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TEXT BY 井上 裕毅
研究科:工学研究科
専攻:精密科学・応用物理学専攻
専門分野:バイオデバイス、バイオセンサー

手付かずの森に忍び寄る黒い影

 プレインターンシップの訪問先は香港、ラオス、台湾でした。調査中に最も衝撃を受けた出来事を紹介したいと思います。
 この企画の中で一番衝撃的だったのがラオスでの活動です。南ラオスの一村一品運動の産物を調査しました。一村一品運動とは、その名のとおり、一つの村に一つの特産品を作るプロジェクトのことです。特産を生産するのに必要な物資はできるだけ農村で作られて、経済サイクルを形成するのが一つの目的です。日本発の活動で、大分県から始まったといわれています。プロジェクトは多岐にわたり、農業から簡単な工業品まで様々でした。造られた製品は日本に納入している会社もありました。しかし、ほとんどはタイやベトナムの受注を受けていることがわかりました。まだ高度な産業が無いラオスは、周りの国から搾取される立場にあるとしりました。特に土地や原生林の買収が激しく進み、豊かな自然と豊富な資源を外国に買い叩かれているように感じました。
 とあるコーヒー農業の展望台から南西に向かって崖を見下ろしました。そこには、カンボジアに向かって伸びる原生林と深い森に囲まれた渓谷が、雄大に広がり、霧に隠れるかのように存在していました。その原生林はまるで生きているかのような気を放っていました。明らかに植林された人口の森とは違うことがすぐわかりました。聞くところによると、その内のいくつかの山は中国に買収されて伐採の対象になっているのだそうです。もうすぐこの美しい景色が無くなると思ったとき、過度な経済発展の意味を考えるようになりました。
自国だけでなく、他国の資源を搾取してまで達成される成長は持続可能な社会を築くことができるとは考えられません。大気汚染と土壌汚染も同じです。課題と解決策がセットであるのが持続可能な社会の構築には大切だと思います。自分の研究で持続可能な社会作りに貢献できるような応用を考えるようになりました。ラオスは完全無農薬で作物を生産してきたので、土地が汚染されていないと言われています。しかし、発展途上の5つの国と国境を接し、海の無いこの国で、その状態が続くとは限りません。環境をモニタリングするシステムの開発が将来的に必要であると感じました。自分の研究が農薬関連にも応用できるので、ラオスの地で感じた経験を活かした研究活動を行いたいと思いました。