TEXT BY 生川 佳奈
研究科:生命機能研究科
専攻:生命機能専攻
専門分野:免疫機能統御学

  私がフィールド・スタディ(フィリピン)としてマニラに滞在していた際、Ateneo de Manila大学のMBA学生とワークッショップや意見交換を行なった。今回そのときの学生らが5月9日〜5月14日にかけて、大阪大学を来訪した。フィリピンで行われたワークッショップのテーマは特にフィリピンにおける社会的課題についてであった。今回は日本で行なうということもあり、日本が直面する社会的課題に関して分析し、課題解決に向けたワークショップを行なった。

■5月10日(金):
  超域プログラムの講義において、日本の歴史について宮原准教授(GLOCOL)より教えていただいた。フィリピンは大航海時代から銀などの流通が盛んになり、交易を通じて発達していった。今でもセブはその名残を残し今もなお発展し、フィリピン第2の都市となっている。大阪という都市も天下の台所として発達し、商人の町となり今に至っている。このように同じように交易で発達したといっても、発達した後の文化や風習は全く異なる。授業を通じて、各国の独自性を知る良い機会となった。
■5月11日(土):
  大阪大学にて1日目のワークショップを行なった。
  日本における移民政策を議題として、問題点、解決策を議論した。フィリピンでは国境の壁が非常に低く、国籍について非常にオープンな対応しているため、フィリピンの学生に議論の進行をお願いした。
  移民政策についてアジア各国と比べ、日本は途上国といえる。日本の移民政策について議論する上で、今回初めて日本を訪れたフィリピンの学生が日本についてどのように感じているかは、非常に大きな関心事であった。彼らは、書店に置かれている書籍やレストランの表示、地図の表示・看板を例に出し、日本においては英語を目にする機会がないことを指摘した。日本では英語が通じることが当たり前でないこと、外国人として注目されることに驚き、その点について外国人、移民に対する接し方が全くフィリピンと異なるとのことであった。これらの指摘から、単に移民を受け入れるだけの制度上の体制の問題だけでなく、移民が自発的に訪れやすく、住みやすい国づくりを生活の視点から変えるべきであるという結論に至った。
  また、仮に日本政府が移民政策を促進した場合どのような問題が起こりうるかについても話し合った。移民はどのような職に就くのか、移民とはどのような人達を定義するのか、難民との完全な分類など細部に至るまで様々な問題が取り上げられた。
  政府が移民制度を作り社会に落とし込むのではなく、社会が必要であると政府に訴え制度化する方法もあることをフィリピンの学生から教わった。
  日本の英語力が他国よりも低いという問題についても、日本の教育制度が問題なのではなく、必要であることを声に出して訴えなかった我々にも非があることを学んだ。フィリピンのように個の力を発揮することの重要性を学びとった。
■5月12日(日):
  万博記念公園、日本庭園「汎庵」において2日目のワークッショップを行なった。午前中は、茶道を実際に体験し、日本の文化を直に体感することができた。午後は過去に決められなかった議題の例を扱った。なぜ決断せず決定を先送りにしたのか、あるいは決断出来なかったのか。決議すべきこと、しないことの違いは何であるかを議論した。愛媛丸の沈没事故の訴訟、防災士の民間資格を国家資格にするか否か、沖縄基地移設など多岐にわたる問題についてグループに分かれて討論した。

茶道書き出し のコピー

  2日目のワークショップを通じて、決断を下すためにどのようなアプローチをすれば良いか、具体的な事例を用いて話し合うことになっていたが、決断を下すことがとても難しいことを理解した。それぞれの案に関するメリット・デメリットを上げ、メリットの方が明らかに多ければ、素早く片方の案に決定が下される。しかし、実際はそうではなく、それぞれ同じ数だけメリット・デメリットは存在し、同じ分だけ損害を受ける人が存在する。その中でどちらを優先させるかを決断することは非常に困難である。いずれかを決断をし、現時点でそれが社会的に正であると判断されても、数年後には間違いであったと指摘されることもある。一方でどれほど時間をかけて結論を導くべきか、ということに答えはない。決断する勇気そして、適切なタイミングを見逃さないことの重要性を強く感じた。
  全体を通してブレイン・ストーミングを複数回行なったが、様々な切り口からトピックを観察し、キーワードを探す手法を学んだ。また、日本とフィリピンの比較のために、フィリピンの現状を質問することが多々あったが、その中には常にフィリピン人の文化・人と人との繋がりを感じた。さらに、何が問題であるか議論する際、フィリピンの情勢について質問したところ、フィリピン学生はフィリピンの政治制度など内情にとても詳しいことに驚いた。そして周囲の意見を取り入れようという意欲に非常に感心した。
  今回は、フィリピン学生を招く側に回ることで、無意識下にあった日本の当たり前を意識化させることができた。そして、フィリピン学生の視点から日本の良き所を明らかにしてもらい、日本の素晴らしさを再認識することができた。日本は住み心地の良い快適な国である一方で、島国であり、周囲からの情報を得にくい環境である。今回のワークッショップを通じて、よりオープンマインドで取組むこと、周りの国の世情を意識的に収集することが不可欠であると痛感した。

全体写真

■第7回超域スクール:アテネオ学生との交流を振り返って
  フィリピン学生の日本に対する印象について聞いた。日本人のステレオタイプ、文化、グローバル化についてコメントしてもらった。 日本を訪問し、そしてケースをやり、それまでは日本は進んでいて、横柄で他人のことをあまり考慮しないと思っていたが、それは違っていたことがわかった。日本の人々は、人当たりがよく、親切で、礼儀正しいということがわかった。そして、他者を尊重していることを知った。お店での対応や、お寺での対応から見て取れた。靴をそろえて外側に向けて脱ぐという習慣もその表れであろうと感じた。だからこそ、日本人は静かで、他人に対して害を与えず、平和的である。他人の気分を害しないように、周囲のハーモニーを常に感じているように感じた。 日本は、日本の文化に根差している。京都の寺を保持していることに感銘を受けた。ビジネスの仕方にも特徴がある。例えば、商品ディスプレイの仕方や、少ない店員で運営している。日本独自の文化や風習でシステムを運営している点が、日本以外の他国と異なることに驚いた。他の習慣を取り入れず、日本は伝統を保持し、近年発展が停滞しているように感じたが、伝統保持と同時に社会はしっかりと着実に進んでいることがわかった。
  日本を訪れて、言語の面では苦労した。食堂や駅の案内も第2言語を探さなければならなかった。日本に興味を持っている外国人を今より考慮して、言葉はGlobal化した方がよいと思う。日本はより発展するためには、他国の文化に適合させるということも必要と思う。
  これらのコメントを通じて、フィリピン学生が日本に来る前と後では、印象が変わったように感じた。確かに海外実習でフィリピンを訪れることで、固定概念を覆す機会となったが、それは今回来日したフィリピン学生にも同様であったことがこの振り返りのコメントから伺えることができた。他国の同世代の学生と触れ合うこと、そして実際に訪れることの大切さの両方を強く実感することができた。