授業名:スポーツコミュニケーション
担当教員:岡本 依子(アスリートネットワーク)
     平井 啓(未来戦略機構)
     黒崎 健(工学研究科)
     山村 麻予(未来戦略機構)
Texted BY: 工学研究科 2014年度生 立山 侑佐

 ライフスキルという言葉をご存知だろうか?
 世界保健機関(WHO)はライフスキルを「日常の様々な要求に対し、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」と定義している。大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムでは、このライフスキルをトップアスリートとスポーツを通して学ぶ授業が設けられている。
 その授業の一貫として、元全日本女子ソフトボールチーム監督の宇津木妙子氏をお招きし、講演会が開かれた。「努力は裏切らない」というテーマのもと、認めてくれない母親にどうやって認めてもらうかにもがき苦しんだ幼少時代、社会人とアスリートを同時並行していく大変さ、周囲の反対を押し切り初の女性監督に挑戦したことなど、その時々で、まさに努力を行い、苦難を乗り越えてきた宇津木氏の話は非常に魅力的で説得力があった。

言葉は人を活かすこともあれば、殺すこともある

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 講演の中でも、特に宇津木氏の『人を育てる』考え方に感銘を受けた。宇津木氏は監督になった際、「宇津木ノート」というものを導入した。このノートを通じて、選手が日々どういった行動をとり、どんな事を考えているのか、他の選手についてどう思っているのかなどを書かせ、選手を理解するための努力をしたそうだ。そして、一人一人に適した言葉をなげかけることで選手を活かすことに注力した。その結果、2000年のシドニー五輪ではチームを銀メダルに導いた。
 しかし、放った言葉がある選手を深く傷つけ、他の選手から逆に叱られることもあったそうだ。ただ、選手から叱られるような環境をつくったのは、宇津木氏が自分の子どものように選手に真正面から向き合ってきたからこそだと言える。

 その後、ゲストとして参加してくださった平野俊夫総長を交えて意見交換会が行われた。平野総長から「夢は叶えるためにある。目の前の山を登りきれ。明日死ぬと思ってこの一瞬に集中しろ」というメッセージを頂いた。私はこの言葉に活かされたと思う。今までの自分の生活を見直し、日々の努力を大切にしようと決意を新たにすることができたからだ。
 組織のトップとして、やらなければならないこと、考えなければならないことは山の様にある。その中でも、言葉のもつ周囲の人に与える影響の重要性に気付かされた。しかし、宇津木氏や平野総長のように言動に説得力を持たせるためには、大きな困難や苦悩を乗り越えた経験や、向き合い続けた時間が必要だと思う。まずは自分自身が夢や目標を持ち、日々努力を行っていこうと感じた。

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スポーツ合宿を通じて

 講義の後、本プログラムの授業の中で最も異質で特徴的であると言われる2泊3日のスポーツ合宿が始まった。「いったい何をするのか?」「なんで超域生がスポーツ?」この合宿に対して湧き上がる疑問は多く、私も同じ感覚を抱いていた。
 しかし、合宿を経て私はこう思う。これほど実践知のリーダーシップを学べる機会はないと。なぜか?それは、この合宿が提供する環境にある。

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 この合宿では、岡本 依子 特任講師(テコンドー・シドニー五輪 銅メダリスト)をはじめ、朝原 宣治氏(陸上短距離・北京五輪銅メダリスト)、江里口 匡史氏(陸上短距離・ロンドン五輪代表)高山 勝成氏(ボクシング・第10代WBC世界ミニマム級王者)、高山氏を育てたトレーナーの中出 博啓氏など、世界トップレベルのアスリートらが講師を勤め、早朝のサーキットトレーニング、駅伝、テコンドー、フットサルなどを通して我々を心身の限界まで導いてくれる。そして、どの競技もチームで取り組むことを求められる。
 チームメンバーに迷惑をかけないためにも、筋肉や心肺機能が悲鳴をあげても歩みを止めることはできない。その中で、「自分にはできないこと」を嫌でも突きつけられる。こういった顕在化する能力差がスポーツにはある。そして、自分が極限に追い込まれている中で、チームが勝つために「自分にできること」を探す。”プレーで示す”、”声を出す”、”戦略を考える”。極限状態と競争性が交じり合う中で、われわれの真価が問われる。人は自分の役割を模索し、実行する。これこそが、それぞれにとってのリーダーシップであり、理想のチームの形ではないだろうか?「がんばれ!」「後は任せろ!」なんて普段言えないような言葉を恥ずかしげもなく言えてしまうから不思議だ。
 こんなに熱くなり全力を注ぐ経験は、教室内で行われるディスカッション形式の講義ではなかなか経験できない。普段の生活では、虚栄心や恥ずかしさ、コミュニケーションそもそもの難しさなど様々な要因が自然とブレーキをかける。こういった日常にも転用できるリミッターの外し方(ライフスキル)を学ぶことができた経験は大きいと感じている。

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“スポーツコミュニケーション”とは?(合宿を終えて)

 超域イノベーション博士課程プログラム3期生(2014年度生)の奥野さん堀さんにスポーツ合宿を通して学んだことについて、また、スポーツ合宿に参加してくださったアスリートネットワークの岡本依子特任講師、鈴木由美子さん、江里口匡史さんには人材育成やリーダーシップについてインタビューし、その模様を動画にまとめました(撮影・編集:冨田耕平、佐藤紗良)。

過去のライフスキル記事
ライフスキル・トレーニング2012 レポート
ライフスキル・トレーニング合宿2013