授業名:ソーシャル・イシュー解決
担当教員:福吉 潤((株)キャンサースキャン)
                 平井 啓(大型教育研究プロジェクト支援室)
                 標葉 靖子(未来戦略機構)
授業開発チーム:
                 標葉 靖子(未来戦略機構), 福吉 潤((株)キャンサースキャン)
                 平井 啓(大型教育研究プロジェクト支援室)
                 伊藤 宏幸(ダイキン工業(株)), 三田 貴(未来戦略機構)
                 山崎 吾郎(未来戦略機構), 野々村 英彦(未来戦略機構)
                 藤田喜久雄(工学研究科)

※「ソーシャル・イシュー解決」とは、実際の案件を題材とし、「1週間ほどフィールドに出向いて調査やインタビューを行い、現状を分析して独自に課題を発見し、グループで議論を重ねて解決策を見出す」までの一連のプロセスを通して社会的課題解決に取り組む、ディスカッション型並びにプロジェクト型の授業です。


Texted BY: 工学研究科 武居 弘泰

  恐らくこの授業を最も楽しみにしていた学生の1人、一期生の武居です。
そもそも僕にとって、超域の醍醐味ともいえる、チームを組んで議論を通して課題を解決に導くというプロセスに取り組むことが(とても大変ですが)楽しくて仕方なく、今度はどんなメンバーと一緒にやれるのだろうとワクワクしながら授業の日を迎えました。毎回、超域のグループ活動ではドラマが生まれます。このレポートを通して、少しでも授業の様子が伝わればと思います。

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1. 課題解決ケーススタディ – 人それぞれ、思考の仕方に“クセ”がある –

  初日、教室に入るとすでにグループ分けがされており、5人1チームで机に座るとそこには大量の資料が置かれていました。それらは全て、実在するとある施設をモデルにしたケースの資料でした。授業冒頭に現状分析や課題整理の手法の講義があったあと、①制限時間内に資料を読み込み、②書かれている施設の現状分析と解決すべき課題の抽出、③そして解決策の提案を実際に行うように指示がありました。とても時間内に読みきれる量ではなく、慌ただしく分担して資料を拾い読みし議論を開始します。時間のプレッシャーを受ける中、最も盛り上がったのは、なんと、終了時間が5分前に差し迫ったころでした。

A「え?どういうこと??何が言いたいのか全然理解できん!」
B「だからこの要因は*@&◯☓☆/・・・」
A&武居「???」
武居「いやいや、もう因果関係がそもそも逆でしょ!」
B「だから!〜°☆♪¥…じゃないか!」
A「ちょっとストップしようか」
武居「いやだからどうしてそうなるのか知りたいんだって」
A「ストップ!あともう5分しかないねんで!まとめにはいらなあかんやろ!」
B「大きな声出すなよ!ちょっと冷静になって!!」

  5分後には結論を出して発表しなければならないというのに、お互いの言っていることが伝わらずフラストレーションは溜まり、議論は一向に収束しませんでした。この後、何とか発表まで乗り切ったのですが、このときとても大きな収穫がありました。その後の休み時間に、紛糾した議論をBと振り返って話し合っていたのですが、あれだけ議論中はお互い理解できなかったのに、結局言いたいことは二人共同じであることが分かったのです。これには時間的制約などの原因が考えられますが、その様子を見ていた先生に教わったのは、「人それぞれ、思考の仕方に“クセ”がある」ということです。
  例えば研究室で先生や後輩と議論するとき、今まで僕は自分の考えていることが相手に伝わらずに苦しむという経験はあまりありませんでした。たいていの問題は図に書いて説明したり、もしくは相手がこちらの意図を自然に汲み取ってくれるので解決します。その理由は、恐らく同じ学問分野にいるために、お互いが同じ背景を共有しており、かつ思考パターンが似ているからだと思います。
  今まで所属してきた大学のコミュニティは、クラスにしろ部活にしろ研究室にしろ、同質な人間同士の集団であったことに気付かされました。自分の考えを説明したり、相手の考えを理解するために苦しむというのは、超域ならではの経験だと思います。

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  さて、ケーススタディは、考えた解決策を各チームが発表した後、現実にはある有名なデザイナーの協力を得て革新的に生まれ変わったということが明かされ、その成功要因を考察しました。「現状を分析して課題を見つけ、解決策を出す」というプロセスを、この後のグループワークの前にシミュレーションすることができ、これからのグループワークに、期待と手応えを感じました。

2. グループワーク – 「集団」から「チーム」へ –

  次に、課題解決に向けて、より実践的なグループワークが始まりました。民間の方に協力していただき、実際に現地調査を行い、相手が抱えている問題意識から解決すべき課題を見つけ解決策の提案をプレゼンテーションするというものです。僕は4人のチームで、ある施設の来館者数を増やすという課題に取り組みました。決まっているのは、翌日にその施設の現地視察をさせていただけること、3日後に中間発表、6日後に最終発表があることだけでした。不安は感じながらも、個人的には「すごく面白そう!」という軽い考えでスタートを切りました。
  自分たちで目標を決め、スケジュールを立て実行に移していく中で、専攻での研究活動も同時進行で行うため、この授業のための打ち合わせや個人作業はたいてい深夜に行いました。当然議論が行き詰まりどうしていいかわからなくなる状況が何度も訪れ、疲れもあり重たい雰囲気になることもしばしばでした。ただ、事前のケーススタディの経験から、チーム内のコミュニケーションの問題には冷静に対応することが出来ました。

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  このグループワークを通して得られた最大の経験は、徐々に歯車が噛み合いうまく回り出すように、ただ4人集めただけの「集団」がそれぞれのメンバーの能力が生きる「チーム」に変わっていったのを実感できたことです。
  普段から、超域の授業では自分の頭で考えたことをみんなの前で発信していく機会がとても多いです。そうしたことを一年半もずっとトレーニングしていると、自分の能力は何が強くて何が弱いのかが自ずと分かってきます。異質な人間同士が集まった集団の中で負荷をかけられることで、他人と比較して自分を客観的に見ることが出来るようになってくるのです。もちろん、相手の長所や短所も分かってきています。そうした普段からの学びがあったため、今回のグループワークでは自然と各自の強みが発揮されるような形に向かって行きました。
  たとえば今回は、現地の様子を詳細に描写することに長けたメンバーがいれば、それらを整理しまとめ、それを元に解決すべき課題を論理的に導くところで貢献するメンバーがいました。また、解決策のアイデアを量産するアイデアマンがいれば、最終的にプレゼンできるように論理を組み立てまとめるところで力を発揮するメンバーがいました。そしてそもそもチームの大きな方向性を決定し、全体のスケジュールを管理するところも、最後までチームリーダーがやりきってくれました。それぞれのフェーズで、存在感を発揮するメンバーが変わったのです。
  僕としては、議論を収束させてプレゼンの形にまとめるところでチームに貢献できたと思います。きっとチームメンバーのバランスが良かったのだと思いますが、ある程度自分のことも相手のことも客観的に分かっていたので、役割分担ができチームワークが発揮できたのだと思います。

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  結果としてアウトプットの質も良くなり、中間発表、最終発表では、協力していただいている施設の方々に実際にプレゼンし、「分析が的を射ており、説明を聞いていてゾクゾクした」、「検討させていただきます」といったフィードバックをいただくことが出来ました。

3. まとめ – 「メンバー」から「リーダー」へ 〜この授業で掴んだリーダー像〜 –

  様々なタイプのリーダーが世の中にはいると思いますが、人の長所を見抜き、適材適所でそれぞれの能力を活かしてあげることが出来るような、指揮者タイプのリーダーが今の日本には求められているのではないかと思います。またそうしたリーダーになることが超域イノベーションプログラムを通して我々履修生が目指す姿の1つであり、今回は授業の中だけとはいえど、少しだけそれに近づけたのではないかと思います。

  最後に、協力していただいた方々なくして、この有益な授業は成り立たなかったと思います。この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
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