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Texted BY:経済学研究科 佐々木 周作

  自律的な運営を目指して、全国の大学が寄付金の獲得に本気を見せている。国立大学の中で先陣を切るのは東京大学で、2012年度1年間に12億9千万円の獲得実績がある。大阪大学も2031年の100周年に向け、100億円の寄付金基盤を達成することを宣言しており、2009年には専門部署である大阪大学未来基金を立上げ、様々な活動を展開している。しかし、その一方で、2009年5月から2013年3月まで、約4年間の獲得実績は26億8千万円と、潜在的な寄付者となりうる大学OB・OGとの良好な関係構築に向けて更なる工夫が求められている。

  第14回超域スクールでは、一般財団法人ジャストギビング・ジャパン代表理事で、本学OBでもある佐藤大吾氏を招き、超域プログラム12年度生で、経済学の立場から寄付研究を行う佐々木周作と恊働してファシリテートをしながら、「どうすれば、大阪大学への共感を高めながら、スムーズに寄付金を集めることができるか」について考えるワークショップを開催した。佐藤氏は、2010年3月、世界最大規模のオンライン寄付プラットフォームである「JustGiving」の日本版誘致を成功させると共に、2013年6月にはクラウドファンディング・サイト「ShootingStar」を設立し早々と軌道に乗せた、日本を代表する起業家の一人である。
  この日の参加者は30人を超え、文理双方の学部生、大学院生から、他大学の大学職員などの参加があり、本テーマへの関心の高さが伺えた。

大学に共感してもらうには…?

  どのようにすれば、共感を高めながらスムーズに資金を募ることができるか。その突破口の一つとして、現在注目を集めているのがクラウドファンディングと呼ばれる手法である。一般にインターネットを通じて、沢山の個人から小口資金を調達する方法を指す。例えば、開発途上国を支援するNGOが新しいフェアトレード商品の開発費用として、100万円の目標金額を100人から1万円ずつ集めるようなプロジェクトを想像して貰えれば良い。
  従来の寄付との違いとして、支援者に対して「ギフト」と呼ばれるお返しが用意されていることが挙げられる。大抵の場合、ギフトの金額は支援額未満に抑えられる。例えば、1万円の支援には5,000円相当のギフトがお返しとして贈られる。
  1万円満額を寄付する気にはなれないが、一定程度のお返しがあるなら支援する気も高まる。或は、ギフト自体がとても魅力的で、それ欲しさに自ら進んで支援者となる、というように、これまで寄付者ではなかった層を取り込める手段として、現在、様々な分野での利用可能性が検討されている。

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  前述のように、大阪大学は本学OB・OGとの効果的な関係構築方法を模索しており、特に、若者世代のOB・OGに再度、大学に関心を寄せてもらうための工夫を強く求めている。クラウドファンディングは、インターネットを経由する手法であることから若者世代への訴求力が強い。以上から、今回の超域スクールでは、大阪大学の新しい資金調達方法になりうるものとして、クラウドファンディングを採り上げた。

大阪大学の“ギフト”

  ワークショップでは、まず参加者30名を6名毎の5グループに分けた。お題は至ってシンプル、下述する状況の下で、「どんなギフトであれば、あなたは買う気になるか?」である。DSC_0294
  あなたは大阪大学の卒業生で、現在は既に社会人だとしよう。卒業から3年程たったある日、大阪大学から次のような便りが届いた。「…大阪大学は2031年の100周年に向け、寄付金額100億円の達成を目標にしています。ひと口○○○○円で、応援してくださった方には、漏れなく△△△△をプレゼントいたします。」この状況の下で、先述のように、どんなギフトで、いくらのギフトであれば、あなたは絶対に買うと思うかについて考えてもらった。
  多種多様なアイデアが出る中で、特に興味深く感じたものを以下に紹介したい。

1:講義動画の優先視聴権
国際的に講義のオンライン配信事業に参入する大学が増加する中で、寄付者に対して優先的に動画を配信したり、或は、特別動画を配信したりする取組みは時流に合っているかもしれない。

2:大阪大学で生まれた発見・発明品に名前をつけられる権利
英米では、大学内の建築物に高額寄付者の名前をつけることは一般的であるし、小口の寄付者に対して、教室の命名権をギフトにする場合もある。大阪大学の個別研究にちなんだアイデアは他にも出され、例えば、自分のアンドロイドを作製してもらう権利などがあった。

3:卒業生同士で合コン
一見奇抜なアイデアではあるも、パーティ等への参加券をギフトとするプロジェクトはとても多い。また、今回のシチュエーションが、卒業から3年後に寄付を頼まれるものであったことを考えると、違う分野に旅立った卒業生に出会いを求める需要は一定程度あるかもしれない。

4:手塚治虫氏や盛田昭夫氏に並んで「卒業生一覧」に名前が掲載される
こちらは佐藤氏のアイデア。寄付者の名前をどこか分かりやすい場所に掲載するというギフトはもう既に一般的になっているため、十分なインセンティヴとして機能しているとは言えないかもしれない。このアイデアのように、著名人と自分の名前が並んで掲載されることは満足のいく水準まで自尊心を高める可能性があり、より一層寄付したい気持ちにさせるということは考えられる。

 

  上に紹介したアイデアはほんの一部で、当日は多種多様な案が発表された。自分だけは絶対に買うだろうというギフトから、自分を含め友達10人程度は買うのではないか、或は、自分を含め友達100人程度は買うのではないかのように、幾つかの類型の下でギフトが提案された。

今のままでは絶対成功しない、でも…

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  最後を飾る佐藤氏の講評では、学生らしい自由闊達な発想を讃える一方で、大学が寄付を集める際に抱える難しさについて率直に言及された。「顔が見えない、人が見えないものには共感しようがない。だから、『大阪大学が寄付をお願いする』という形式を取っている限り、十分な金額を、しかも効率的に集めることは本当に難しい。大阪大学の呼びかけでは集まらないものでも、大阪大学工学部だったら集まるかもしれない。それが、大阪大学工学部◎◎専攻の佐藤研究室だったら、『佐藤先生の頼みなら』と集まる可能性はずっと高まる。」要は、それぞれの企画にとって適切な単位で、個別的に資金調達活動を行える枠組みを大学内に整えることが最も必要なのだろう。その枠組みが整備された下で、学生や教職員、研究室やサークルがそれぞれのイシューでクラウドファンディングする状況が創出されれば、大学の資金調達事情は随分と変わるかもしれない。
  今回の超域スクールを通じて、参加者一人ひとりが大学に関わるものとして、「大学への寄付」という事柄が段々と自分ごとになっていっている様子が観察された。私自身も、関連する研究分野に携わるものとして、大阪大学未来基金の目標達成に対して最大限貢献できるように活動していきたいと思っている。既に実務家として活躍されている佐藤氏の協力も仰ぎながら、2031年の100周年に向けて色々と仕掛けていきたい。

関連リンク:第14回超域スクール(平成26年1月24日開催)