Texted BY: 工学研究科 2015年度生 宮原 浩維

 私はこの超域プログラムへ所属してから、今までの環境では出会うことのできない多くの人との出会いや、多くの学びの機会を得ることができ、自らの成長やリーディング大学院教育の意義を実感しています。一方で、はたして社会が本当に私たちのような、前例のない博士課程リーディングプログラムに所属している博士人材を求めているのかと、まだ見ぬ先のことに漠然と焦りを感じていました。そういった期待と不安を抱えながら半年以上が過ぎた某日、私は東京にて開催された『博士課程教育リーディングプログラムフォーラム2015』(以下、リーディングフォーラム2015とします)に大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム(以下、超域プログラムとします)履修生の代表5人の一人として参加してきました。超域プログラムの代表は、私と同じく2015年度生の竹野2014年度生の白瀧山並でした。全国から集まる志の高い多くの学生、日本をリードする産官学民の方々との関わり合いの中で、未来の博士人材を志す私たちに社会が求めていることを肌で感じることができたと思います。

■リーディングフォーラム2015とは

 博士課程教育リーディングプログラムとは、オールラウンド型、複合領域型、オンリーワン型の3つの類型があり、私の所属する超域プログラムは全国で7つしかない数少ないオールラウンド型にあたります。本リーディングフォーラムでは全国62プログラムより述べ800名に近い学生及び関係者が一同に会し、2日間にわたって開催されました。
 本フォーラムの趣旨は主に以下の2点で、

  • 博士課程教育リーディングプログラムの学生がこれまで受講・経験した教育プログラムにより、どのような力が身につき何をどこまで出来るようになったか(アウトカムズ)を示すこと。またこの結果を基にした、博士論文研究とのバランスに十分配慮しつつ、より一層効果的かつ高い意欲を持って参加できる新たな教育プログラムの考察。

  • 各大学で実施されている教育プログラムを学生同士が紹介し合うことで、学生間の情報共有や交流に結びつけること。また学外協力者(産業界や官界などから)の参加により、リーディングプログラムで実施されている教育プログラムを社会に周知し、学生がどのような力を身につけているかの理解促進を図るため。

とされています。フォーラム初日は、東京大学総長、日本学術振興会理事長など各界を代表とする著名な方々の挨拶やパネルディスカッションの後、初日午後からは 学生フォーラムやプログラムワークショップ、ポスター発表等が平行して行われました。本レポートでは、私たちプログラム代表の学生参加した学生フォーラムでの活動について報告していきます。

 最初に、学生フォーラムの内容と全体の流れを簡単に紹介します。まず、(1)リーダーシップ教育、(2)異分野横断や交流、(3)グローバル化や国際化、(4)産業界や公的機関などとの連携、(5)実社会に基づくプロジェクトワーク、といった5つの課題テーマごとに各プログラムの学生が1名ずつ割り当てられます。テーマ別の会場で、学生、教員および学外協力者で構成される10人のグループを形成し、それぞれのテーマに沿った学生自身が経験した教育プログラムについての共有、後にそれを元により良い教育プログラムについてのディスカッションを行い、最終的にアウトプットした模造紙を用いてプレゼンを行いました。

■フォーラムを通して得た学び

【表現するということ】

 私は5つのテーマの中で、『実社会に基づくプロジェクトワーク』を担当しました。私のテーマに限った話ではないですが、非常に限られた時間、条件の中で議論並びにアウトプットが求められました。まず始めに自分が学んだ教育の良さについて、グループ内でPPT1枚かつ2分という短い時間の中で共有する必要がありました。自らの考えを声に出し、形にして表現するということは、どの分野に限らず求められることですが、特に今回の場合はそれぞれの専門や所属の異なる人たちを相手にするということあって、何をどこまで伝えるべきなのかの判断が必要でした。

リーディングフォーラム

【専門の違いが意味すること】

 今回の学生フォーラムでは先に述べた通り、専門、プログラム類型、プログラム内容の異なる非常に多様なメンバーと短時間で議論し意見をまとめなければなりませんでした。こういったグループワークにおいて専門の違いとは言うなれば、言語の違いと等しく、いかに難しい表現や専門用語を避け、わかりやすく相手に伝えるかが求められると私は思います。また、日本語や英語等の言語を理解するために、その言語の文法やボキャブラリーを必要とするのと同様、相手の意図していることを理解するためには、ある程度の専門外の知識を必要とします。このことに関して、超域プログラムでの経験は多く活かされました。日頃から異なる分野の人々とのグループワークや、多岐にわたる授業の中で、決して深い理解とは言えないものの、浅く広い多くの知識を得ることができていたと思います。何となくではありますが、普段、超域プログラムのなかでは気づけないことが、「プログラムでの経験で得たこと」として実感できた気がします。

リーディングフォーラムpic2

 そして、今回のような専門の異なる人が集まる議論の場で、どこまで相手の専門について掘り下げて聞くべきなのか、逆に自分の専門を伝えるべきなのか、その線引きは日頃のトライ&エラーの中で自然に身についていたように思えました。
 しかし、いつも一緒に活動する超域生同士のグループワークでは互いのことを理解しており、「この辺りまで突っ込んで、ここから引くべき」という感覚が互いに共有できているのでスムーズに議論が進むことが多いですが、そういった“暗黙のルール”に近いコンセンサスが取れてない議論の場において、その線引きや、時間管理が大変困難に感じました。

【リーダーの責任】

 オールラウンド型の博士人材として求められる資質の一つとして、異なる分野の人々をつなげるリーダー像が挙げられると私は考えます。そういった思いから、それぞれの専門に特化した個性の強いグループメンバーが多い中で、自分の役割を意識してグループワークに臨みました。
 今回の学生フォーラムでは、初日に行ったテーマごとのグループプレゼンの結果を踏まえ、9グループのうち投票による上位3グループが二日目の全体発表の機会を得ることができるといったものでした。もちろん結果が全てではないと思いますが、与えられたグループでの一つの答えとして理想とする教育プログラムを議論しアウトプットする以上、私は多くの人の共感を得て翌日の全体発表の機会を得られるよう、あくまでも結果を求めました。議論において、分野・所属プログラムの違いや、日頃の学内でのグループワークなどに対する取り組みの違いから、様々な視点からの興味深い経験や意見が語られる中で、短い時間内に一つの答えを出し表現しなければならないという時間管理能力やマネージメント能力が必要とされました。その中で、グループ内での進行やプレゼンボード製作、セッションにおける発表は私が担当させていただきました。今から思えば、自分の立ち回りを意識するあまり少し肩に力が入り過ぎたかもしれませんが、とてもいい経験をさせていただきました。しかし、投票の結果としては、テーマ全体で4位と全体発表の機会を得ることができず、半ば強引にプレゼンの内容を収束させてしまったことと、結果が出せなかったことに対し責任を強く感じ、誰よりも悔しい思いをしました。
 一歩前に出るということは同時にリーダーとしての責任を負うことでもあります。しかし、リーダーとは自己の認識で成り立つものではなく、コミュニティ内での他者認識があり形成されるものだと私は考えます。今回の学生フォーラムでは、自分がリーダーと成りえたかと考えると疑問が残ります。それは超域のコンセプトの一つである、“エリート主義を超える”という考えに基づいた個人的な思いによるものです。ただ、唯一私が自信を持って言えることは、悔しさを経験できるのは責任を負った者だけだということ、そしてリーダーとは、そういった責任を負う数だけ成長し、それでも挑戦し続ける姿勢に感銘を受けた他者により形成されるものだということです。発表と投票を終え、結果を出せず下を向く私に対し、「自分たちのグループが一番良かった」「また機会があったら一緒に何かしよう」と声をかけてくれたメンバーのおかげで改めてそう感じることができました。

■社会が私たちに求めていること

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 この度の学生フォーラムでの理想の教育プログラムの提案というものには、もちろん正解はありません。それと同様に、社会の求める“イノベーション”という概念に対し、明確な答えがないのもまた事実です。個人的な意見ではありますが、このフォーラムを通じて感じた、社会が私たちに求めていることとは、答えのない問いに対し自らの答えを見出す力、その強い意志を持つことだと思います。例えば、超域プログラムに入るまで、教育プログラムは上から与えられるものであると思っていました。ただ、社会が求めているのは、答えのない理想のイノベーション博士人材とは何かという問いに対して常に自問自答を繰り返し、自らの暫定解を模索し続けることのできる人材ではないかという考えに至りました。いつの時代も、イノベーションとは既存の枠組みへの挑戦から生まれ、当たり前を疑うその姿勢がイノベーションの始まりではないかと私は思います。
 超域プログラムに所属し、今回のような機会に多く恵まれているからこそ、目標にむけ自分に足りないものを今一度考える必要があると感じました。自らの将来への不安は誰しも持つもので、これから私はどこに向かうべきなのか、それは誰も教えてくれません。ただ、どの分野においてもリーダーになるためには、このフォーラムで経験した悔しさを忘れず、次につなげていける意志の強さは必要不可欠であると私は考えます。リーディングフォーラム2015に参加させていただき、また一つ自分の中で大きく成長を感じることができましいた。これは、私たちにグループが最終的に出した答えでもあるのですが、こういった“気づき”を与えてくれるリーディングフォーラムのような場を設けることこそが、理想の教育プログラムではないでしょうか。