Edited by 大阪大学大学院理学研究科(超域2013年度生) 山脇 竹生
Texted BY: 理学部 内藤ひかり

■はじめに

 今回の記事は、大阪大学理学部2年生の内藤ひかりさんが執筆しました。彼女と超域の接点は、編集者らが企画した第18回超域スクール「魅力を伝える言葉とは?〜阪大グッズのキャッチコピーを考える」(2014年12月16日開催)への参加でした。さらに、彼女を含む一部の参加者は、超域スクールでのワークショップを応用し、現在は2014年度から始動したプロジェクトである、大阪大学ウイスキー「光吹-MIBUKI-」のプロモーション活動を、超域生と行っています。
 超域スクールで学んだこととは?そしてそれが現在の活動にどのように活かされているかを記事にしてもらいました。

魅力を伝える言葉とは?

 皆様は、日頃目にする広告のキャッチコピーがどのように作られているかご存知でしょうか?第18回超域スクールでは、数多くの阪大グッズを手掛け、大学内のユニークなポスターをディレクションしてきたクリエイティブユニット 准教授 伊藤 雄一先生を講師として、キャッチコピーをどのように作成されているのか、さらに、その作成ノウハウを学びました。
 伊藤先生のご講義によれば、キャッチコピーを考える際に必ず考慮する事項があり、

・最も重要な製品の事実を伝える「FACT」
・事実から得られるメリットを伝える「MERIT」
・事実から得られる事柄を対象者の心に訴える「BENEFIT」

の3点を上から順に考えることで、客観的に調べることが出来るFACTから、直接考えることが難しいBENEFITを演繹的に導くことが出来ます。キャッチコピーにとって大切なことは、事実を伝えることではなく、キャッチコピーを見た人がどう思ってほしいのか、どんな行動につなげてほしいのかまで考えていく必要があるというのです。
 例えば、「100%ナチュラル素材でできたセーター」のキャッチコピーを考える場合、

・100%ナチュラル素材「FACT」
・優しい肌触りを楽しめる「MERIT」
・ふたりで寄り添うときにぴったり「BENEFIT」

という風に考えていくと、単にナチュラル素材という「FACT」のみを推すよりも、二人で寄り添えるという「BENEFIT」をキャッチコピーに加える方が、より製作者が意図したものが伝わるキャッチコピーになるということが分かります。ありのままの事実を伝えることだけでなく、それを見る人に伝えたい事に焦点化していく必要性があるのです。

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 スクールの後半では、この知見を活かし、大阪大学ウイスキー「光吹-MIBUKI-」のキャッチコピーを考えるワークショップを行いました。一見するとシンプルで簡単なように思えますが、実際に考えてみると、難しく、時間内に満足のいくものは出来ませんでした。スクールの最後に「光吹-MIBUKI-」のプロジェクトへの協力者募集をしていたので、キャッチコピーを完成させたいと考え参加しました。

大阪大学ウイスキー「光吹-MIBUKI-」のキャッチコピー

 大阪大学ウイスキーのプロモーション活動の一環で、「光吹-MIBUKI-」のキャッチコピーを考える際、特に頭を悩ませたのが言葉の選び方です。例えば「光」を表現しようとする際には「照らす」「輝く」「灯る」「煌めく」のように、その状況を表す言葉はひとつではなく無数にあります。数ある言葉の中から微妙なニュアンスの違いをくみ取り、最も伝えたい内容に合致するものを選択する必要がありました。
 この選択には、読み手の「INSIGHT」を考えることで、言葉の絞り込みをすることができます。この商品のキャッチコピーを、どの表現で伝えれば心に響くだろう。これには論理の枠組みを超えて、人の感情をくみ取る必要があります。私は、理学部の講義で論理的な物の見方を学ぶことは多いのですが、こういったロジカルに導いた表現を相手の感情を考慮し、それに合わせて伝達することを経験することがなかったため、とても難しく感じました。こういった活動を学部生の時点で体験できたことは貴重なことだと思います。

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 「光吹-MIBUKI-」のキャッチコピーを作成する際、「光吹-MIBUKI-」には商品としての「FACT」が複数存在することに気付きました。今回ポスターを作製したメンバーの中でも、心を惹かれ、アピールしていきたいと考える「FACT」は各自で異なるため、全ての事実を伝えることはできないため、どの事実をキャッチコピーでアピールしていくかを決めなければなりませんでした。その際に、超域スクールで学んだ考え方を用い、キャッチコピーを目にする対象者である阪大生がどのようなINSIGHTを持っているかを考えることで、伝えていく「FACT」を決定しました。そこから「MERIT」や「BENEFIT」へとコピーを発展させ、最終的なキャッチコピー案の作成を行いました。このことによって、より阪大生のニーズに訴えかけることのできるキャッチコピーを作ることができたのではないかと思います。

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 超域スクールを通し、何気なく見ているキャッチコピーが論理的に考えられて作られていること、さらに、ロジックで作られる言葉の後ろに人の感情を読み取るという過程が必要であることを知りました。大学の講義だけでは得られない、貴重な体験となりました。

■さいごに

 僕が超域プログラムでの活動を続けていて思うのは、ものごとを色々な視点で見られるようになってきたということです。たとえば、同じ現象を観測しても文系と理系の人ではそのとらえ方が違う。それらのとらえ方を学んでいくうちに一人であらゆるとらえ方が出来るようになってきます。今回の超域スクールでは、この体験をしてほしいと考え、伊藤先生を主として多くの方の協力のもと、コピーライターの視点を考えるワークショップを実行することが出来ました。普段見ていたキャッチコピーも今回のスクール後に見直してみると、その裏にある思いを読み取れるようになったのではないでしょうか?