集合写真(ペリリュー島)

■はじめに

  パラオ共和国は、日本と歴史的に深い関係を持ち、1914年から太平洋戦争終了の1945年までの31年間、日本の委任統治領であった。そのため、現地には日本語や日本の文化、風俗が色濃く残っており、両国間の交流は現在でも盛んである。例えば、コロール島とバベルダオブ島の間には日本が建設を手がけたKBブリッジが架かっている。これは、通称「日本・パラオ友好の橋」と呼ばれている橋だ(写真下)。

KBブリッジ

  今年春、2013年度生の7名と教員2名は、このような日本と繋がりの深い国、パラオで二週間のフィールド・スタディを終えた。超域プログラムのフィールド・スタディの特色の一つとして、参加する履修生が多様な専門的バックグラウンドを有することが挙げられる。この多様性は、同じアクティビティ内においても、視点の取り方や得られるものが履修生ごとに異なり、各々の学びを全員で共有することで、新たな知見を得ることもあれば、自分が気付いていなかった問題を発見することに繋がった。
  私たちが一個人として、そして超域生として、フィールド・スタディで学んだことは一体何であったのか。ここではその学びを、「文化」「行政」「環境」「教育」「歴史」「観光」という、六つの視点から考えたい。

■文化について 〜食生活・労働方式〜

  Texted BY 工学研究科 知能・機能創成工学専攻 王 孝汝

王

  長い歴史の中で、その独自の伝統を残してきたパラオでは、現在グローバル化の影響でその伝統も変わりつつある。今回のフィールド・スタディで印象に残ったこと、それはパラオにおける「グローバル化の波」であった。
  例えば、食生活と労働方式。パラオの伝統的な食事は魚とタロイモである。そして、男性は漁業を行い、女性はタロイモ畑で労働するというのが従来の役割分担であった。しかし、現在では食生活も労働方式も大きく変化し、伝統料理よりも西欧料理が主流となり、多くのパラオ人女性は畑仕事をしなくなったそうだ。
  また、パラオは母系社会であり、女性を敬う文化は現在でも根強い。かつて、伝統的なリーダーであるチーフは、原則として女性によって選ばれ、チーフクラスの男性しか伝統的集会所(Bai)に入ることができないなどの慣習もあったそうだ。今では、アメリカ文化との融合により、チーフと政府の両方が協力して国を管理している。(下記写真は伝統的集会所(Bai))

伝統的集会所(bai)①


■文化について 〜不可視的問題〜

  Texted BY 人間科学研究科 基礎人間科学専攻 篠塚 友香子

【文化②】コロール

  今回、私たちはパラオの至る所に日本を発見し、両国の歴史的な関係を「可視的」に捉えることができた。パラオ最大の都市コロールを歩いていると、見覚えのある石造りの建物に遭遇する(写真左)。これらは日本統治時代に建設されたものだ。そして、現地の人々と話していると、日本語由来の言葉を耳にすることもあった。
  一方、パラオでの文化的経験を通して、グローバル化の「不可視的な」影響も強く感じる。例えば、環境問題や伝統文化の衰退といったものは、多くの要因が複雑に絡み合い、急速に進むがゆえ、もはや実体として捉えることはできない。私たちは現代において、「不可視的」で混沌とした各国(文化)間の関係や、そこで生じるグローバルな諸問題を扱っていかなければならないのである。

  本プログラムの「超えることでしか、生まれない」という言葉は、まさにこのような問題の解決を念頭に置いたものだ。本フィールド・スタディでは、パラオや世界が抱える問題について履修生や現地の人と議論を重ね、その解決に取り組む力を実践的に養うことが目指された。この経験を我がものとし、超域での活動や自身の将来に活かしていきたいと思う。


■行政について〜資源への対策〜

  Texted BY 理学研究科 物理学専攻 砂金 学

砂金

  私たちは、首都マルキョクを訪問し、伝統首長と知事と会食の機会を得た。会食後は、山を登ったところにある伝統的集会所(Bai)を見学した。そして裁判所を訪問し、法廷と最高裁長官の部屋を見学した。きれいなヨーロッパ風の建物の中には、最高裁長官の意により芸術作品が展示されているのが、印象的であった。
  また、大統領への表敬訪問を行う機会もあり、その中で印象に残っているのは、開発・観光とエコとのバランスが重要であると大統領が述べられていたことである。例えば、サメをフカヒレ用に一匹獲ってもせいぜい100ドルにしかならないが、そのサメを生かしたまま保存すれば、観光資源としてさらなる富を創造することができる、という持続可能な環境資源について話されていた。

【行政】裁判所①

  環境対策といえば日本では技術開発のことを想像していたが、パラオの人々にとっての環境対策とは国家の収入源である「観光」と密接に関連しており、ひとつ「環境対策」という言葉をとってもこのように大きく違いがある。多文化共生の未来においてこういった言葉の意味の違いを理解することが重要であるとつくづく実感することができた。

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