◆今後の日本は?
 ハーバードにはいないけれど、
 バングラデシュにはいる日本人

ルセフ
最近の複雑な状況下で、日本の科学の未来について、北野さんはどのようにお考えですか?日本が世界のリーダーになるポテンシャルとか。
北野さん
ポテンシャルはありますよね。ただ2つあって、“日本のリサーチケイパビリティを上げる”ということと、“日本人のリサーチケイパビリティを上げる”ということは、違う。“日本のリサーチケイパビリティを上げる”ためには日本に世界中の人材を呼び込む環境を作ることが必要。逆に“日本人のリサーチケイパビリティを上げる”ためには海外に送り出し、ネットワーク形成や経験を身に付けることが必要ですよね。今はその議論がごっちゃになっている。「もっと海外に人を送らなければ」という議論が発生すると、「いやいや日本の整備が先だ」という議論が起こるのですが、それは別の話。「ハーバードに学生がいなくなった」という批判を聞きますが、バングラディッシュや、アフリカに行く人はいる。目がEmerging Marketに向き、欧米偏重から大きな変化が起きていると思います。僕は、どちらかというと楽観的。日本は豊かで安全な国になり、みんな満ち足りていて、これ以上望まないという傾向は、学生の中で強いかもしれないし、それは、面白くない。他にはハングリーな国がいっぱいあるから、そういう国の人と戦うと、ちょっと勝てないな、困ったないうのはある。ただ、それが逆に新しいパラダイムを生むという方向に向かうこともあり得るんですよ。日本はすでにハングリーな時期を終えたから、その価値観がどこに向かうのかをとらえた方がよいのかもしれない。例えば、社会的な貢献に目が向いている人は以前より多い。(小宮山宏さんが指摘されていますが)、日本は課題先進国になる。現状日本はあらゆる社会課題を抱えているが、アジアでも多くの国がこの10年以内に同じ課題を抱えるわけです。高齢化社会は、日本固有の問題に見えますが、実はこれは他の国も直面する課題で、それを先んじて経験できるということ。そこに大きなビジネスチャンスがあると言えます。

◆ちょっと一息、F1のある週末は 仕事をしない北野さん

橋本
北野さんはストレスが溜まってどうしようもなくなることがあったりしないんですか?
北野さん
ストレスって、ストレスと思うからストレスなんですよね。もちろん、ふざけるな!みたいな話はしょっちゅうあるんですけどね(笑)。そんなものは、一つ一つ対策を講じればいいだけなのでそれほど気にならない。まあ、一番気にかかるのは、自分の研究所の財務的健全性を維持することですかね。みんなの生活がかかっているのでね。F1のシーズンになると週末仕事はしないですね。ああ、アメリカズカップを今やっていてね、本当はサンフランシスコによって来たかったんだけど、このインタビューがあるから帰ってきました(笑)。
一同
すみません(笑)
北野さん
F1や日本代表のサッカーの試合のときは、仕事はしません。これは自分でスケジュールを前もって決めて、管理しますよね。

◆20年はかかって出る利益もある

ウルフ
抽象的なご質問になってしまいますが北野さんにとっての“利益”とはなんでしょう?例えばガーナのプロジェクトで直接的な利益にはつながりにくいのかなと思ったのですが。
北野さん
研究所はコストセンターなので、短期的な利益には直結しません。しかしガーナのエネルギーシステムは、実証研究になる、これは有用ですよね。利益もいくつかのスパンがある。5年で見るのか10年なのか。アフリカというマーケットは時間がかかりますが、実際にテイクオフしたときにはEmerging Marketになる。例えば、ガーナの経済成長率を知っていますか? 2011年度、13.6%の経済成長を実現した世界で最も成長した国の一つです。旧宗主国はイギリスだし、紛争地域ではなく比較的政府のTransparencyは高く、Democraticな国です。またOffshoreに油田が見つかった。(油田が見つかったことが良い方向に向かうかは分からないですけどね)逆にTransparencyが下がったり腐敗が進んだりする危険性もありますよね。ガーナがOilをどうManageしていくかは気をつけて見ていく必要がありますね。長いスパンでの利益、特にエネルギー関係のビジネスをしていく上では重要な拠点だと思います。ガーナはそういう多角的な視点で10年から20年で見ないといけない。インドネシアやフィリピンのようなアジアのEmerging Economyの方がスパンは短いと思います。利益というものを考えるときに、そういう全体像の中でガーナを位置づけることということですよね。

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