Interviewee:理学研究科 宇宙地球科学専攻 金丸 仁明 (超域 2015年度生)
Texted by:医学系研究科 保健科学専攻 清重 映里 (超域 2015年度生)

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの履修生が行う独創的な研究を中心に、研究に取り組むきっかけ、研究と超域との相互作用、キャリアパスについて紹介していく。第14弾となるのは大阪大学大学院理学研究科の金丸仁明さん。彼は超域4期生(2015年度生)の博士前期課程2年生である。


宇宙に目を向ける

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 宇宙は多くの謎を秘めている。私たち人類はその謎を探求する為、人工衛星やロケットを開発したり、宇宙飛行士として宇宙空間に自ら飛び込んだりする。宇宙は人類を惹きつけてやまないものである。
 宇宙の謎を探求する方法の一つに、惑星科学という学問がある。これは、太陽系や惑星系の様子及びそれらの歴史を理解するために、人類を育んだこの太陽系がどのように生まれ、どのように進化してきたかを探求するものだという。超域プログラムに4期生として所属する金丸さんは、そんな惑星科学を専門としている。
 惑星科学の研究方法は、大きく分ければ実験・観測・理論的なアプローチの3つである。それぞれ具体的に一例を述べると、実験では実験室において隕石や惑星物質を模擬した試料を使って太陽系で起きる現象を再現し、観測では地上から望遠鏡を使って太陽系の天体を観察し、理論的アプローチでは数値シミュレーションによって太陽系や惑星系の進化の様子を再現する試み等を行うのだという。
 小惑星への探査ミッションは、その中でも実験と理学的アプローチの2つの側面を併せ持っている。探査ミッションと言えば、数々のトラブルに見舞われながら2010年に小惑星イトカワから帰還した、探査機「はやぶさ」が有名である。現在、2014年12月に打ち上げられた後継機「はやぶさ2」が目標天体「リュウグウ」に向けて航行している。2018年到着、2020年地球へ帰還を予定しており、目が離せない分野である。はやぶさ計画は、イオンエンジンや自律航行システムといった工学的な技術の実証試験と、太陽系形成初期の始原的な情報を保持する小惑星の調査を目的とした理学的な探求を行っている。惑星探査ミッションが動き出すと、関連するあらゆる分野が協力して目標天体に迫っていくのであり、惑星探査は工学理学の垣根を超えた分野横断的な協働も大きな醍醐味であるのだという。このように、太陽系形成過程を理解するための手がかりを求め、近年小惑星への探査ミッションが盛んに行われている。


太陽系、さらに深宇宙へ

 月や地球などある程度の大きさを持つ天体は自身の重力で丸くなるが、重力の小さな小惑星では個性豊かな形をしているものが多い。小惑星イトカワもそのひとつであり、細長くいびつな姿はよく「ラッコ」に例えられる。
 高校生だった金丸さんが宇宙に興味を抱いていた2010年当時、探査機はやぶさが帰還し、イトカワの姿が明らかになった。金丸さんはその時、イトカワの個性的な姿に魅了されたのだという。その事をきっかけに、小惑星のバラエティの豊富さに心惹かれたことが一つのきっかけとなり、小惑星研究の道を選ぶようになったという。
 金丸さんは現在、小惑星探査機「はやぶさ」が取得した小惑星イトカワのデータ等を用い、イトカワの作る重力場の数値シミュレーションでそのダイナミクスを研究している。その際、下図の形状モデルを用いるという。

小惑星イトカワ3次元形状モデル
金丸さんが研究対象としている小惑星イトカワの3次元形状モデル。
北が上。ひっくり返すとラッコ。写真ではありません。

 この図は、「はやぶさ」に搭載されたカメラの画像をもとに作られたイトカワの3次元形状モデルである。イトカワは長軸500m程の小さな天体であるが理学的に大変興味深い存在であり、はやぶさの探査ではイトカワの表面で活発な地質現象が起きていることも判明している。現在、このモデルを用いて、小惑星表面と地形がどのように関係しているかなどを調べているという。
 金丸さんは最終的な研究のゴールを、どのようにして太陽系が出来たかを調べる事に定めている。小惑星イトカワで見られる特徴が他の小惑星でも見られるか、また他の惑星の進化とどのような影響を及ぼしあってきたかを考えることは、地球を始め他の太陽系の歴史に対するより包括的な理解へとつなげることができる。近年は、太陽系の外に存在する惑星(太陽系外惑星)を探す研究が盛んであり、1995年に初めての系外惑星が発見されて以降、3200個以上が発見されている。このような研究が盛んになった背景には、「我々人類は孤独な存在なのか」という根源的な問いがあるのだと彼はいう。将来、地球のように生命のゆりかごとしての条件を備えた天体が見つかるかもしれない。地球外生命の探索は惑星科学研究に課せられた究極の使命なのだと金丸さんは述べている。


超域と専門で築いた、独自のスタンス

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 超域プログラムでの活動では、現在起きている社会的課題やその解決策について、専門の異なる学生同士が議論を展開する。この活動を行うことは、現在置かれている状況から一歩踏み出すための良いきっかけになると金丸さんは考えている。
 金丸さんの普段の研究は、地球から何万キロメートルも離れた天体を対象とし、それが辿ってきた歴史を何万年という時間スケールで議論しているため、実際の社会のスケールとはかけ離れている。また、金丸さんは将来のビジョンとして、大型の宇宙探査ミッションに関わりたいと考えている。このミッションは、構想から実現までに10年・20年という、惑星の歴史ほどではないが、それなりに長い期間を要する。
 このような背景から金丸さんは次第に、日本の限られた資金と人材で、5年・10年単位で様変わりする社会において、いかに一貫した戦略を立て宇宙に挑めばよいのかを考えるようになったという。その考えを解決すべく、金丸さんは昨年(2015年)度、超域履修生が申請できる独創的研究教育活動経費を用いてブラジルに学会へ行き、国内外のいろいろな研究者たちと交流をしたという。また、超域内での人脈ネットワークを用いて宇宙政策の専門家と意見交換も行ったという。これら以外にも、金丸さんは自身の問いを解決する為、自ら積極的に活動を行っている。この様に動く中で、日本の惑星探査プロジェクトが、経済的・人的リソースが他国と比較して限られたものであることを以前より強く認識するようになったという。資源が豊富である世界が、国家プロジェクトとして推し進める宇宙開発を、日本がどのように国家プロジェクトとして進めていけば良いか。そのためには、惑星科学がどんな形で生き残るか・発展していくかを考えなければならない。超域での活動は、宇宙に向けた視線を地球に引き戻し、自身の研究分野と社会の営みの関わりを考える機会をくれる、と金丸さんは述べている。
 このように金丸さんはフットワークが軽く活動的であるが、実際の人柄は丁寧な性格である。しかしそのパーソナリティは、異なる専門分野との議論の際に良い作用を及ぼしている。
 プログラムの活動では異なる専門分野と交流する為、専門内での交流よりも意思疎通が困難な場面がたびたびある。しかし金丸さんはそのような困難な状況でも慎重に対応し、議論を行うそれぞれのメンバーの意見を引き出すことが出来る。金丸さんは、この彼が持つ独自の長所を実感しており、人と人との関わりにおいて、非常に重要な事であると認識しているという。それ故、その能力を最大限に生かすため、議論する際は全員の専門が違うことに、つねに配慮しているのだという。この金丸さんの気遣いの能力により、異なる専門分野での活動であってもコンセンサスを得ることができている。
 研究分野を真剣に取り組み、独自のスタンスを持っていた金丸さんだからこそ、学び、実感した境地。今後も専門・超域の良い特徴を見出し、自身のスタンスを確立していく事で、さらなるスキルを獲得していくだろう。


可能性に満ちたキャリアの選択

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 独自のスタンスを貫く金丸さんは、将来のキャリアパスにおいても独創的である。
 金丸さんの研究分野では、博士課程を修了すると、たいていは研究者の道に進むのだという。そのような状況の中、金丸さんは今後のキャリアのひとつにPh.D.を取得した上での惑星探査のバックアップを視野に入れているという。勿論、研究に対する熱意を持っており、今後4年間での成長次第では、大学やその他の研究機関で研究者として働く選択肢も考えているという。しかし、この1年で参加した学会や実習会で、惑星探査の人の関わりの重要性を実感したという。
 特に昨年度参加したブラジルの学会において、惑星科学関連の学会参加や研究者と議論を展開したことは大きな経験だったと金丸さんは言う。
 国内外に渡り産学官と連携し、また時世代の頭脳を育む試みを行っている現場を見たことで、ブラジルの熱意と必死さを肌で感じ取ったそうだ。国をあげて惑星探査に挑むブラジルに、惑星科学の世界のダイナミックな潮流を実感したのだという。
 しかし、このような惑星探査研究の最先端を捉えながらも、金丸さんの視点は冷静である。彼は言う。「いま、私は日本の宇宙開発の在り方として、惑星科学がどう日本社会に貢献していくかを考えていかなければならないと考えている。だけど、この様な潜在的な問題があると言っても、日本の惑星探査プロジェクトには、ある程度惑星探査研究が成熟した国でも結構なインパクトを与えることが出来る。日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)、NASA(アメリカ航空宇宙局)、ESA(European Space Agency)、アジア、そしてブラジルなどの惑星探査研究は競い合っているが、それぞれモチベーションは少しずつ違う。日本なりの貢献が出来ればよいと思う。」

 最後に、金丸さんの座右の銘を聞いてみた。

フクロウは黄昏に飛び立つ


「賢者はその時を知り、予測して行動する」という意味だという。 実は、金丸さんの趣味は、生態を含めたフクロウそのものなのであるが、私たち4期生から見れば、金丸さんといえばフクロウというほどイメージが強い。 昼は穏やかに、夜は狩人として活躍し、知性や英知の象徴として知られるフクロウ。穏やかながら、活動的な金丸さんを体現した言葉である。
まだまだ始まったばかりの研究活動と超域。今後の金丸さんの展開に期待したい。