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Reported by: 大阪大学大学院 工学研究科 堀 啓子(超域 14年度生)

授業名: トランスファラブルスキルワークショップⅡ—−問題解決技法
担当教員:平井啓(未来戦略機構 次世代研究型総合大学研究室 戦略企画室・第一部門)
山村麻予(未来戦略機構第一部門)

 大阪大学 超域イノベーション博士課程プログラムでは、複雑で困難な社会的課題について多角的視野と率先力を持って立ち向かえる人物の育成を目標の一つとしています。そのため、授業の一環として、年度毎に1年次(M1):個人の問題解決、2年次(M2):狭いコミュニティでの問題解決【参考:ソーシャル・イシュー解決】、3年次(D1):コミュニティ・組織での問題解決と展開【参考:PBL】 という、「問題解決」の技法と応用・展開を意図したカリキュラムが組まれています。  本レポートではプログラム1年次の必修授業であり、個人の問題からその解決を考えるという「トランスファラブルスキルズ・ワークショップⅡ」について、14年度生の堀さんが考察しています。

授業の内容

 この授業は、担当教員である平井 啓先生のフィールドとなる医療心理学・健康心理学の研究において、「問題解決」のエッセンスを心理療法プログラムに応用した、人の認知と行動の両側面に働きかける【問題解決療法】の考えが礎となっている。
授業では、自分自身の「問題」を取り上げ、以下のような流れで【問題解決技法】を学ぶ。

1:「問題とは何なのか」を定義し、
2:「問題の解決とは何か」を学び、
3:問題解決のプロセスを理解したうえで、
4:実際に一週間をかけて解決にむけて取組む

 つまり、問題を解く技術の基本的な考え方を学んだあと、自己の問題についての問題解決を考える事でそのプロセス思考をより汎用的に用いることが授業目的のひとつである。そしてこの一連の取り組みを発表し、それに対するフィードバックを活かして更に洗練された問題解決を行うことが最終的な課題となっている。
 以下では、本授業で私自身が行った問題解決を紹介することで、他では得られない超域の授業のユニークさと、そこから得られた新たな学びについて伝えたいと思う。


自分が取り組んだ問題解決

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− 問題の定義と分析 −

 私は日頃から、集合時間に遅刻したり、出足が遅れて大急ぎで移動することが多く、このことが自分の問題であると感じていた。よって第1週目は、講義で学んだ問題定義の枠組みに従い、自身が理想とする状態(What I want)を「余裕をもって遅刻せずに集合・移動できる状態」、それに対する現在の状態(What is)を「余裕をもって集合・移動できない状態」と問題定義し、その解決を試みた。
 まず問題解決のための効果的な行動目標を設定するために、問題の分析を行った。他の受講生との議論から、朝早起きすることはできているのに家を早く出ることができていないこと、加えて、TAを行う授業のある日はぎりぎりであっても遅刻していないことから、集合時間に行く責任がある状況では遅刻をしていないとわかった。このことから、余裕をもって移動する・遅刻しないことの優先順位が高ければそれを達成できるが、その優先順位が低いため、他のことを優先してしまい出足が遅れることが問題であると考えられた。

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− 問題解決の実施 −

 以上の分析から、早く家をでることの優先順位を上げるために、余裕をもって移動することの動機となる行動目標として、遅刻せずに登校できたかを1週間分記録して発表するというルールを設定した。方法は、時間が記録として残り後から評価できるよう、朝到着したら証拠写真を撮ってLINEで人に送るというものを選んだ。このルールを実施することを行動目標とし、第1週目の月曜日から金曜日の5日間継続した。  設定したルールに従って行動した結果、5日間中自転車のパンクというアクシデントのなかった4日間は遅刻せずに到着できた(表1参照)。つまり、行動目標に従い自身の到着時間を記録し発表すると決めたことで、余裕をもって移動することの優先度が上がり、現状を改善できたのである。

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− 実施後のフィードバック −

 上記の取組の結果を発表した後のフィードバックにて、より本質的な問題は、今回定義した問題とは別なのではないかという意見を頂いた。平井先生からの、「遅れて始まる授業にも遅刻せずに行くことで、堀さんはそもそも何を得たいのか」という問いに対し、自分をだらしなく嫌に思う回数が減ると答えると、先生は「きちんとした自分でありたいのに、だらしがない」と定義されるものが本質的な問題なのではないかと考察してくれた。そのように問題を再定義し、自分が満足できているときの自分はどんな時の自分なのかをモニタリングすることを推奨されたため、第2・3週目においてはその提案を採用して再度問題解決を試みた。(→続きはこちら)

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