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TEXT BY ウルフ ジャスティン
研究科:国際公共政策研究科
専攻:国際公共政策専攻
専門分野:国際関係論(安全保障政策、紛争防止、平和構築)

フィリピンでの発見:カルチャー、平和構築、環境問題など

 慣れていない環境の中で時間を過ごせば、自然に視野が広がり、今まで見えなかった物事が見えるようになり、インスピレーションまで起きることがあるそうです。私はそう信じて、今回の海外実習のフィールドスタディに参加しました。行き先がブータン、クック諸島、そしてフィリピンの3つに分かれ、私はフィリピン班に入りました。フィリピンは昔アメリカの植民地として統治されたため、どのような国なのか少し興味があったが、今回はあえて専門分野から離れたところで多様なことを学んでみたいという意図でフィリピンを選びました。もちろんフィリピンに関する知識が殆どなく、授業では多文化共生社会だと教えられても、アメリカ合衆国のような移民から成り立っている国ではなく、古くから東南アジアにある一ヶ国だけだと私は思っていました。残念なことに、ちょうど一ヶ月前アフリカで「超えた」はずの先入観が再び想像力を阻んでいました。
 実際に行ってみれば、私は2つの大きな誤解をしたことに気がつきました。一つ目は、フィリピンで自分の専門分野における課題があまりないという誤解です。自己紹介(チョウイキジジョウ参照)に記載されているように、現在私の専門分野は国際関係論における紛争解決や平和構築です。このような課題がフィリピンに潜んでいないと思っていましたが、実はフィリピン南部にあるミンダナオ地方では、以前から争いが続き、それに関連するテロ事件も何度も起きたため、紛争解決や平和構築活動が行われてきました。外を歩き回ってみれば、争いやテロの面影が今でも見えます。ホテルのロビーやショッピングセンターに入る度に金属探知機を通らなければならず、レストランや店の前に配置されている警備員にカバンの中身まで見せないと入れません。さらに、紛争解決活動に関わり拉致されたこともあった実務家に会う機会が与えられ、彼女の講演を通して紛争解決や平和構築への理解がさらに深まりました。二つ目は、フィリピン社会は言われるほど多文化共生社会ではないという誤解です。実際フィリピンの社会構成は予想したものと大変異なり、本当は様々な文化や民族が一つの社会に溶け込んでいます。スペインとアメリカの植民地時代からの名残だけでなく、中国の文化がフィリピンの伝統と混ざり合いカルチャーにまで影響を及ばせています。確かにアメリカ合衆国と異なるが、フィリピン独特の多文化共生社会が目の前に広がっていました。
 今回の活動において、フィリピン文化を学び、日本社会との共通・相違点を発見することを通して先入観を「超える」ことでフィールドスタディを終わらすつもりはありませんでした。フィールドスタディで私が深刻だと感じた社会問題を取り上げ、その詳細を検討することにより、超域コンパスに書かれている「傾聴・情報リテラシー」と「理解・処理・分析」という能力を伸ばそうとしました。特に私が問題だと感じたのはフィリピンのゴミ問題でした。

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発展とゴミ問題

 フィールドスタディに出発する前、事前学習が数回あったが、その以前からフィリピンのゴミ問題を何度も耳にしていました。日本と同じ島国であるため、ゴミを処分する土地が限られ、発展を遂げている国にとってゴミ問題は重要な課題となります。今回の活動では、ゴミの処分・分別などを調査する機会があまりなかったので、巨大なシステムの中でゴミ問題がどのように扱われていたか理解が及ばないが、私がよく目にしたのは日常生活におけるゴミ問題でした。大都市から離島まで回っていても、ゴミが道端に捨てられ、ゴミのポイ捨てなどを目撃することが度々あり、私は特に「ゴミのポイ捨て」が根の深い問題だと思いました。
 フィリピンでのフィールドスタディが首都マニラから始まりました。著しい発展を遂げている大都市であるが故に、ある程度のゴミは仕方ないことだと思っていたので、それほど大きな驚きはありませんでした。(アメリカ合衆国や日本の大都市においても、ゴミの不法廃棄や処理・分別問題を直面しているため簡単に解決できる問題ではないと考えています。)しかし、マニラからセブ島の近くにあるカモテウスという離島に移動してから何度も衝撃を受けました。カモテウス島へ行く約2時間掛かるフェリーに乗っている途中、一緒に乗っていた少年が食べ終えたチップスの袋を躊躇なく真っ青な海に捨て、驚きのあまり一瞬目を疑いました。カモテウス島に着岸してからも、この隔離された自然に溢れる島の道端にもゴミが必ずありました。このような小さな島では、ゴミをポイ捨てしてしまえばすぐ分かるし、自分の日常生活にも迷惑や不快感を与えるはずなので、住民の行動を私は全く理解出来ませんでした。この疑問を教授に相談すると、2人でホテルの周りを歩きまわり、ゴミがどのように廃棄されているかを見ることになりました。思った通りに、どこを見てもゴミが捨てられていましたが、そこで興味深い発見をしました。道路の両端にゴミが捨てられていたが、住民の前庭にはゴミが一片も落ちておらず、どれもがきれいに清掃されていました。これは「公共物と私有物」に対する考え方の違いなのか、それともフィリピンでは「ゴミ」の定義が異なるか、結局日本に戻るまで明確に出来ませんでした。しかし、現地のフィリピン人と話すと彼らも「ゴミ」を「問題」として認識しているが、状況の改善に至るまでの行動にまだ移っていないのが現実でした。

最後に…

 このフィールドスタディを通して、多文化共生社会について新しい側面が見え、ゴミ問題以外にも「貧富の格差」のような問題の実例(ゴミ処理場にあるコミュニティを訪ね、そこの住民と話しニーズを把握する活動など)まで見ることが出来ました。その上、周りにある情報を拾い、それを組み立てることにより、多くの人が見ようとしない問題をピックアップ出来ました。情報リテラシーを通して、問題を理解することも重要だが、その詳細をどう分析するかも大事な作業だと学んでいます。状況を十分に把握せずにそのまま援助を提供するよりも、お互いが問題として認識し、解決策がいまひとつ成果がでないもの(ゴミ問題など)に対して、いわゆる“Needs specific support(ニーズに応じた援助)”を提供した方が良いのではないかと思ってきました。この考えを展開させる必要はまだあるが、既に勉強や研究に新しい側面を私は見出しています。