◆目の前には壁ばかり、でも壁のない仕事はつまらない

ウルフ
これまでのご経歴の中で、問題に出会ったときや壁にぶつかることもあったんじゃないでしょうか?特にそうした壁にぶつかった時、どういう風に乗り越えられたのでしょうか? 例えば、研究の進め方やで行き詰まったりとか。
北野さん
基本的に、壁ばっかりでしょう。研究者の生活って壁ばかりだと思うんですよね。壁のない仕事は面白くない。そもそもそんな簡単な仕事ってない、それはどんな仕事でも同じ。自分の能力・環境・立場を考えたときに、一番世の中に貢献にするために自分がやるべきことは何だろうかと考えています

◆世の中を良くすることがビジネスになる

ウルフ
しかし世の中を良くすることは北野さん自身に取って、どういうメリットがあるのでしょうか?
北野さん
そこは、Instinctですよね。でもそれはビジネスにもなるんですよ。世の中を良くすることとビジネスは相互背反ではなく、それがビジネスになる。壁にあたるということは、ラッキーでありチャンスなんです。逆に壁にぶつからない人にチャンスはない。選ぶんだったら一番難しいことを選んだらいい。宝の山でしょう。課題解決とビジネスは相互背反ではないし、ビジネスにならなければサステイナブルにならない。お金は関係なくやるというのは、僕はあまり信用していない。サステイナブルにできるのだろうか?と。ファンドレイジングが出来て、キャッシュフローマネジメントができてこそサステイナブルになるわけで、それが出来ない活動は無責任だと思います。その活動に期待する人が必ずいるわけですから。

◆大変なときにこそ攻める

橋本
ご自身で会社を経営されている中で、これまでどうしても立ち行かなくなったこととかありますか?
北野さん
今のところないですよね、ただ大変なときはありますよ。ソニーCSLは、ソニーの子会社ですから、当面の資金の心配はしないですみますが、システムバイオロジー研究機構の方は、独立した法人ですから誰も助けてくれない。そういう中で何とかしないといけないので、落ち込んでいる暇はないですよ。
橋本
大変なときはどうするのでしょうか?
北野さん
そういうときこそ攻めないとダメですよね。後は運がいいことが必要です。待っているだけでなく出来るだけのことをやって。それまでやってきたことがあるから、運がいいことが起こるわけですから。

◆日本でもinnovativeでcreativeな研究はできるのか

橋本
今、一般的に日本の会社は画一的で創造ができない、イノベーションが出来ないと批判されていますよね。今後、日本でこういう形の研究所は増えていく可能性がありますか?
北野さん
この研究所は、来年で設立25年になりますが、この間、同じような形態の研究所はできなかった。でも、ITベンチャーとか別の業態で出てきていますよね。別にこの形にこだわる必要はないと思う。この研究所はソニーがある程度安定的に資金を供給してくれて成り立っているのですが、そうでない状況でこの形態は難しいと思います。ベンチャーをスタートアップする方がよいのではないかと思います。
橋本
この研究所で行っているようなイノベイティブでクリエイティブな研究を日本の大学でも出来ると思いますか?
北野さん
できると思うけど、本気でやりたいかですよね。やる気になれば、どこでもできるんじゃないでしょうか?我々は決してトリッキーなことをやっているわけではない。やるべきことを本気でやっているだけで。できないと言っている人は、実は、そこまで本気でやっていない。既存の枠組みを取り払いたくないんじゃないでしょうか?その枠組みがだめなら、出て行って新たに作れば良いだけです。アンシャンレジームで成功している人たちが牛耳っている中ではクリエイティブなイノベーションは起こしにくい。でも、学生は自由だよね。なので、大学にそうした場がないことを非難してもしかたなくて、やろうと思えば自分たちでできるでしょう。

◆若者のフレキシビリティこそが変化の源泉

ウルフ
確かに。例えば先日の超粋スクールを通じて改めて思ったのですが、何かを変えていくには下から変えていくことが改めて重要だと強く感じました。
北野さん
若い人が、制約のない中で行動を起こしていくことが何かを変えていく、これは普遍的な真実なんじゃないかな。一方で、若い人が使えるフレキシビリティや制度を最大限活用できているか、それをマインドセットとして持っているかが重要。意外と自分自身で制限をかけていることは多い。やってみると今は自分でカリキュラムを作っていくフレキシビリティがあると思うんですが、それに気づかずに、制度にフレキシビリティがないと言っているケースが多いんじゃないでしょうか。

vol.1<<  vol.2<<  >>vol.4