことはあった?

小川
 経済的な視点と、いろんなレベルのマネジメントの視点を多くの人が必要だと考えていることは自分にとって大きな発見だし、将来に生かせると思う。あと若干抽象的なんだけど、自分が今後どういう立場に立った発信をしていくべきかが明確になったのは大きい。社会全体の利益を考えた意思決定をするときって、切り捨てられる小さな犠牲ってあると思うんだけど、自分の関心がそういう切り捨てられるものに対して向いているってことがはっきりしたな。社会の様々な問題に関する議論をしていて、犠牲になる側の主張を全員に知ってほしいと思ったし、そういう部分に関心を持つ自分が発信していかなくてはいけないことなんだと思えた。

立山
 そんな風に考えていたんだね。そういう考え方をしたことはなかったよ。

小川
 全体の利益のために切り捨てられる側に対して、高い感受性を持つことがリーダーには必要だと思う。しんどいことだけど、だからこそ考えるのをやめてはいけない。自分はそういう主張をしていく側になりたいと思うけど、それをうまく伝える力をつけることがこれからの課題だね。複雑な問題だから、色んなレベルの人や対象に合った伝え方ができるようにならないといけないと思っている。自分の話は専門用語ばかりで伝わりにくいと言われることが多いから、本当にうまく伝えられるようになりたいと思うよ。

立山
 一段階上の課題に到達した、って感じだね。僕は逆に、超域で様々な分野や人に触れて、自分が社会に対してどう影響を与えたいのかがますます分からなくなったっていう感じなんだよね。だから、自分の興味を足がかりに、更に色んなことに携わりながらそれを見つけていきたいと思っている。

インタビュアー
 超域で同じように1年過ごしてきたけど、ふたりの話が全然違って面白いね。

小川
 僕の視点は、アカデミック志向の人間らしい意見だと思うけど、たて(立山の通称)はもっと実践的というか、どちらかというと企業的な方に関心が向いている感じがする。

立山
 そうだね。けどおぎさん(小川)の話を聞いていると、理想的には犠牲になる小さな側面も救いたいけれど、実際はそうはいかないからどうすべきかっていうように、もとから持っていた考え方に実質的な視点も入ってきている気がする。だからおぎさんは、自分が今後選びたい立場に気付けたのかもしれないな。

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インタビュア:
4期生が入ったら、もっと色々な化学反応が起きそうだね。ここまで読んでくれた、超域への出願を考えている学部生に、一言ありますか?

立山
 出願を考えている学部生には、とりあえず受けてみたら?って言いたいかな。時間を取られることもあるけど、入ってみないと分からない事もあるからね。ただ、自分が何をやりたいのか、超域に入るとそれに近づけそうかってことはしっかり考えて、その後の学びを充実したものにしてほしい。

小川
 その通りだね。超域に入っただけでは何も決まらなくて、自分の関心が向く先はどこかっていうのは自分で見極めて選ばなくちゃいけない。だから超域で様々なものに触れて経験することを選んだとしても、常に自分を見定める姿勢を忘れないでほしいと伝えたいね。

 ひとりひとりが、異なる専門・関心・展望・悩みを持つ超域生。”スゴイ学生”なわけじゃなく、ただ超域を経由して自分の向かうべき先を懸命に模索しているだけ。そんな履修生のありのままの姿を、ふたりの3期生の言葉から知ることができました。超域2年目に突入する彼らが、次はどんなステップに上がっていくのか。超域人は、これからも超域生の等身大の姿を捉え、お伝えしていきます。