インタビュアー:2015年度生 勝本 啓資
ノートテイク:2017年度生 大濱 悦子
写真撮影:2015年度生 小林 勇輝
インタビュイー:2017年度生 河原 沙也加

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。Vol.27の今回は、今年超域に入学して間もない人間科学研究科博士前期課程1年の河原 沙也加さんにインタビューを行いました。
 超域2017年度生は、何を期待して、これからどのように活動していくのか。また、フットワークが軽く、様々なことに挑戦してきた彼女は、自身の活動や超域での経験を通して、自身の未来像をどのように描いているのか。彼女の魅力に迫ります!

取材日 2017年6月20日

■ 今の研究を選んだきっかけ

インタビュアー勝本:専門のことから聞いていきたいと思います。学部のときは、外国語学部のドイツ語専攻で、今は人間科学研究科(人科)にいるんだね。どういう経緯があったの?

インタビュイー河原:もともとグローバルヘルス(国際保健)という分野にすごく興味があったんです。きっかけは、学部生のときに参加していた「模擬国連」というサークルです。このサークルでは国連の会議を模擬で行って、国の大使になりきるんですよ。私は南アフリカ大使として参加していました。

勝本:演劇みたいだね。

河原:そんな感じです。学部1年生で世界大会に出させていただく機会があって、ニューヨークで170カ国の人が参加しているコミッティー(委員会)に出ることになりました。そのときアメリカ人の学生とペアを組んで出場したのが、ちょうどWHO(世界保健機関)の会議だったんです。

勝本:そこで「グローバルヘルス」という分野と出会ったんだね。

河原:はい。そこで保健問題の感染症とか、メンタルヘルスとか、女性の健康を扱ったときに、「健康」っていう問題を世界規模で話し合うこと自体が面白いと思ったし、健康に対して自分の中ですごく興味が出てきたんですよね。

勝本:どのような議論が行われていたの?

河原:そこでは「先進国」と「途上国」という枠組みに加え、「農業国」と「工業国」で話し合うという場面がありました。「一つの病気に対して、いろんな角度から議論ができるのか」と、テーマとその切り口にとても興味を持ったんです。その後、国際的なキャリア経験のある、今の指導教員に出会いました。彼女がどういう風に学び、仕事をしてきたのか、俄然興味が湧いてきました。

勝本:じゃあそのときから保健関係の研究科(大学院)に行こうと考えてたの?

河原:いえ、本当は学部が終わったらすぐ就職しようと思っていたんです。でも学部3年の交換留学でドイツに行った時にいろんな人と出会って、みんな26歳やそこらで学生をしていたので、「まだ学生やってもいいじゃん」って思えて…だったら今の先生の研究室で学びたいと思いました。

勝本:外国語学部から人科の大学院の受験って、基礎的な知識が異なるから難しくなかった?

河原:テストは全然違いますね。なので一から研究計画書も書きました。専門科目の勉強は、人間科学研究科の先生方が書かれた本とかを読んでいました。

勝本:じゃあ最終的に今はどんな研究をしているの?

河原:「国際的な視点および保健というものの枠組みの中で、メンタルヘルスをどのように扱っていくのか」というテーマについて研究をしています。社会学的な視点から、そのメンタルヘルスを良くするようなコミュニティってどういう「人との繋がり」が形成されているのかという点に興味があります。

勝本:グローバルヘルスに興味を持ったってさっき言ってたけど、その中でもなぜメンタルヘルスを選んだの?

河原:心が豊かであることって、一体どういうことなのだろう、ということを昔から考えるのが好きでした。本当の豊かさって、もちろん物質的なものに依存はするけど、それ以上に目に見えない精神的な部分が大きく関与していると思います。例えば今、心から自分自身を見つめ直すという行為が世界中で流行ってきていますし、他に、「いま・ここ」に集中することで本来の自分に気づく、マインドフルネスという考えを大切にしようとする動きも広がっている。つまり、幸せってなんだろうというところに人の興味が移ってきているというトレンドがあるんです。そういった人々の関心の流れにも強く興味を惹かれました。

勝本:「国際的な視点でメンタルヘルスを扱う」ということだけど、研究で海外に行くような予定はあるの?

河原:ワークショップと聞き取り調査のために、夏にイタリアとドイツに行こうと思ってます。私の研究は高齢者とメンタルヘルスという2つの軸を中心に置こうとしています。高齢者の問題は、世界全体ですでに深刻化しています。高齢化が一番進んでる日本が課題解決できれば、他の国々にも将来それを応用できると思うんです。それを見据えて、海外での研究活動に臨んでいます。

勝本:超域的な発想だね。

■ 超域での活動

勝本:ところで超域はいつ知ったの?

河原:初めて知ったのは、私が学部1年の時でした。知ったきっかけは、2012年度生の橋本奈保さんと、東大の方が開かれた、学生生活においてチャレンジするリスクをどうとらえるか、という超域のワークショップ(第9回超域スクール)に参加したときです。その時は、大学院生ってかっこいいな、くらいの気持ちでしたけど、「超域」っていう名前からして面白そうだなとも思いました。

勝本:さすが。超域に目をつけるのが早いね。

河原:大学院に進む話が出たときに、今の指導教員と学部時代の指導教員がそれぞれ私に超域を薦めてくれたんですよ。「君みたいな興味が定まらん子にはオススメちゃう?」って。

勝本:確かに超域って色んなことにチャレンジできるし、河原さんにはピッタリだったのかもね。ところで、超域のコースワークはこれから大学院の博士後期課程まで続くけれど、金銭的なバックアップは今年までしかないよね。それにもかかわらず今年から入ってくる覚悟というか、その一歩踏み出す勇気がすごいなと思う。

河原:視野が広がると強く思ったことが一つです。それから理系文系だけでなく、いわゆる民間の方々も参加されているから、話を聞きに行ったり、何か繋がりを作れたら自分にとってすごく大きなものが得られるんじゃないかって思いました。いろんな人に会いに行って、お話を聞くのが大好きなんです。単純にワクワクする。

勝本:実際授業を受けてみて、その二つは達成できそう?

河原:研究室エクスプローラの授業の1番最後に、今までいろんな研究室を見てきたけど、じゃあ理系ってなんぞや、文系ってなんぞや、っていう話題になって、お互いに思っていることを言い合う時間があったんですね。担当の小倉先生は、「今からプロレスをしましょう」って。その時に超域いいなって思いました。

勝本:プロレスはどうだった?

河原:理系に対して思ってることを伝えて、彼らに直接「それは違う」って訂正してもらったりとか、お互いに意見をぶつけたんですね。初めは理系の院生の発言に対し、「なんでそのように考えるのだろう、そのように伝えるのだろう」という疑問がありました。しかし、議論を進めていくうちに、彼らの語る言葉にすごく納得がいったんですよ。

勝本:理系の発言の根拠が分かったってこと?

河原:それとはちょっと違って、文系と理系では考える道筋が異なる、ということを理解したんです。理系には理系、文系には文系にとっての基礎たるものがあって、彼らは理系にとってのそれをベースに発言しているんですよね。そこにすれ違いの原因があった。遠慮なしに言い合えたからこそ、こういう経験ができたと思います。

勝本:一般的に言って、理系の学問に触れている人は少ない。だから「理系の説明していることはよくわからない」という話はよく聞くけれど、それを心から理解できるためには、プロレスが必要だった。

河原:はい。そうしたスタンスや態度の相違を感じたことが今まで何度かありました。いろいろ説明してもらうのだけれど、文系側の人間にしたら内容が専門的すぎてよく分かんない。専門知識を少し学んで臨んでも、それ以前の個々の要素の繋がりが複雑だったりして、なんとなくしか分からない。

勝本:確かに理系は基礎知識や専門用語をベースに話す傾向が強いかもしれないね。これは、議論のポイントを明確にして、簡潔に伝わる反面、専門外の人間を置き去りにしてしまう。

河原:分かりやすく伝えるという点においては、文系の学問で培われているものが多くあります。だから、文系の中で理系のことをある程度理解しようとする人がいるんだったら、コミュニケーターの役割を文系の人間が果たす。そうすることで、お互いにもう少し歩み寄ることが出来るんじゃないかと思いました。

勝本:理系と文系の人間で役割分担をしてそれぞれの長所を生かそうということだね。でも学問としては、それだけではない。

河原:そうですね。先ほどの議論ではド文系とド理系の人も必要じゃないかっていう意見もあって、その視点、面白い!と感じました。そういう両極端に位置する人たちだからこそ、なにか新しいものを作れる。歩み寄り過ぎてしまったら、双方の視野が共有されすぎてしまって、うまく分野が融合される場合もあるけれど、逆に何も生み出さないこともある、そういった議論が面白かった。

■ 自身のアクティビティと超域、専門研究のつながり

勝本:超域以外に自身でのアクティビティって何かしてるの?

河原:アメリカのNGOが主催する、シリコンバレーとスタンフォードを拠点としてアジアの若者にイノベーション教育を行うプログラムの運営に携わらせていただいています。日本人スタッフが私一人で最初は不安もあったんですけど、英語を駆使してなんとかやっています。主に学生と社会人を連れて、ソーシャル・エンタープライズといわれる企業や人を訪問しお話を聞いて学びます。これが1つ。

勝本:が、1つ…。

河原:それと、阪大がEDGE Program開催校のひとつとして実施している、Foresight Schoolというプログラムにも関わっています。これは、これからの未来のためにアイデアをどういう風に生み出して、それをどうマネジメントしていくかを学ぼうという活動です。そのアイデアコンペに阪大チームで参加し、優勝した経験もあります。

※EDGE Program: 13の大学で開催されているイノベーション教育やアントレプレナーシップ教育を主とする日本最大のイノベーション・コミュニティ。

勝本:イノベーション人材を大学で養成していこうという教育プログラムの一環ですね。

河原:その際は、興味を持っていただいた企業の方に向けて東京でプレゼンテーションをする機会をいただきました。フィードバックだけでなく、企業の方々が考える現在の社会・企業体制における課題や、学生に対する考え等を伺うことができて、非常に刺激を受けました。

勝本:ドイツ語専攻から人科に移動。今はメンタルヘルスの研究をしながらも、アントレプレナーシップの世界で活躍し、学生の文理問わず、社会人問わず、国籍問わず、様々な方と交流を持ちつつ活動しているんですね。では、河原さんは最終的にどこに行き着くのかな。

河原:WHOや国連で働きたいという夢が昔からあります。メンタルヘルスをやり始めたのも、この分野で政策に関わっていきたいと思ったのが最初のきっかけでした。ただ、その考えも少しづつ変わり始めています。JICAや国際機関等で働いてこられた方の話を聞いてると、国際公務員とかもいいけど、私はもう少し民間の枠組みの方が合ってるのかもしれないなって感じることがあります。

勝本:それはどういった点で?

河原:特に仕事の振り方とか、働き方に関してそう思うことが多いですね。私みたいに好き勝手やってきて、好きな人に会いに行って、いろんな話聞いて…っていう感じの、いわゆるフットワークの軽さが、比較的ルールが厳しいと言われる公的機関等で果たして活かされるのか、少し疑問です。

勝本:官僚気質であるということは、国際機関でもそう変わらないということは、僕も聞いたことがあります。

河原:それと、私の両親はずっと民間企業で働いてきて、そのような環境で働くことは楽しい、と小さい頃から私に教えてくれました。なので今は別の方向性も探しています。自らの好奇心や特性を、一番活かせる場所に行けたらと思っています。

勝本:なるほど。その一つが超域だったというわけですね。これからの活躍を期待しています。ありがとうございました。

河原:ありがとうございました。

 心の健康に関する問題を、国際的に解決するという大きな目標に挑む彼女は、そのバイタリティーとオープンな人柄で、積極的に外へ出て世界の幅を拡げています。超域というリソースを使って、今後の彼女の活動はよりパワーアップしてくことでしょう。超域人では、その時の超域生がもつ視点を深く掘り下げ、彼ら/彼女らの意図するところ、そして等身大の大学院生の姿を紹介しています。