お寺

■履修生が企画立案し、実施した科目

 さて、執筆者(樋口岩浅)たちのチームが立案した「禅」を軸とした授業は、複数ある授業案の中から、投票によって選ばれ、「超域自主設計科目Ⅱ-b」として第二学期に開講される運びとなった。ここではチームが作成したシラバスを引用し、この講義を受講した履修生たちの声を紹介する。

「超域禅修行~釈迦に見るリーダー像~」シラバス

授業の目的・概要 超域イノベーション博士課程プログラムでは、「俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダー」の育成を目的としており、本プログラムから輩出される人材においては、単なる個人の自己実現にとどまらず、社会に対する高い倫理観に裏付けられた貢献が求められることとなる。すなわち、自身の抱く価値観のみに依った行動力ではなく、他者の価値観を鑑みたうえでの意思決定能力が求められるのである。
 こうした中にあって、重要な意義を持つと考えられる概念の一つに、仏教の「中道」思想がある。これは、相互に対立し矛盾する二つの極端な概念に偏向しない実践(修行)の在り方を規定する考え方であり、釈迦の教えでもある。
 本授業では、本プログラムにおいて設定されている「民主主義社会のリーダーとして『独善的エリート主義』を超える」という目標を念頭に、僧侶を交えた対話や修行の実践を通じて「中道」の思想を学ぶことで、履修生それぞれが、自らの描くリーダー像を深く問い直すことを目的とする。
学習目標・仏教、禅修行、「中道」の精神について理解を深める。
・リーダーシップに対して意見を持つ。
・修行を通じ、不完全な自己を見つめ直す。
授業計画

第1回【講義+ディスカッション形式】~仏教・修行とは何か~
仏教や禅についての最低限の知識を講義形式で提供する。また、外部講師として僧侶の方をお呼びし、対話を通じて知識を深めていく。

第2回【講義+ディスカッション形式】~「中道」の思想と座禅~
仏教の重要な概念である「中道」の思想について講義を交えながら議論を行う。また、仏教における禅の立ち位置などにも触れ、禅修行に向けて理解を深める。

第3-5回【課外実習形式+ディスカッション形式】~禅修行・学びの共有~
座禅・法話・禅問答などを通して、普段あまり向き合うことのない自己の行い・考え方・価値観を見つめ直す。また、不完全な自己に気づき、他者を受け入れる素養を身につける。
禅修行を体験することを通じて、学んだことを共有する。僧侶の方も交えてディスカッションを行う。

■受講者感想

 仏教という2000年以上の歴史を持つ宗教、そしてその思想に対し、説明を施すことが難しいことなのだと講義を拝聴して改めて感じました。その多様で、深みのある仏教について、仏教のはじまりや仏教の核となっている概念(四諦、八正道、六道、中道、三宝など)について、講師の方には、非常にわかりやすく説明頂きました。一連の講義を通して、今まで全く知らなかった仏教の世界について、少し足を踏み入れることができたように感じています。特に「中論」、「色即是空」は、講師の先生方が提案してくださったように、現在の複雑で近くなった世界や国際社会を見つめる際にも活用可能な概念だと思います。これまで、海外でのアクティビティや国際社会に対する議論の中で、宗教もしくは宗派同士の対立について議論する場が多くありました。しかし、思い返してみるとその議論の中で、仏教が巻き込まれた事例は比較的少なかったようです。その背景には仏教の中論の考え方や脱宗教(脱執着)の概念があるからではないか、と講義を通して考えるようになりました。まだまだ、海外の人に「仏教とはなにか」と聞かれてすぐに答えることはできないと思いますが、今回の経験を契機に、少しずつ学んでいきたいと思います。
(人間科学研究科グローバル人間学専攻 博士後期課程2年・2012年度生 松村 悠子)


 仏教に触れる機会といえば、祖父がなくなったときや、その法要をするときだけでした。しかも、習慣的に三回忌、七回忌・・・とするだけで、法要の度に唱えるお経の意味を考えることもなければ、法要の周期の意味を考えたこともありませんでした。しかし、今回の授業では、そもそも仏教とはなんぞやから教えていただき、仏教が大事にしていること、なぜ仏教がそれを大事にしているのか、お釈迦様の経験から来るものなど、大変わかりやすく教えていただき、とても勉強になりました。
 中学校・高校とキリスト教系の学校に通っており、週に一度、宗教という授業がありました。その時間にキリスト教について習い、6年間かけてじっくり少しずつキリストの考え方やキリスト教が大事にしていることを学んでいく形でした。今回は仏教についてたった3時間の授業を受講する形だったので、仏教についてのすべてを学ぶことは難しかったと思います。しかし、講師の方が仏教について真剣に本気で教えようとしていただき、また、わかりやすい言葉で説明していただき、仏教の奥深さを垣間見ることができました。さらに、自分なりにキリスト教と仏教の共通点や相違点についても考える機会にもなりました。
(工学研究科マテリアル生産科学専攻 博士後期課程1年・2013年度生 岩浅 達哉)


 これまで、超域イノベーション博士課程プログラムの様々な授業やコースワークを受けてきましたが、そのなかでも心に残る授業の一つになりました。一つには、自らの興味や問題意識をベースに授業を組み立てていく「自主設計科目」の一環だったということもあり、主体的に取り組むことができ、且つ、肩肘を張らず「楽しむ」という感覚を大事にしながら受講できたからだと思います。また、仏教や僧侶の方というと、そもそもあまり意識することや日常に出会うことも少ないなかで、聞く機会のなかった、あるいは聞きづらいと思っていた疑問についてお話を聞き、禅修業や、寺でのおつとめなどの非日常の体験をさせていただいたのも、大変貴重な経験となりました。
 私にとって「宗教」は身近でありながらも、身近ではありませんでした。私たちの日常には、仏教由来の言葉や、祝日などをはじめ、「仏教」がさまざまな場面に散りばめられていて、意識するしないにかかわらず本来的に身近なものである一方で、私は無宗教といった意識のもとで、そうした身の回りの宗教に意識や関心を払ってこなかったというのが実際のところです。講義の中でも、ものごとの因果説・縁起説についてのお話がありましたが、この授業を受講したというのもある種の因果といえるのかもしれません。これを機に、仏教に対する興味も高くなり、もっと、その考え方を学んでみたいと思うようになりました。
(人間科学研究科人間科学専攻 博士後期課程1年・2013年度生 金南 咲季)


 当初はなんとなく、座禅では「何もしない・考えない」ものだと思っていたのですが、「数息観」ということで数を数えるように言われ、「何もしない」というわけではないのだな、というのが、まず一つ、驚きでした。ただ、呼吸法が馴れないので、これを十五分も続けることはかなり大変でしたし、途中で腰や肩が痛くなってきたので、数を数えながらも、「しんどいな」ということを考えずにはいられませんでした。一度目の座禅が終わった後には、思いのほか体力や気力を消耗していた自分に気づき、「集中するというのは、意外と疲れる」という気づきを得ることができたと思っています。
 また日頃、寝る前すらも、いろんなことを考えようとしているなかで、「真っ暗な中で何も考えないように努める」という体験は意外とない、ということも一つの発見でした。逆説的ですが、良いアイディアを思いつくためには、何も考えないよう努力することも一つの方法なのかもしれないと思っています。アニメの「一休さん」の意味が少しわかったような気持ちです。今回の授業では、仏教の思想を学んだというよりも、新鮮な体験をさせていただいたという感じです。今後も関心を持って、思い悩んだ時には「何も考えない」を実践してみてもいいかもしれないと思っています。
(工学研究科環境エネルギー工学専攻 博士後期課程1年・2013年度生 高田 一輝)


 座禅を経験して気がついたことは、自分自身と向き合うことの恐怖です。普段の私は、取り止めのない思考の流れの中に生きています。例えば、いま私は座禅を受けた感想を考えていますが、他の課題のことが気になったり、夕食のことを考えたり、将来のことを考えたり、 私の思考はあちこちに飛んでしまいます。ひとつのことをずっと考え続けるのは非常に困難で、時に苦痛だったりします。とりわけ不安や悩み事とずっと向き合っていると、出口のない暗闇の中に放り込まれた感覚になり、恐怖心が生まれる。そんな時、あちこちへ散乱する思考の流れは、私の恐怖心を流し去ってくれます。つまり私は、複数の思考でもって頭を埋めることである種の安心感を得ているとも言えます。
 座禅中は 「数を数える」作業に集中しようとしていましたが、次から次へと雑念がやってきました。追い払おうとすると余計に気になり、数を数えるという「単純作業」がいかに難しいかを痛感しました。湖のイメージでというお話を聞いてから挑んだ二回目の座禅は、湖をイメージしながら深くゆっくりと呼吸することを心掛けました。そうすると、身体のリズムに自分を委ねるような、心地良い感覚になりました。しかし、その感覚もずっと続いていたわけではなく、足先の寒さに邪魔されて集中力が切れる、深く呼吸をして少し心地よくなる、足先の寒さが気になりだす…といったことの繰り返しでした。二回目の座禅中に感じた身体に自分を委ねる心地良さは、寝る前などに自分をリラックスさせるためにも取り入れたいと思いました。回数を重ねるごとに自分にどのような変化が訪れるのかを知るためにも、また機会があれば座禅を体験してみたいと考えています。
(人間科学研究科人間科学専攻 博士後期課程1年・2013年度生 篠塚 友香子)


>>レポート1に戻る

bt_02 bt_01