Edited by 工学研究科 石井 大翔 (超域2016年度生)

 全国の高校生を対象としたFuture Global Leaders Camp(以下 F.G.L.C)が2016年8月7-9日の3日間で開催されました。大阪大学大学院国際公共政策研究科が主催するこのイベントは、高校生を対象とした2泊3日の合宿形式のセミナーで、毎年8月の夏休みの期間を利用して開催されています。日本全国から27人の高校生が大阪大学豊中キャンパスに集ったこのセミナーは、大きく分けて2つのセクションから構成されています。一つ目は、プレゼンテーションやデザイン思考といった、近い将来に必要とされるスキルに関しての技法を学ぶ講義です。二つ目は、女性の社会進出、外国語教育、国際開発といった各々が興味・関心のある時事問題に対して5-6人のグループを作り、大阪大学生のファシリテーターの引率のもとでディスカッションを行うグループ活動です。また、期間中にはグループ活動の成果を全体に発表する中間発表、最終発表の2回が設けられています。
 2016年のF.G.L.Cには、超域イノベーション博士課程プログラムから鈴木(2014年度生)、勝本(2015年度生)、石井(2016年度生)の3名の履修生が大学院生ファシリテーターとして参加しました。超域生の活動内容、高校生との対話を通して得た学び、今後のアウトリーチの手法に関するそれぞれの学びや思いを共有させていただきます。

■超域生の活動内容

Texted by 勝本 啓資

 全体を通して高校生の議論・発表の支援を行った。グループワークは、システムとして場を活性化させるだけでなく、建設的な議論を遂行するために大いに役立つ手法ではあるが、そこには、グループ内での役割と議長の采配が重要なポイントとなる。今回の指導をする中で、参加した高校生たちは、グループワークの方法論を学んだことがないように思われ、各人それぞれが、自らの意見をぶつけ合うような状況に陥ることもしばしば見受けられた。それでは、グループワークの効力を発揮できるとは言えず、ただの感想を述べあうだけになってしまう。大学院生、並びに超域での活動を通して経験してきた、グループでの意見の交換と結論に至るまでのプロセスに重点を置きながらファシリテーターを務めた。また同時に各グループに配属された学部生への指導の側面も大きかったといえる。なぜなら、学部生とはいえ、スライド作成には不慣れな点も多く、なかでも研究発表における論理展開の整理を含めた、プレゼンテーションの構成を考える経験は初めてであったのだろう。また私自身、後輩の指導を、これほどまでに付きっ切りでした経験もなく、発表の選考もした経験もなかったために、大いに学ぶことがあった。具体的な活動内容と、活動の途中での気づきを以下に述べる。

 初日のグループ活動では、10分ごとに各班の活動を見て周る中で、各チームで取り上げた課題を決定すると同時に、タイムキーパー、議長、書記の役割をはっきりさせることを指示した。その他の具体的な指導としては、大学での本の探し方、PCでの検索、リファレンスの書き方などのテクニカルな助言を行い、高校生をサポートした。初日に行われたグループ活動の中間報告の段階では、私は全チームとも課題を掘り下げられていない印象を受けた。論理展開も飛躍が大きく、最終発表でカタチになるには、より活発にグループ活動で建設的に議論をする必要があると考えられた。中間発表後、超域生3人で高校生が抱えている根本的な問題点を話し合った。そこには、各グループでの議長の能力に高校生がまだ追いついていないことや、最初から結論ありきになってしまい、それに沿うようなデータや文献の収集をしてしまい、議論の場に至っては、その”結論”に向かって話を進めてしまっている点が挙げられた。解決策として、中間発表後のグループ活動に関しては、私を含めた超域生も議論にある程度介入して各グループを先導する必要があるとの結論に達した。ここでの最大の問題点は、多くのチームが結論ありきで発表を構成していたことである。さらに、各チームの主張にオリジナリティ、具体性のいずれも欠けていると感じたため、まずデータや先行研究から、現状を把握するところからやり直し、その後で各々の研究の仮説をたてるように指導することを他の超域生に提案した。最終発表までの後半の活動では、3人の院生(超域生)ファシリテーターがそれぞれ2チームずつを主に監督し、発表の準備を進めた。結果としては、発表の準備に時間を取られてしまうため、それまでの主張や研究に対する批判的な思考まで誘導することができず、独自の結論にまでには至らなかった感があるが、それでも最終発表では、それまでとは打って変わって、レベルの高い内容で発表ができていたように思われる。また発表、それ自体も上達していた。高校生とF.G.L.C.を通して関わる中で、明確なゴールをファシリテーターでも共有することによって、参加者のモチベーションを感化し高校生並びに学部生の指導に当たることができたと考える。

nakauchi

■高校生からの学び

Texted by 鈴木 星良

 FGLCのプログラム中、私は幸いにも研究内容を紹介する英語での1時間の報告をさせていただけるプレゼンターとしての機会に恵まれた。研究発表を学会や専攻内での発表と異なる聴衆に対して行うことは初めての経験であったが、自分の思考を再度整理して、わかりやすく伝えるように努めた。聞き手とのコミュニケーションを意識してプレゼンテーションを行ったことで、初見の情報を丁寧に聞き手へと伝達する手法の糸口が見えたように思える。また、ファシリテーターとして高校生に議論の方針に対して改善点を助言することや、内容に対してディスカッションをする上で、どこが問題なのかを指摘すること、さらにどのような対応が最適であるのかを明示することを心掛けた。飛躍しがちな論理や、補足するべきポイントに注意を向けることから、高校生にアドバイスをすると同時に自分自身でも思考を進める際に、論理が飛躍するタイミングや論点の穴を作っていることに気づくことができた。これはもちろん超域イノベーション博士課程プログラムの教育方針に通じるところがあり、本活動を通じて超域的な人材として会得しておくべき論理性を伸長させることができたと考えている。

 さらに、2日目に行われた中間報告を踏まえて、とりわけ私は、グループ内で議論していた内容が、実際の発表で聞き手に通じない“もどかしさ”を受け止めながら、情報を選別する指針に思いをめぐらした。取捨選択する情報を決定する判断基準の根底には、揺るがない論理性があると考える。その上で、十分な経験知の積み重ねが必要であり、その場のオーディエンスを考慮しながら自由に情報を出し入れすることができるほどに、取り扱う問題に対しての理解を深めておく必要があることを肌で感じた。これは超域リーディング力・実現力に通じる思考であると考えている。

suzuki

■今後のアウトリーチの手法

Texted by 石井 大翔

 「東京で生まれてニューヨークと香港で生活しました。都会は確かにいいけど落ち着いて将来を見つめることができるのは自然に囲まれて生活しているときです。」

 私は一人の高校生が自己紹介の際に語ってくれた一言に驚いた。私が高校生の時には想定すらできなかった人生経験を既にしている高校生が少なからずいることを知った。間違いなくグローバル化は進んでおり、大学での教育方針も進化が求められていることを実感した。それに付随して、社会が高等学校を卒業する学生に求める基礎力も高くなっているように思えた。実際、高校生の参加者はプレゼンテーションソフトである、パワーポイントをある程度使いこなして思考を伝達する必要性に迫られていた。私が高校を卒業した際には、このような技術面ではなく、ある程度の社交性と常識を持ち合わせていることに重きが置かれていたように振り返る。この経験から、世代を超えた交友は時代の流れを意識するきっけとなり、自らの立ち位置を相対的に見つめなおすきかけになることが分かった。

 一方で、高校生が“大学生”を、まして“大学院生”を知る機会が未だに乏しいことを悟った。大学への進学を目指して受験勉強に取り組んでいるにも関わらず、大学の生活を知らないという現状には違和感を覚えた。私は、大学が待ち構える情報提供から、大学側が出向く情報発信が必要とされているのではないかと考えている。とりわけ大学生から高校生への積極的な情報発信は、高校生が自身の近い将来の自分をイメージしてもらう好機となるのではないだろうか。また、高等学校における進路指導担当が積極的に活用したいと想定されるような、生の情報へのアクセスがしやすくなるだろう。とりわけ、超域イノベーション博士課程プログラムに所属する学生が積極的に大学の情報発信に携わることは、真に社会が求めている次世代へのニーズを分かりやすく発信する好機となるように思われる。合わせてリーディングプログラムの教育方針に対する理解促進、年齢を超えた交流の実現等、新たな価値の創出に寄与するものと考える。

kakizawa