パラオ風景

■環境について〜「環境問題」の概念〜

  Texted BY 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 高田 一輝高田

  パラオは資源に乏しい小さな島国であることから、気候変動の影響をうけやすく、環境問題には敏感であるといわれている。実際にパラオの方にお話を伺ってみても、「塩害でタロイモ畑がやられた」とか「サメの保護のために禁漁区を作った」とかいう話を聞くことが多い。
  しかしながら、「環境問題」とは一体何であるのか、という概念規定において、日本とパラオの間には重大な隔絶が存在しているという印象を私は強く抱いている。たとえばパラオの大首長であるルクライ氏は、最も重大な環境問題とは“development”であると述べられていた。この“development”という概念にはどうやら、排水を海に垂れ流すだとか、移動にはいつも自動車を使うだとかいう日常行為は含まれないらしい。日常生活と環境影響への負荷が切り離されて理解されているのである。
  そこで下水処理を専門とする私は、こんなことを考えてみた。「パラオの生活排水処理のため、林を切り拓いて下水処理場を建設することは許容されうるのだろうか?」


■教育について〜小学校訪問を通して〜

  Texted BY 薬学研究科 創成薬学専攻 花井 舜平

花井  パラオでは3月15日が「青年の日」として定められ、それに合わせ毎年全国の学校で「教育啓発週間」が実施されている。私たちがアルコロン小学校を訪問したのはちょうどこの時期で、日本の文化・伝統を紹介し、折り紙で児童と共に鶴を折った。
  私がパラオの暮らしを経験して感じたことは、伝統的な暮らしの中にいきなり近代的な文化が入ってきており、その伝統と近代化の間にあるデメリットへの対策が追いついていないということであった。例えば現地の人と話をしていると、「パラオの将来の観光産業のために環境保護の重要性を理解しているが、どうしたらいいのかわからない、教えてくれ」との声も聞かれた。専門知識を得た私たちが、失敗を経験する事で学んだ環境指向の生活の仕方や技術を彼らに対して説明することで、彼らを手助けする事もできるかもしれない。
  「教育」が今後のパラオの発展には大事となるだろう。今回の小学校訪問のような機会から波及し、日本の環境保護の取り組みを紹介することで、子供達から大人まで人々の意識を変えて、社会を変えて、未来を変えることもできるかもしれない。【教育】小学校訪問edit


■歴史について〜戦争遺物と今〜

  Texted BY 人間科学研究科 基礎人間科学専攻 米田 翼

  太平洋戦争時、パラオのペリリュー島は、日米両軍にとって重要な拠点であった。そのため、そこには多くの戦争遺物が、とりわけ日本軍の史跡が多く残存しており、墜落した零戦や95式戦車の残骸なども点在している。【歴史】ペリリュー島戦跡

  ここまで太平洋戦争の遺物が綺麗な形で残存しているのは世界でも極めて珍しい。だが、不思議なことに、日本統治下のことを聞いてみても多くのパラオ人が肯定的なリアクションを返す。では、あの忌まわし記憶は忘却の彼方に消え去ってしまったのだろうか。もうそれは忘れさられるべきなのだろうか。

  けっしてそんなことはないだろう。私の胸に焼き付いているのは国立博物館の日本時代の展示である。そこには記憶の片隅に追いやられた悲痛な叫びが記録されていた。
  日本人ダイバーの何人がこの事実を知るだろう。戦争経験者はいずれいなくなる。それと同時に全ての記憶が忘却されていいのだろうか。ダイビング目的の観光客が増える一方で、ペリリュー島へ観光に訪れる日本人の数は年々減っているそうだ…。


■観光について〜鮮やかな世界自然遺産と観光産業〜

  Texted BY 医学研究科 医学専攻 立石 和博

立石  ペリリュー島とコロール島の中間に位置するロックアイランドは、点在する島々、澄んだ海水と白い砂、豊かなサンゴには多様な生物が生息し、独自の生態系を築いている。こうした自然は世界的にも大変貴重であり、2012年に世界自然遺産に指定された。
  ロックアイランドを中心とした自然は、現地人にも観光客にも観光資源として認知されている。今回、私は個別学習の時間にダイビングショップを訪れ、観光客や現地人スタッフにインタビューすることで「観光」に対する様々な考えに触れることが出来た。
  その中で観光客からは「パラオはダイビングしかない」という言葉が聞かれ、多くはパラオのもつ歴史的背景は知らず、またそれらを求めていない傾向が見られた。また、現地人スタッフからは「収入・生活は良くなったが、いつまで続くか不安」といった、観光業が主たる収入となっているパラオ経済の持続可能性を疑問視する声が聞かれた。
  これらは我々が本フィールド・スタディを通して得た気づきや問題意識と共通した部分を持っている。我々の感じた外側からの視点、インタビューで触れた内側からの視点を組み合わせ、解決すべき課題として今後も取り組んでいきたいと考えている。


■おわりに

  今回、私たちが多角的な視点でパラオについて学びを深め、現地での様々な経験を得ることができたのは、何よりも本プログラム担当教員で引率してくださった三田先生、ブレネス先生、そして現地の方々のサポートのお陰である。最後となってしまったが、ここに感謝の意を表したい。

  そして、私たちを温かく迎えてくれたホストファミリーとの写真と共に、本フィールド・スタディの報告を終えたいと思う。

【最後】ホストファミリーとの写真

<< 前のページ