授業名:超域アクティビティ・ラーニングⅠ
担当教員:平田 好則(工学研究科)・常田 賢一(工学研究科)
     黒崎 健(工学研究科)・伊藤 宏幸(ダイキン工業(株))
 この講義は、自動車や建築物などの身の回りにある様々な人工物が出来上がる工程やその裏に隠れる製品の複雑さを実際にものづくりの現場を見学して学ぶことを目的としている。普段とは違い1日限りの集中講義で、講義室を飛び出して学びに行く非常にアクティブな講義だ。今年度は、そんな「超域アクティビティ・ラーニングⅠ」で本州と淡路島を結ぶ世界最長の吊り橋「明石海峡大橋」を見学しに行った。


Texted BY: 工学研究科 2014年度生 澤井 伽奈


ものづくりを見よう。ものづくりを知ろう。

 この講義の目的を“人工物が出来上がる工程やその複雑さを学ぶ”と説明したが、実のところ私は工学研究科 機械工学専攻所属。普段の講義でも人工物の設計や製造について学び、さらに今までに何度も自動車や家電製品の工場見学もしてきている。「果たして、今更“ものづくり”についてわざわざ1日かけて学ぶ必要があるのだろうか…」と、この講義を自分が受ける意義についてやや疑問を抱きつつ、行きのバスに揺られていた。

 見学では、明石海峡大橋の道路部分の真下を歩き、およそ300mの高さの主塔のてっぺんに上って文字通り明石海峡大橋の裏側を見学し、さらに「橋の科学館」でどのように明石海峡大橋が建造されたか、どのような技術が利用されているかを学んだ。また各所では明石海峡大橋の建造などに関わった、技術者の方々の話を伺った。

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 話の中で、非常に印象的だったことが、日本の大型橋梁の建造技術についての問題である。現在,日本では明石海峡大橋のような大型の橋梁の新規建造は行われていない。そのため、橋梁を作るために必要な技術や設備を持っていた企業が、技術は残ってはいるもののその設備をもう持たなくなってしまっており、現在大型の橋梁を作ろうとするともはや日本国内の力だけでは建造不可能なのだそうだ。おそらくこのままではいずれ技術も失われてしまうだろう。「作らないならそんな技術や設備、もう必要ない。」と言えるなら良いのだが、多分話はそれほど簡単ではないだろうと私は考えた。

 確かに国内で新規の大型橋梁の建設は当分行われないが、100年後・150年後はどうだろう?新規建設は行われなくても、今架けられている大型橋梁は老朽化し、架け替えや大規模修繕の必要性が生じる。そのとき、このままでは架け替えや大規模な修繕を日本国内の技術で行えなくなるのではないだろうか。技術が失われゆくこと、これは橋梁建造に限らず製造業界が現在抱えている重要な問題だ。

 この講義は、「身の周りにある人工物は実は案外複雑で、しかも様々な困難を乗り越えてできているんだよ!当たり前に身の周りにあるんじゃないんだよ!」という「ものづくり」エッセンスを学生に学んでほしい講義だと思う。それは他の専門の人達も十分にこの講義を通して学べただろう。ただ、それに加えて「身の周りにある人工物は“今”当たり前にあるけど“未来”にはそれが当たり前に作ることができなくなってるかもしれないんだよ!」という「ものづくりの裏」のエッセンスも、他の専門の人達に知ってほしいと私は思った。直接説明はされていないけれど、そこにもものづくりにおいて重要なことがあるんだよ、と。

 このようなことは、普段自分の研究科にいるだけでは絶対思わないことだ。何故なら、自分の研究科では皆当たり前に「ものづくり」に関することは知っているし、理解することができるからである。確かに超域は多様な講義を受けることができ、様々な分野を知ることができる。しかし今回私が思ったように、普段の超域の講義からだけでは分からないような、その分野の人達からすると当たり前に重要だと思っているのに、別の分野の人はまったく認識していないことが沢山あるのではないだろうか。せっかく多分野の人間が集まっているのだから、「その分野の当たり前に重要なこと」について超域で今後もっと学んでいきたいと思った。そして自分も、自分の分野について他分野の人達にもっと知ってもらえるように発信していこうと考えた。

 この授業で、超域の他の分野の人達は身の周りの人工物の存在が“当たり前”ではないことを知ることができただろう。そして私は私で、当初は行く意義がないのではと思っていたこの講義を通じて、自分の専門である工学について自分の研究科とは違う環境で学ぶことで、自分の分野の“当たり前”に重要なことが“当たり前”ではないのだということを気づくことができた。さらに、その重要なことを知ってもらうことが超域での自分の専門分野の活かし方の1つなのだと感じた。

 では、そうやって他分野の人達に伝えるべきことが分かったなら次にすることはなんだろう。もちろんそれを伝えることだ。これからはその伝えたいことを、どう他の分野の人達に伝えていけばよいのか、それを超域プログラムで学んでいきたいと思う。

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