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インタビュアー:2013年度生 篠塚 友香子
        2014年度生 堀 啓子
インタビュイー:伊藤宏幸先生(ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター

取材日:2016年1月26日

超域イノベーション博士課程プログラムのアクティビティを通して履修生と関わってきた方々に、本プログラムの魅力や想いを語っていただく企画、超域パートナー。第5弾となる今回は、超域でも授業を担当してくださっているダイキン工業株式会社の伊藤宏幸先生に、本プログラムとの関わり方や、履修生の印象についてお話を伺いました。

「社会は一筋縄ではいかない」ということを知って欲しい

インタビュアー:
 はじめに、伊藤先生が超域プログラムに関わるようになった経緯を教えていただけますか?

伊藤先生
 ちょうど私がダイキン版Future Centerの機能を持った新センターの準備室に編入させてもらった頃に、プログラムコーディネーターの藤田先生から声がかかったことがきっかけですね。藤田先生とは機械学会を通した以前からの知り合いで。最初は、学外から客観的にコメントする程度でコアな部分にまで関わる気はなかったんですよね。ところが超域の準備・検討段階の会議に参加して話していくうちに、じゃあプログラムづくりも、授業の担当も…とどんどん巻き込まれていって(笑)


インタビュアー:
 そうだったんですか(笑)。伊藤先生は超域の話を聞いたとき、どのような印象を持たれましたか?

伊藤先生
 これまでも産学連携のプロジェクトに携わってきて、大学の研究者と産業界の人たちの間のコミュニケーションを円滑にするためにはどうしたら良いかといったことに取り組んでいたので、プログラムの話を聞いたときは肯定的に受け止めることができましたね。ボストンに事務所を構えてマサチューセッツ工科大学のスポンサープログラムに携わったり、スタンフォード大学のPBL (Project based learning) に参加したりした身としては、やっと日本でも社会での実践と教育が交差するプログラムが誕生したか、という気持ちでした。阪大は以前から産研(産業科学研究所)や微研(微生物病研究所)もあるし、実学寄りの研究が進行しているので、超域のようなプログラムに適した場所だとも感じましたね。

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インタビュアー:
 超域プログラムへの関わり方について、先生のなかで意識されていることはありますか?

伊藤先生
 実社会ではDisciplineに沿って動いても、一筋縄ではいかないものなんだ、ということを学生にわかって欲しいと思っている部分はあるよね。だからこそ、超域では社会で活躍してきたベテランの技術者に話してもらうというオムニバス形式の授業をやっているんです(超域理工学・工学Ⅰ)。社会には、例えば単に技術的なブレークスルーだけでは、すんなりと解決できない問題が山積していて、いろいろな制約があるなかで、どのように新たな価値を生み出すのかを考えなければいけない。そういう社会の実態を学生に教えることは、すごく意味があると思っています。


超域生は新しいものに対する受容力がある

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インタビュアー:
 実際に授業を担当されてみて、超域生に対してどのような印象をお持ちでしょうか?

伊藤先生
 私が担当している授業の初回に、自分の研究を他の履修生に説明してもらうという課題を出しますが、そのときの様子を見ると、超域生はなんというか、オープンですよね。新しい情報や環境に対する受容力があると感じるし、そういう学生が選ばれているんだと思いますね。学年ごとの個性はもちろんあるけれど、この学生たちは研究者としての仕事のみを追求していく人たちではないのだろうな、という印象を受ける。あと、私は選抜の段階から学生と関わっていますが、超域生という集団のなかで個人がどう切磋琢磨していくかを見ていますね。

インタビュアー:
 関わっていくなかで、超域生の成長を感じることはありますか?

伊藤先生
 超域では、実社会の活動の規模をそのまま小さくしたような、知的活動ができているんじゃないかな。そういった活動を通して超域生は、異分野の考え方をまず受け入れて、そのうえで課題にどう取り組むかという視点を持つようになる。自分たちの長所短所を意識して、お互いが補完し合うように課題に取り組む姿を見ると、成長しているなと感じますね。

インタビュアー:
 自分たちの成長ってなかなか意識しにくいので、先生が履修生の成長をどう捉えているかをお聞きできて嬉しいです。

伊藤先生
 私たちの世代が子供の頃に思い描いていた未来って、現在の阪大の吹田キャンパスに隣接した場所で1970年に開催された大阪万博に象徴される「懐かしき未来」なんですよ。テクノロジーが便利な世の中を実現してくれるとみんなが思っていて、優秀な人は理工系に行くのが普通だった。このことについては、大阪大学21世紀懐徳堂シンポジウムを纏めた書籍が2012年に発刊されています。しかし、現代の社会は、授業の参考図書にも挙げている2008年日本学術会議から提言された「巨大複雑系社会経済システムの創成力強化に向けて」にある人工システムの分類によれば、クラス IIIの不完全目的情報問題が主流になってきています。環境ばかりでなく、目的に関する情報も観測者には予測できず、問題を完全に記述できません。このクラスの問題では、目的も同時に定めていく必要がある共創的解探索が中心課題となるとも記述されています。こういう社会には、常に俯瞰的な視点に立てる人が必要なんですよね。そういう社会の実態を知ってもらうために、私は割とオープンなスタンスで学生と関わっているつもりです。例えば私が担当している授業では、「(会社で働く)僕らも困っていることなんだけど、このままだと社会はこうなっちゃうよ」という部分を率直に伝える。容易には予測ができないという社会の実態を知ったうえで、学生には俯瞰的な視点から何ができるかを考えていって欲しい。

伊藤先生が、超域生に求めるもの、期待することとは?

(→続きはこちら)

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