取材日:2015年2月19日

Interviewee: 大阪大学大学院 工学研究科 岩浅 達哉(超域 2013年度生)
Texted BY: 大阪大学大学院 工学研究科 白瀧 浩志(超域 2014年度生)
Pictured BY: 大阪大学大学院 工学研究科 立山 侑佐(超域 2014年度生)

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの履修生が行う独創的な最先端の研究を中心に、研究と超域との相互作用、超域研究者として彼らが描く未来についてインタビューしていく、超域的研究。第4弾となる今回は大阪大学院工学研究科に所属する超域2期生(2013年度生)の岩浅達哉さんが熱く語ってくれた。彼は現在博士後期課程1年である。

 

高性能な電池を作る

 電気エネルギーを自由に貯蔵・使用出来れば、人間がより良く地球と共存するための糸口となるかもしれない。そう話す岩浅さんの研究は、より小さく、軽く、多くのエネルギーを貯蔵出来る二次電池(蓄電地)の開発である。二次電池とは充電して繰り返し使える電池で、使用用途は非常に広く、例えば二次電池と太陽光発電とを上手く組み合わせる事で持続可能社会において大きな役割を果たす可能性も秘めている。つまり、日差しの強い昼間に太陽光発電で電気エネルギーを大量生産し、使用しきれなかった電気エネルギーを二次電池に貯蔵する。そして、その電気エネルギーを夜中に使用する事で、電力供給が不安定だとされていた自然エネルギーを用いた発電を有効に利用する事ができる。このようなシステムを含めた利用が可能になれば、持続可能社会の実現に一歩近づくだろう。また、他にも送電網が整備されていない無電化地域に対して、電気エネルギーを貯蔵した二次電池を輸送するという方法で電気の利用を実現出来るかもしれない。このように発展途上地域への貢献という側面からも二次電池の研究意義は非常に大きいという。

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 しかしながら、二次電池の社会での実用化は多くの課題を残している。例えば、近年排気ガスを出さないクリーンな自動車として注目を浴びている電気自動車における二次電池もその一つだ。現在、電気自動車で使用されている二次電池はエネルギー容量が小さく、長距離の走行には何度も充電をする必要があり、手間がかかってしまう。これは従来のガソリン自動車が一回の給油で可能となる走行距離と比較すると、電気自動車が一回の充電で可能な走行距離は約3分の1程度である事からも明らかである。加えて、これまでの二次電池は非常に重く、サイズが大きいため、燃費の低下に繋がってしまっているという。

 このような課題を解決する、社会から求められる高性能な二次電池、つまり小型・軽量・大容量な二次電池の開発に携わっているのが、岩浅さんである。彼は、従来の二次電池の構造とは全く異なる非常に薄い膜を利用し、従来までの主流である二次電池と同じエネルギーの容量で、約5分の1にまで小型化する事を達成した。

 従来までの二次電池は、大きな粒子を集めた素材を電極として用いていた。しかしながらこのような素材では、二次電池の内部で抵抗が発生してしまい大容量化が難しく、小型化にも限界があった。そこで従来とは全く異なる10 µm (0.001 cm)程度の非常に薄い膜を電極に用いる事で更なる蓄電池の性能の向上が可能となったそうだ。岩浅さんの研究は、特殊な装置を使って二次電池を作成し、その性能を測定していくというものだ。また、必要な場合は共同研究先に出張し、実験を行うこともある。「二次電池の微妙な作り方の違いによって性質が大きく変わってくるので、詳細な条件検討に取り組んでおり、また装置内を清潔に保つことに毎日、気を使っています。」と実験系の研究ならでは苦労もある。「今後は私達が開発した二次電池を更に大容量化していきたいと考えています。大容量化すると、どうしても性能が落ちてしまう問題も見えてきているので、更なる検討を行って高性能な二次電池の開発に挑戦したいです。」と今回の研究成果に満足する事無く、今後の展開についても語ってくれた。

超域で学んだ俯瞰的視点

 岩浅さんが専門としている二次電地は、日本に留まらず海外を含めた多くの研究者が日夜の研究・開発を行っている分野である。そのような分野で研究を行う彼にとって、自身の研究の独自性がどこにあるのかを考える事は非常に重要である。その中で、研究における俯瞰的な視点も学ぶ事が出来る超域イノベーション博士課程プログラムの授業は大きな助けとなったと教えてくれた。例えば、「研究とは何か」というテーマを扱った『リサーチデザイン』という超域の授業で、研究の一般的な3つの分類(探求型・検証型・問題解決型)を学んだことが大いに研究科の活動に生かされたそうだ。具体的には、自身の研究はどれか上記のひとつに分類されることはないという気付きを得た。この気付きによって講義の最後には、今までにはない発想で行っている薄膜構造の検討については探求型に近いと考えられるため新規性をアピールし、先行研究との違いなどを明らかにしていく検証型に近いと思われる部分については丁寧に差異と共通点を洗い出して、説明できるようになった。そのような過程を経て、自身の研究を一歩引いて見つめ直し、今後の研究の方向性をより大きな視野を持って思考し整理する事が出来たという。また、『研究倫理』という授業では、人間を研究対象とした生命科学、倫理学等の自身とは全く異なる研究分野に触れる事で、電気エネルギーの貯蔵という技術が実用化された際に社会に与える影響を考える良いきっかけになった。このように、日々行う実験の意義を考える事に繋がり、意欲的に実験を行う秘訣でもあるようだ。

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超域で出会った多様な人から学ぶ

 超域の活動では、研究科に所属するだけではなかなか接する事がない他の専門分野の人と出会い、それぞれの研究内容や研究分野の特徴に触れる機会が与えられる。その中で岩浅さんは文系研究者が持つ文章へのこだわりを強く感じたと述べている。もっとも印象的なのが、プレゼンテーションへの挑み方だったようだ。例えば、岩浅さんを始めとする理系研究者のプレゼンテーションでは研究成果の説明のために図を用いる事が少なくない。なぜならば、図を用いて説明することで分野を共有する研究者の共通認識を明示化することができ、理解の促進に効果的であるからだ。一方で、文系のプレゼンテーションでは事前に文章を構成し、それを発表する場合が多い。超域博士課程プログラムの活動の中で文系の研究者と一緒にプレゼンテーションを作り上げていく中で、自身が図を頼りすぎており、言葉や文章に対するこだわりが薄かったと気付く事が出来たと話してくれた。今後は、文章だけでも充分に伝わるような説明を心がけていきたいという、次なる目標にもなっているようだ。

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キャリアパスを描く

 「私が研究対象としている二次電池は、世界と比較しても日本が非常に得意としている分野で、現在、日本の二次電池メーカーは競争力を保持しています。しかし、家電メーカー等の日本の製造業はグローバル化や価格競争の波に押されて苦戦が続いていますし、二次電池メーカーもいつ海外メーカーに追いかれ追い越されるかわかりません。私は、そのような日本の製造業の現状をなんとか変えたいと考えています。そのために重要なことは、工学という専門性や研究開発の視点を持った上で、研究開発に留まらない事にコミットしていく事だと思っています。」とキャリアパスを語ってくれた岩浅さん。そのようなキャリアパスに拍車をかけたのが超域プログラムの活動の一貫として行ったシリコンバレーにある製造業へのインターンだった。優れたコミュニケーション能力を用いて、既存の部署を超えて様々な部署を巻き込んだ新事業を積極的に立ち上げていた現地で技術営業として勤務している方に感銘を受けたという。そのとき、学んだことは将来のビジョンを明確に提示し、共有することの重要性だそうだ。「自分も、将来はこうしたい!!というビジョンをしっかりと人に説明し、周りの人を巻き込むようにならないといけないなと感じました。」と語り、超域プログラムで学んだ内容を最大限に生かしたキャリアパスを歩む岩浅さんに今後も期待したい。

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