大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムでは、2012年8月27日に課外活動として東京を訪問、本プログラムが目指す人材像、超域コンパスを体現されている方へのインタビューを実施しました。


インタビュイー:ソニーコンピューターサイエンス研究所
        代表取締役社長 北野宏明様
取材日2012年08月27日
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題して、「“超”超域人インタビュー 〜超域を超えた存在〜」、今回はソニーコンピューターサイエンス研究所 代表取締役社長 北野宏明様へのインタビューの様子を一部抜粋し、レポートします。

◆研究者かつ経営者が考える、リーダーシップの3つの要素

ウルフ
超域イノベーション博士課程プログラムの学生として、自分自身の研究者としてのあり方を考えていこうと思っているのですが、北野さんは研究者と社長という2つの役割がありますよね。研究者は特に時間が必要な仕事だと思います。経営によって研究活動に制限がかかることはないのでしょうか?あるいは逆に相乗効果を生むことなどもあるのでしょうか?
北野さん
どれだけ効率的に行うかですね。この研究所において、僕の役割はマネジメントですから、自分の研究だけでなく、人事、ファイナンス、労務、法務・コンプライアンスなど、会社運営一切の責任を取る必要がある。誰かが社長をやらなければならない、それをたまたま僕がやっているというだけなんです。またここ以外にも自分の独立した研究所(システムバイオロジー研究機構)を持っていて、10数人のスタッフがいます。その運営には自らファンドレイジングをしてこなければならない。例えばJSTのファンド、ルクセンブルグ、アメリカのFDA、あるいは製薬会社との契約など、ファイナンスはそっちの方が大変です。そこでの僕の最大の仕事はお金を稼いでくること。そこで働く人の人生がかかっていますから、彼らが安心して仕事ができる環境を整えることが僕の最大の仕事です。
ウルフ
自分にとってのリーダーシップとは目標を達成するために、仕事の配分や人の調整、進捗管理など組織をコーディネートすることだと思っています。環境整備や人間関係の調整など時間と精神力が必要だと思います。一方で研究者とは、特に大学院における研究者のイメージは研究にまっすぐ突き進むというか、没頭するというイメージが強いです。
北野さん
研究者にそういう人は必要ですよ。でも、そのリーダーシップは大学でのリーダーシップかな。
ウルフ
北野さんにとってのリーダーシップとは何ですか?
北野さん
3つありますね。何か目的があるときに、他の人がいることが前提ではなく、たった一人、自分一人になっても目的を達成すること。そのまま自分一人でやり遂げるのか、チームを作り直すかなど方法はいろいろあるでしょうが、とにかくミッションを達成すること。次に、関わった人たち、例えば会社だったら従業員たちに安心して働ける環境を提供すること。そして3つ目はチームに自分より優秀な人を出来るだけ多く入れることだと思います。
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◆優秀なチームを作るためには?

橋本
自分に魅力があれば、自分より優秀な人を引き込むことができそうな気がするのですが、自分より優秀な人を引き込んでくるときに、どのようにその魅力を伝えたらいいのでしょうか?
北野さん
人間関係ではなく、ミッションで引き付けることだと思います。ミッションありきですよね。ミッションとその人の人生が同じベクトルに向いているかを重視すべきで、人間関係に基づいて作ったチームだとその中にいることが目的になってしまう。あくまで組織はミッションを達成することが目的であり、そのためにチームがあるということを忘れてはいけない。とにかくミッションが魅力的である必要があります。
ウルフ
一方でなかなか周囲にミッションの魅力を理解してもらうのが難しい場面もあるのではないでしょうか?
北野さん
ミッションを分かりやすく説明できる、プレゼンテーション能力だと思います。ミッションを誰にでも分かる言葉で説明できることです。時々、「自分はすごい」というプレゼンテーションをする人がいるけど、「自分はすごい」ことを示しても人はついてこない、あるいはフォロワーのような人ばかりついてくる。その組織は、リーダーがいなくなったとき、機能しなくなる。それはRecipient(達成しようとするミッションで恩恵を受けるであろう人々)に対して非常に無責任ですよね。そういう意味では、リーダーシップの4つ目として、(これが一番重要ですが)、自分がいなくても機能するチームを作ることですね。ミッションの達成を前提にしてチームをつくること。ミッションのために、例えばメンバーのわがままを許容したり、色々大騒ぎしながらも組織として邁進していくこと。どこの組織でも、何か新しいことをやろうとすれば必ず反対意見を言ったりする人もいる。もちろん前に進まない時はイライラする場面もあります。しかし、その時、雰囲気や人間関係で物事を決めるのは、Functionalな意思決定手段ではないですよね。意思決定の際にどのような意見を言うか、そこにそれぞれの人がどうContributeするかが重要です。「そう思います」という人ばかりの付和雷同的な組織は極めて危険。人間は、どんなに優秀でも常に正しい意思決定をするなんてありえない。そんなとき、リーダーが間違うことを止められる人が組織として必要です。そういう組織を作っていかなければ、継続性は保てない。 それができない組織は、判断を誤り、滅びます

◆異分野の人をどう評価するか

橋本
この研究所で研究されていらっしゃる方は様々な分野からこられていますよね?まったく分野が異なる方を、専門知識がない中でどのようにその人の研究を評価するのですか?
北野さん
どれだけクレイジーかですよね(笑)。どれだけパラダイムシフトを起こせるか。あとはコミュニケーション能力。コミュニケーション・プレゼンテーション能力が高く、自分がやりたいことを専門用語を使わなくても説明できること。それに、イマジネーションだよね。自分が伝えたいことを伝えるときに、どうしたら伝わるのか、周りがどのようにそれを見るのかをイメージ出来るか。それがないと新しいことはできないですよ。もちろん、一つの専門分野の中で達成できるイノベーションもあると思いますよ、トラディッショナルな研究では。しかしイノベーションを起こそうとすると、(例えば今回の「超域」の取組みもそうだよね)一人でできるはずはないので、人を巻き込んでいけるような能力が必然的に求められる、この能力は重要ですね

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