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TEXT BY 下 剛典
研究科:薬学研究科
専攻:創成薬学専攻
専門分野:核酸医薬品

【はじめに】

 私は「創薬分野における産学官連携、企業間提携の取り組み」に関して学ぶ為、ドイツ・ハンブルグのEuropean Screening Port GmbH及びドイツ・ミュンヘンのBioM Biotech Cluster Development GmbHにてインターンシップ活動を行った。両企業での活動は実務を含めとても充実したものであり、事前に送付した履歴書、Research Interest等に基づき多くの提携企業に訪問することもできた。

【研修先に関して】

 受け入れ企業はEuropean Screening Port GmbH 及びBioM Biotech Cluster Development GmbHであり、両社の紹介でその他数多くの企業への訪問を行った。
 European Screening Port GmbHはPerkin Elmer社のハイスループットスクリーニング機器を導入、大規模な化合物ライブラリを用いてより迅速なドラッグディスカバリーを実現している企業である。国内外の企業、研究機関とも提携し、その中心となってEUやドイツの創薬プロジェクトに数多く参画した実績も有する。最近ではこれらの活動に注目が集まり、日本政府の関係者も見学に訪れたとの事であった。
 BioM Biotech Cluster Development GmbHはミュンヘン南東部の一大創薬クラスター内に所在し、バイオ関連ベンチャーの経営・資金援助、ベンチャーインキュベートを主な業務としている。また国際シンポジウムの開催を通じて、既存の国内外製薬企業とバイエルン州所在ベンチャー企業との連携を促すなど、クラスターにおいて中心的役割を担っていた。

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【活動内容】(表1参照)

 主な活動内容は以下の通りである。受け入れ先企業の概要、施設、業務内容を紹介頂いた上で、会議への出席や資料作成等の事務的な実務も経験させて頂いた。また提携先企業への訪問も数多く経験させてもらったため、創薬の分野の第一線で活躍する方々に出会い、お話を伺う事ができた。
 上記の活動の中でも特に印象に残った点は2つある。1つEuropean Screening Port GmbHにおいて国際電話会議に参加させていただいた点である。産学官連携、あるいは企業間で連携しながら研究を進めていく上で、緊密な連絡のやりとりは不可欠であり、定期的に開催される国際電話会議はその要を占めている事を学ぶ事ができた。電話会議は各プロジェクトに応じて実施されているそうであるが、私が参加させていただいたのはアメリカ、イタリア、フランス等の研究機関が参画する大規模なプロジェクトの進捗報告会議であった。会議はよく組織化されていた印象で、現状の問題点と進捗状況を的確に伝達できるようスライド資料、進行手順も工夫されていた。もう1つはBioM Biotech Cluster Development GmbHにて行った実務である。提携先に関する報告(新聞、ネット等を含む)を収集し、新しい提携プロジェクトの開始、研究技術の委譲、合併等、めまぐるしく変化する情勢をまとめるという内容で、責任あるとてもやりがいの有る仕事であった。

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表1、ドイツにおける活動日程表

【気付いたこと】

 活動を通じて、ドイツと日本の創薬のシステムには大きな違いが存在している点を認識することができた。日本においては大手製薬企業が主体となって、しかも企業独自の研究プロジェクトを進行させる場合が多い。一方でドイツにおいてはベンチャーを含む中小規模の製薬関連企業が国内外の中小企業同士あるいは、大企業と対等に手を取り合ってプロジェクトを進行させている例が数多く見られる。終身雇用制が一般的で大企業志向の強い日本において、ドイツのような「中小企業主体、産官学連携の創薬」という形態が成功するか否かは疑問の余地がある。しかし近年の創薬の高コスト・高リスク傾向を鑑みれば日本の創薬分野も何らかの対策を打たねばならない状況にあるのは自明で、実際大阪バイオ・ヘッドクオーター等、国内においても産学官連携のシステムを模索する動きがいくつか見られる。私自身も将来は産官学連携の分野において日本らしい形態の新しい創薬連携システムを構築したいと思いを強めることができる有益な研修だった。

【観光に関して】

 両企業での活動期間は各3日であったが、休日、移動を含めドイツに12日間滞在させて頂いた為、観光を通じて現地の文化に触れる機会も多かった。科学分野で世界をリードしてきた工業国だけあって、博物館の展示等も非常に興味深かった。また戦争の歴史を物語る強制収容所の施設等も訪問し、学ぶところの多い機会となった。

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【活動を終えて】

 本研修を行う以前は海外でのインターンシップなど自分の語学力で大丈夫なのだろうかとかなり不安だった。実際、研修期間中に自分の意思を上手く伝えることができないなど、苦労した場面が幾度かあり、今思い返すだけでぞっとする気持ちである。しかし研修を終えることができたという達成感が自信となり、今後も機会があれば積極的に海外でのインターンシップ活動に挑戦してみようと考えることができるようになった。この点は本研修を通じて得ることができた最も重要な点だと思っている。
 またインターンシップ中にドイツで活躍される日本人に何人か出会う事ができ、その姿から学ぶ点も多かった。特に唯一の日系企業訪問の際お世話になったDojindo EU GmbHのTakatoshi Ezoeさんから海外で働くことのやりがい、魅力を聞き、私自身も将来は海外で活躍したいという気持ちが一層強くなった。Ezoeさんは研究用試薬販売の分野においてヨーロッパ法人の立上げを目指す日本本社からドイツに派遣、同僚の方と2人で現地顧客獲得を模索されていた。お話を伺って、海外で仕事をする為には、現地の文化、考え方の違いを認識し、それに合わせたビジネスを展開する事が要となる事を理解できた。

【おわりに】

 本インターンシップ活動の受け入れ、日程作成等、特にご協力頂いたEuropean Screening Port GmbHのDr. Philip Gribbon、Dr. Mira Grättinger及び、BioM Biotech Cluster Development GmbHのProf. Dr. Horst Domdey、Dr. Stephanie Wehneltに厚く御礼申し上げる。
 また本インターンシップ活動の準備段階において助言頂いた大阪大学産学連携本部の妹尾先生、花崎先生、兼松先生、大阪大学大学院薬学研究科の平田先生に深く御礼申し上げる。