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授業レポート | 社会課題を解決する授業


デザイン思考「知的創造の場づくりの理論と実践」

2017/1/25

家具を利用したストーリーテリング

担当教員: 木多 道宏(工学研究科)
授業補佐: 大杉 卓三(未来戦略機構)、小倉 拓也(未来戦略機構)
Text: 木多 道宏

■授業の概要

「デザイン思考」は米国のIDEO(アイディオ)というデザインスタジオで提唱された問題解決のプロセスであり、数々のイノベーションを実現したことから世界的に広く知られることとなりました。専門の異なる人々がチームをつくり、観察(オブザベーション)、創造(アイディエーション)、試作(プロトタイピング)を繰り返しながら課題を発見し、解決策を見出すものであり、デザインの対象はモノから教育、少子高齢化社会、地球温暖化など社会システムの課題まで大きく拡がっています。本授業では、デザイン思考の事例、特徴とその有効性などを理解するとともに、チームによる課題の取り組みを通して、デザイン思考のプロセスと手法を習得することが目的です。なお、当授業は、スタンフォード大学のd.スクールが実践し、デザイン思考研究所が普及させている手法を踏襲しています。

■共感と詳細化

平成28年度には、実践課題として、「キャンパスにおける食の体験を新しくデザインする」に取り組みました。学生、教職員、来訪者など、キャンパスの「ユーザー」へのインタビューや行動観察を行い、ユーザーがかかえるトラウマを把握します。共感とは、同情や同感ではなく、「想像の中で相手の状況に身を置き同じ苦しみを感じる」ことであり、簡単には言葉にできない「暗黙知」をそのまま受け止めることです。

それぞれのメンバーが調査で得たユーザーの暗黙知をチームに持ち帰り、ポストイットに書き出しながら、チームで共有します。「共感マップ」の作成や「ペルソナ」の想定といったプロセスを経て、ユーザー自身も意識できない、心の奥底に隠されたニーズの発見を試みます。この潜在的なニーズのことを「インサイト」と呼び、イノベーションの達成はこのインサイトへの到達の有無にかかっています。このような、暗黙知の顕在化からインサイトの発見に至るプロセスを「詳細化」と呼びます。

ユーザーテストによるフィードバック
ユーザーテストによるフィードバックの様子

■ 探索と実験

次に、ペルソナのインサイトを解決するためのアイデアをできるだけ多く出し合い発散させます。これらのアイデアを、「トピック設定」、「アイデア創造」、「アイデア選択」といったプロセスを経て、「可能性のあるアイデア」へと収斂させる手法を習得します。

続いて、アイデアの有効性を検証すために、プロトタイプを作ります。プロトタイプには、新たに開発する製品自体を試すもの、サービスを試すものもの、しつらえた空間を試すもの、ストーリーの流れの中でアイデアの可能性を試すものなど様々なつくりかたがあります。身の回りにある簡単な素材、例えば、紙やひも、マーカー、せんたくバサミ、ラフスケッチ、机・椅子などで素早く雑に製品や空間をつくり、ユーザーテストを実践します。他チームのメンバーがユーザーの役割を演じ、プロトタイプを体験した率直な感想をフィードバックしてもらいます。これを基にプロトタイプを改善し、ユーザーテストと改善のサイクルを何度も繰り返していきます。実際のビジネスや製品開発の場面では、できるだけ安価に多く失敗することがリスクの軽減につながるのです。

■展開

一定レベルに達したアイデアをチームで演じることにより、解決策がどう機能するのか、ユーザーの日常はどう変化するのかをプレゼンします。これを「展開」、あるいは「ストーリーテリング」といいます。ストーリーテリングは、ユーザーや顧客の共感を得るだけでなく、チームのモチベーションを高めたり、社内の理解を得ることにも有効です。紹介ビデオの作成や演劇、マガジン・モックアップといった手法がありますが、当授業では演劇を採用し、各チームが作成した「新たな食の体験」を発表してもらいます。

家具を利用したストーリーテリング
家具を利用したストーリーテリング
プロジェクションを利用したストーリーテリング
プロジェクションを利用したストーリーテリング

■振り返りとまとめ

「デザイン思考」は、dスクールにより確立・洗練された、イノベーションを生み出すための方法論ですが、ともすれば形式や様式として一人歩きしてしまうかもしれません。当授業では、最後に、清水博による「場の思想」の哲学や、ナポレオン・ヒルがまとめた成功者の哲学、あるいは日本のトップリーダーの言説の中に、デザイン思考との共通性を見出し、「デザイン思考」の本質とは、「天命」に触れ、「夢」をかなえるための「場づくり」であり、チームに「生命」や「マスターマインド」、「衆知」といった共有の「暗黙知」を生み出し、生かし続けるための方法論であることを解説します。

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