インタビュアー:12年度生 井上 裕毅
インタビュイー:コミュニケーションデザイン・センター 教授 小林 傳司先生
撮影:14年度生 劉 テイ

取材:2015年1月

 【超域パートナー】は、今までのアクティビティを通して超域履修生と関わってきた方々に、超域イノベーション博士課程プログラムの魅力や熱い思いを語って頂く企画です。第4弾となる今回は、本プログラムの副コーディネーターの小林 傳司先生に、これからの博士人材に必要な素養や心意気、超域でできることについて、インタビューを行いました。

インタビュア:
 超域プログラムにどのように関わっているのでしょうか?

小林先生
 今は「副プログラムコーディネーター」という立場ですね。じつは、超域プログラムには立ち上げの時からずっと関わっています。文部科学省に超域イノベーション博士課程プログラムを申請する時に、オールランド型プログラムの要素を議論するワーキンググループがあって、そのグループに、藤田先生と私と他の何名か、現在のプログラム関係者がいたんです。議論の際、「超域とは、どういうコンセプトか」というので悩んでいました。
 アドミッションポリシーなどで「リーダーが超えるべき境域」という8つの項目があると思うんですが、その内の大半は僕が書きました。

インタビュア:
 超域のコアを作ったということですか。

小林先生
IMG_3000s  コアを作ったというか、超域についてのコンセプトを議論するための取っ掛かりになるものを作ったのは確かですね。そういう物を誰かが出さないと、ふわふわと議論だけしていることになってしまう。だからたたき台でいいから、「例えば、こんなんどう?」って紙に書いてみると、初めてその議題についての議論が始まるんだよね。その時のきっかけを作ったのが、僕かもしれませんね。実は、この申請書を書くためのアイディアを練っていたのは、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震が起きた頃なんですよ。その影響もあって、この未曾有の問題に直面した日本が今後どんな人材を作るのか、という意識をみんなが持っていたんだと思います。だから、「何か超える」コンセプトは受け入れられやすかったのではないでしょうか。

人間、興味があれば自分から勝手に勉強するんです

インタビュア:
 先生はどのような学生でしたか?

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小林先生
 例えば、学部生時代の話をすると、僕は学部時代に政治学の単位を落としてしまいました。その時の僕は、理学部の学部生で一回生とか二回生の時で、政治学への関心がそんなに強くなくて、面白くなかったんです。
 今振り返って思うと、そもそも出会いのタイミングが悪かったわけで、私のなかで政治学が自分にとって必要であって、学びたいという感覚が無かったともいえます。
 ただ、単位を取らないといけないので、適当にはぐらかしてばっちり落されていたんです。内発的に学びたいという気持ちは、二十歳ごろの私にはなかったわけです。あの政治学の先生が僕を落としたことは正しかったと思っています。

インタビュア:
 学ぶタイミングの重要性ですね。教育背景の違う超域生に今授業をしてもみんなが同じように受け入れてくれるとは限りませんからね。タイミングには個人差もありますし、今の超域生の中にも当時の先生のような状況にいる人がいると思います。

小林先生
 自分にとって本当に必要だと思った時に、そういう知識が学べるという状況を整備するのが大事で、その時初めて人間は学べるのだと思います。例えば工学部の学生が経済やビジネスを学びたいと思うのが、学部一回生であるとは限りません。修士まで行ったときに、初めて本気で他分野を勉強したいなと思うことがあっても全く不思議ではない。大学は、そういった人たちのために、ちゃんと学べるような仕組みや環境を作ることが大切だと思います。阪大の学生はちゃんと学ぶ欲求を持っている人たちなんですよね。人間、興味があれば自分から勝手に勉強するんですよ

これからのグローバル社会のドクター像

インタビュア:
 超域生がこのプログラムを通してどのように成長していると感じていますか?

小林先生
 まだ数値的に見ることができないですね。分からないというのが正直なところです。
 一期生、二期生、三期生それぞれ性格が違うんですよ。一期生では、人がやったことがないことを挑戦したいと思う人間が比率として高いように感じますね。

インタビュア:
 一期生の中には、元々学者になりたいという人が半数近くいましたが、以前よりはもっと広く考えられているようになったと思うんですよね。それも超域のお蔭なのかなと思っています。でも、日本で博士課程を修了して普通に企業に就職したら、その能力を生かせる場を提供されるかどうかの不安もあります。その不安を少しでも具体的に考えられるようになっただけでも大きな成長かなと思っています。

小林先生
IMG_2910s  今も一般企業への就活では、博士に関してあまり評価しないという姿勢が残っているのが現実なんです。でもその反面、企業のトップ層が超域のようなコンセプトを非常に高く評価しています。企業の内で、トップ層と就活担当者間のコミュニケーションがうまく出来ていないんですよ。産業界には超域生のような人材が絶対必要だと思います。
 国内だけで企業は動いているわけじゃなくて、例えば海外の特に先進国でビジネスを計画する際、現地の文化や歴史等の情報をちゃんと理解する能力・リスクヘッジ能力、コミュニケーション力やマインドセットが必要です。それぞれ関連する地域の背景や様式が違うことに耐えられる能力をどう身につけるのか、も超域の課題ですね。

インタビュア:
 海外でコミュニケーションをとれる人材が必要だとおっしゃいましたが、そのために、海外プレインターンシップとインターンシップが修了要件に組み込まれています。実際、行く前と行った後の学生の違いはどのように感じますか?

小林先生
 たとえば、国際組織で仕事をしている日本人の姿を現地で見ることによって、どういう仕事の仕方をしているのかに触れることが出来ますよね。現場に行って、その風景を五感で体験してくるわけです。海外実習行く前の、漠然と国際機関に行きたいというのとは、帰国後のコメントの表現の仕方が全然違うんですよ。もっと具体的にいうと、一期生のジャスティンくんが貧困の問題に関心を持っていて、それでアジア、アフリカ、ヨーロッパの貧困地域を実際に見に行ったんです。その後、「貧困というのは匂いです」という結論が出てきました。面白いと思いましたね。これは行ってみないと分からないですからね

一回しかない人生をどう使うか

インタビュア:
 さて、今超域は4期生を募集しています。4期生に提供できる価値とか活動については、どうお考えですか? また、学生にはどのような心意気を期待していますか?

小林先生
 これから入ってくる学生に対して、僕が期待するのは大学院卒業後の人生をどれだけ真剣に考えているかということです。具体的には、一回しかない人生で、社会に対してどう関わっていくか、迷った時に前に進まずに止めておいて後で後悔するか、前に進んで失敗して後悔するか、を考える姿勢ですね。おそらく超域のみなさんは前に進んで、失敗したらしょうがないよねというスタンスを取っていると思います。「迷った時に進まない」という選択をする人たちは、多分うちのプログラムには来ていないですね。だから、超域のコンセプトの根っ子は「とにかく前に進んでみる」、そこにあるんじゃないかという気がしています。

インタビュア:
 超域の魅力は何だと思いますか?

小林先生
 大学から大学院という新しいステージを迎える時って、これからのライフスタイルについて考えますよね。やっぱり一回しかない人生をどう使うかを真剣に考える時に、「今の専門で行こう」だけで大丈夫ですか?という問題とも、向い合ってほしい。自分の人生について本気で考える時期も、そしていろんなものに対して学びたいという時期も個人差があるけれど、もし学生の内に両方の時期がやってきたなら、超域プログラムは魅力的ですよね。たくさん、いろんなことに触れられる総合大学のメリットを感じられるのは、大学院では超域しかありません。もう一点は、本プログラムは21世紀の大学院教育の一つのモデルであることです。

インタビュア:
 卒業後の人生は長いですから、もう一度、自分の人生を考えてみて、なぜ大学院に行くのか、何を大学院で学びたいのか、問い直してみるのもいいかもしれません。合否を恐れずに、応募だけでもしてみる価値はあると思います。

募集生への一言

インタビュア:
 最後に、募集生に一言頂けますか?

小林先生
 迷ったら、前に進む。進まないと何も起こらないですからね。

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