TEXT BY 橋本 奈保
研究科:国際公共政策研究科
専攻:比較公共政策
専門分野:多文化共生、自治体、市民社会、地域における多様性と共生に関する公共政策

はじめに

静岡県浜松市で2012年10月に開催されたIntercultural City Summit 2012 Hamamatsuに参加する機会をいただきました。このサミットは、グローバル化の進展によって生まれた多文化共生都市間の連携を促進し、より良い政策の実現を目指す主旨のもと開かれたものであり、1日という短期間の滞在でしたが、浜松市内の視察やサミットでのパネルディスカッション傍聴、欧州のIntercultural Citiesからの代表の方々との懇談などを行うことができ、今後の日本における多文化共生に関してより多角的な知識を得るための大変有意義な訪問となりました。この場を借りて、訪問の際に同行していただき、お力添えをいただいた大阪大学グローバルコラボレーションセンターの宮原先生、安藤先生、そして浜松市内を案内してくださり、浜松市における多文化共生の現状について説明してくださったNGOのみなさまに御礼を申し上げます。

浜松市内の視察

浜松市内の視察を行うことで、市内に息づく文化の多様性を視覚的にとらえることができました。日本における文化の多様性のある街の代表といえる浜松市内では、その景観に、多様な人々の共存が表れています。駅周辺地域では、ポルトガル語、スペイン語、英語など日本語以外の表記が点在しており、ブラジルの国旗も多くみられます。ブラジルから輸入された衣料品店、旅行店、ブラジル人弁護士事務所があり、国際電話カード自動販売機も設置されているなど、市内に多く住むブラジル人のニーズを反映しビジネスが発展していることがわかりました。市内を案内してくださった方のお話では、浜松市における外国籍人口は現在もブラジル人がその多くを占めているが、アジアからの労働者が増える傾向もあり、その流れを反映して街の中に見られるビジネスも変遷がみられるとのこと。まさに刻一刻と変化する多様なニーズ、生活様式や、世界とのつながりがコミュニティに多様性を生んでいる様子を実際に垣間みる貴重な機会となりました。
こうした文化の多様性は、行政サービスにも反映されています。浜松市中心部に外国籍居住者に対する支援センターが設置されており、提供されているサービスには、ビザ関連以外にも、メンタル面での相談コーナーなど、他の自治体ではなかなか見られないよりきめ細かなサービスが提供されているという印象でした。近年問題になっていた外国人労働者の児童の不就学問題に関しては、不就学に陥っている児童の人数の把握を行い、家庭訪問などによる重点的な取り組みが行われてきたということです。

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多文化共生と公共政策

東京都新宿区、大阪府東大阪市、静岡県浜松市の多文化共生関連の担当課代表者と自治体国際化協会理事のパネルディスカッションでは、それぞれの自治体における多文化共生に向けた取り組みに関する紹介と課題について議論されました。それぞれの自治体で外国籍人口の傾向に違いがあり、それぞれ直面している課題に違いがあること、国レベルでは、外国籍住民への対応は、根幹となる「政策」なきまま、その都度現状に合わせた省庁ごとの「対策」にとどまっているというような意見が聞かれました。自治体レベルの公共政策では、多様性といっても、その地域に居住している住民によって大きく意味合いがことなることがわかりました。例えば、新宿区のように留学生が多いのと、浜松市のように労働者が多いのとでは、自治体が提供するべき公共サービスの内容が異なります。そのため、自治体レベルの公共政策には、その地域の特色を生かした形で行われなければならないでしょう。
その他にも、パネルディスカッションを通して、多文化共生と雇用の現状を学び、市民団体の訪問では、特に外国籍のこどもの教育に関する具体的な課題についても学びました。

今後につながる展望

1日という短い滞在時間でしたが、上記のように多くの学びの機会に恵まれまれ、さらに、今後のインターン活動や研究活動につながるネットワーキングをすることもできました。特に、欧州代表の方と懇談する機会があり、欧州における取り組みについての活発なディスカッションを通して、欧州では社会統合から、現在は多様性を活かした共生に向けて動いていることを知りました。多様性を保ちつつ、一つの社会として安定するためには、課題が多いということ。研究の参考になる文献の紹介もしていただき、長期インターンの際にまたお会いする約束も交わすことができました。
浜松でのサミット参加では、日本における文化の多様性について考える素晴らしい機会になったとともに、様々な方々とのつながりを作る機会にもなりました。今後はいただいた機会を、研究活動やキャリア形成に積極的に生かしていきたいと思います。