チョウイキジジョウの新コンテンツ、”超域パートナー”第1弾です!このシリーズでは履修生がインタビュアーとなり、超域のプログラムを支える「超域パートナー」の方々に、超域へのアツい思いを語っていただきます。
第1弾となる今回は、本プログラムのコーディネータの藤田先生へインタビューを行いました。13年度生 工学研究科の岩浅君が、藤田先生の本音に鋭く迫ります!


インタビュアー:13年度生 岩浅 達哉
インタビュイー:大学院工学研究科 教授 藤田 喜久雄
        未来戦略機構 超域イノベーション博士課程
        プログラム部門・部門長(兼任)
        プログラムコーディネータ (部門長)
取材日2014年2月
岩浅
今の学生、超域イノベーションの履修生をどう思いますか。
藤田
今の人は恵まれているよね。私が学生だった当時は、工学部の所属の系で、学部生が96人、修士が36人、博士まで行く人はいるか、いないかだった。博士に進学する際には、受験者が少なく、口頭試問での質疑がやたらと長かったのを覚えているな。今は博士に行く人も増えてはきているけれど、昔は博士 (後期) 課程に行く人はほとんどいなかったし、もちろん、こんな手厚いプログラムもなかった。私は育英会の奨学金とアルバイトでやりくりしていたので、うらやましいと思うと同時に、甘やかしすぎかなとも思う。
岩浅
昔はそのような状況だったのですね。今の状況ですら、ぼくは博士まで行こうかどうかとても悩んだのですが、藤田先生は博士まで行くことに迷いはなかったのでしょうか。
藤田
私は地方の出身なので、実は学部の3年生までは修士すらイメージがわかなかった。修士の時に指導してくれていた先生が薦めてくれていたが、修士2年のぎりぎりまで迷って、就職も考えていたんだ。世の中が変わっていくのだったら、博士まで行って勉強した方がいいんじゃないか、ということで決断した。3年くらい回り道はするけれど、いろいろなことが伸びている時代だから、勉強してそれが役に立たないわけはない。もちろん、多くの人がやっていることから離れていくのはリスキーだよ。けれど、リスキーであると同時に、チャンスが生まれる可能性も大いにある。そのように考えていたかな。
岩浅
先生が博士に行こうと決めた理由は他にありますか。
藤田
私は、わざわざ行く博士課程の3年間で何を期待できるかどうかを思案していたよ。最適設計の研究室だったけど、設計に人工知能の考え方を持ち込んで何か今までにはなかったことができないかと先生に言われたときに、ワクワクっとした。方向が定まっている研究にも難しさがあると思うけど、行き先がわからない研究にもまた別の難しさがあるよね。路線がみえていたら、ある種、確実性も期待できる。けれども、設計と人工知能と聞いて、何かが大化けするかもしれないという期待感があった。何もないところは不安と期待が織り混ざっているよね。研究は行き先がわからないからこそ研究になるわけで、今となっては、当時は世間知らずなだけだったと思うけれど、私は先が見えないというところに大きな可能性を感じて、何かやったらついてくるかな、という気持ちもあって進学した。
岩浅
超域イノベーションを受ける人も『超域イノベーション』に少なからず可能性を感じていると思いますが、超域イノベーションには、どのような可能性、例えば、キャリアパス・身に着けられる能力などがあると思っていらっしゃいますか。
藤田
新聞社の人たちにも、超域イノベーションの学生さんにはどんなキャリアパスがあるのかと聞かれることがある。先程も言ったけれど、世の中は変わっていく。何が起こるか分からない。分からない中で、どこかに可能性を見つけていかないといけない。どうやったら、世の中は発展していくのか。漠然と考えてみると、新しいことがどんどん出てこないだめだよね。
自分の分野の専門に閉じこもってずっと向き合っていても新しいことはあまり出てこない。けれど、ちょっと横道に行って、別の分野の視点を見たり、それを専門と照らし合わせてみたりする。要は、幅と深さのかけ算だよね。専門は専門で、独創性を深く追求し、それを活かす幅を身につけてほしい。
修士の段階では自分の研究の周辺を見るだけで精一杯かもしれないけど、立場が進むにつれて、ものごとはどんどん複雑になっていく。複雑な社会の中で働く場合、今までとは違ったキャリアの活かし方が必要になってくると考えている。例えば、製造業とかでは、かつては、新入社員の中でこいつはできるという人にいろんな部署を経験させていき、複雑なものの全体像を理解させて、製品開発のとりまとめ役、リーダーを育てようとしていた。じゃあ、対象がどんどん複雑化していく中で、今まで通りの育て方で必要な幅に届くか、というと、届かない。各々が幅を持たないと、解決できないことが多くなっている。そして、各々が幅を持った上で、その幅を持った人たちの全体を俯瞰できる人が必要になっていると思うんだ。
逆に質問するけど、リーダーに必要な要素ってなんだと思う?
岩浅
僕はビジョンと強い意志だと思っています。
藤田
そうだね。博士課程教育リーディングプログラムでは、リーダーという言葉を使うけれど、リーダーの定義って非常に難しいよね。リーダーシップに必要な要素は何か。ビジョンを持つのは大切だけれど、そのビジョンというのは、「こっちに行けば、こうなる。これとこれを組み合わせればこのような可能性がある」という方向性を定めることができること。
昨年11月に1期生が日本マイクロソフトを訪問したときに、1期生が社長の樋口さんに「リーダーシップとは何ですか」と尋ねたら、逆に「1000人を動かすにはどうしたらいいか?」ってなことを質問し返されたことがあった。1000人を動かすには、1000人の顔は見えないわけで、ビジョンを描き切れているかということがかなり重要になってくる。
また、リーダーを育てるというときに難しいのは、大学の教員にはそこまでのリーダー的役割をしている人が少ないと言うこと。じゃあ、社長さんを連れてくればいいのかというと、それだけでもない。複雑で入り組んだことに取り組んでいける博士人材をどうやって育成していけばいいか、プログラムのカリキュラムを考える際には、手探りでその育成方法を探っている。私たち教員は仮説を立て、外部評価委員会の方々や学外のプログラム担当者にも検証してもらう。漠然と世の中の複雑化した問題を解かないといけないことは誰でも分かっている。しかし、隠れたニーズ (社会) といろいろな手段 (大学の専門性) をつなぐ場が必要だよね。それがこのプログラムなんだ。
  そう言えば、何かおもしろかった授業ってある?
岩浅
社会の中の科学技術という授業はすごく興味深かったです。
藤田
なるほど。社会に科学技術がもたらしている問題の複雑さを垣間見ることはできたと思う。けれども、自ら解決策を描くことまではできていないわけで、この先は、実際にビジョンを描きプランに落とし込んでいくところまで、力をつけていかないといけないよね。プログラムでの教育を考えるときには、到達点をある程度想定しながら、そのためにはどのくらいの幅や深さを持たせないといけないかということを考えている。超域イノベーションの5年間のうちに、例えば、社会の中の科学技術で考えた切り口をベースとしながら、ビジョンやプランを描ききって、実際に評価してもらうところまで経験する必要がある。だから、身につけた知識やスキルを組み合わせたら何が出てくるかを実際にやってみる。来年度は、そういう授業を3年次にプロジェクト科目として組み込もうとしている。
先程の話と関係するけれども、トップに立ったときに、ビジョンといっても、理想を描くだけではない。それを実行していくにはどうすればいいかというところまで考えておかなければならない。プランを実際に動かす能力、それを磨き上げることが3年次のプロジェクト科目で狙っていることなんだよ。4年次にはインターンシップ。インターンシップでは、現場の人々と連携しながら、ビジョンやプランをつくりあげたり、適宜組み替えたりもする、ということにじっくりと取り組んでいくことになるでしょう。そういう部分を鍛えておけば、結果的に、全体像がきちんとみえて、提案できる人が育ち、リーダーになっていくと思う。自分の専門はしっかりと身につけておいて、他の専門の人と話したときに、ここを組み合わせたらいいんじゃないかという方向性を見いだせる人に育ってほしいよね。
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岩浅
今、3年次、4年次のプログラムを練られているという話がありましたが、超域イノベーションの中で教員の役割は他にどのようなものがありますか。
藤田
コア10人くらいの教員は毎週会議をやっている。カリキュラムや諸々の活動について常に会議をしている。なぜかというと、前例のないプログラムなので、何かをやろうとすると何かにぶつかる。例えば、3年次のプロジェクト科目での問題設定をどうするかという話。解けそうな問題だと、今まで身につけてきたことが活かせない。けれども難しすぎる問題と最初にあたるのもどうか。こういうことを考えたときに、カリキュラムをきちんと作っていかなければいけないよね。
このプログラムには、超域とイノベーションという二つのビジョンがあるが、今の履修生は、まだ、境域を超えて理解するという方に偏っているようにも見えるんだよ。イノベーションという部分に対する意識はまだ低い。理解することに留まらず、実際にやってみるという場を提供するにはどうしたらいいか、いつも話し合っている。
従来とは違うことを何かやろうとすると、どこかにぶつかってしまう。円滑に進めるためには、守りに入ればいい。超域イノベーション博士課程プログラムは今までにはなかったビジョンを掲げているが、大学のプログラムである以上、従来の大学制度とどうやって整合させるか。そういうところについても常々会議で話し合っている。
岩浅
1期生は練られたプログラムをその都度すぐに実行する立場になるんですね。いつも先頭に立って、プログラムを共に作っている感じの1期生とある程度はできあがりつつあるプログラムに参加している2期生ですが、なにか違いを感じられますか。
藤田
2期生中心に参加したリーディングフォーラムを見ても、皆さん堂々としているよね。
1期生と2期生の違い、、、。言い表しにくいけれど、1期生の方がおてんばだよね。2期生の方が静かについてきたという感じ。まあ2期生はお互いのスタンスを尊重しているのだと思う。けれども、相手のスタンスが分かってくると、逆にどこを補強しなければいけないかが分かるということだから、接点を探って、相手に対するふっかけかたを変えてみるといい。そういう部分を意識できてないのなら、まだ足りないのではと思うなぁ。
トップに立ったときに必要になるのは、チームのメンバーの資質をどう使うかということを考えないといけない。チームを使ってチームの力を引き出さないと行けない。外部評価委員会でも、プログラムでの教育はチームによるものが多いけれど、個人としてはどうか、ということを聞かれたことがある。理解して終わりじゃなく、それを活用する力を身につける授業をさらに組み込んで行くけれど、学生さんの側もそれを意識してほしい。
岩浅
最後に先生にとって『超域イノベーション』とは何か、お聞きしてもよろしいでしょうか。
藤田
このプログラムを立案して提案する時に、もちろん申請書というものを書くんだよね。それを印刷するとかなりの厚さになる。内容はたくさん詰まっている。じゃあ、それを読ませるためには。タイトルが重要だよね。何だってそうだけど、映画でも、タイトルとかで、見ようと思ったり思わなかったりするよね。最初はオールラウンドなのでリーダーとかをタイトルに組み込もうという話しが出ていた。けれども、それじゃ審査員の人は読もうという気にはならない。なぜ、リーダーが必要かということを含意した名前にしたいと思った。そうすると、イノベーションという言葉は外せないという話になった。
けれど、イノベーション人材と言っても、「またか」と思われる。独特のイノベーションであることを主張しないといけない。そうこうしていると、どこからか「超域」という言葉が出てきた。なんか変なのが出てきたなと思ったけど、だんだんと腑に落ちてきた。それから理念を練りだして、8つの超えないといけない境域をみんなで考案したんだ。
超域イノベーションとなにか、この質問は難しい。しかし行き着くところは、世の中がどんどん複雑になっていて、新しい人材が新しいことを生み出していく必要があるということ。だからイノベーションが求められている。インベンションとイノベーションが混同されているけれども、イノベーションは組み合わせ。そして、組み合わせを通じて新たな価値を生み出す。そのためには、いろいろなことを超えないといけない。「超域イノベーション」という言葉は、その意味では当たり前のことを言っている。インベンション (専門性) を軽視しているわけではない。けれども、全体を俯瞰して絵を描ける人を育てようとすると、「超域イノベーション」だし、結果的にそのような人材がリーダーになるのだと思うよ。
岩浅
藤田先生、今日はお忙しい中、ありがとうございました。超域イノベーションに対する先生の率直な意見を伺い、学生側も色々と考えさせられました。