Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

超×超域人
超×超域人 Vol.4
―超域事務の坂本さん流世界での仕事術―
 

2021/3/8

インタビュイー:国際共創大学院学位プログラム推進機構  事務  坂本 惠
インタビュアー・記事編集:2018年度生 岡田 茉弓(言語文化研究科)
写真撮影:2017年度生 沈 吉穎(言語文化研究科)
記事編集:2017年度生 今村 都(経済学研究科)

 

大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの履修生や教職員にインタビューする「超×超域人」!今回は7期生の岡田茉弓が、国際共創大学院学位プログラム推進機構(超域)の特任事務職員、坂本惠さんにインタビューを行いました。今回のテーマは、「海外経験で得たものと超域生へのメッセージ」です。超域の海外系業務担当である坂本さんはどのような経歴を経て超域へ来られたのか、坂本さんの目には超域はどう映っているのか、そして「超域生にはずっと超域でいてほしい」というメッセージの真意とは?教員とは違う視点から、たくさんのメッセージが詰まった対談です!

 

坂本さんの職歴:グローバルに活躍することを目指して

 

左からインタビューアーの7期生 岡田、インタビューイーの特任事務職員 坂本さん

 

 

 

 

岡田 坂本さんのこれまでの職歴を教えてください。

坂本 新卒で務めたのはダイハツ工業株式会社の海外営業部です。1980年代前半、日本は技術大国として飛ぶ鳥を落とす勢いでした。その象徴が自動車と電機で、アメリカで職を奪われた人々が、日本車をボコボコにしている映像がニュースで流れていました。それを見て、アメリカに日本車を売ろうと考えたのがグローバルに働きたいと思ったきっかけです。

岡田 ダイハツ工業に就職された後、転職はされたんですか?

坂本 転職はしています。7回ぐらいかな。

岡田 転職理由はどんなものだったんですか?

坂本 昭和の頃は、今と全然感覚が違います。結婚したら女性は辞めるのが当然でした。夫は、ダイハツ工業で同じ部署だったので、結婚を機に退職しました。その後、三菱電機の半導体を輸出する商社に転職して、台湾を担当しました。当時の台湾は、コンピュータ関連の受託生産急速拡大中で、日本から半導体を送っても送っても在庫ができないほどの生産量でした。定期発注分だけではまったく足りず、「今日中にラインが止まる!何時の伊丹発フライトに乗せて!」など、国際電話がひっきりなしにかかってきました。当時の伊丹発台北行きのフライトはすべて頭に入っていました。(注:まだ関空がなかった時代)毎日が緊張の連続でしたが、自分が何かを動かしている快感は何にも代えがたかったですね。そんな絶好調の時、夫に転勤の辞令が出ました。転勤に伴うため、わずか2年弱で泣く泣く退社しました。単身赴任という言葉がまだなかった時代です。どうせ辞めるんなら出産退職にしてやろうと思いました。

岡田 出産祝い金をもらえますものね(笑)

坂本 そんな感じでしたね(笑)。子どもが大きくなってから、特許事務所や、研究員補助の仕事、それからは、航空機関係企業、電機関係企業、商社、と転職しました。

岡田 最初の就職はグローバルに活躍することを目指して、その後は、ライフステージに合わせてキャリアを変えられたんですね。最初就職されたダイハツ工業では、アメリカでの仕事をメインにされていたんですか?

坂本 いいえ、私が入った頃のダイハツ工業は世界中へ事業を拡げていましたが、北米が最後の市場という段階でした。私が配属されたのは「北中南米課」という変な名前の部署でした。中南米向けの仕事と、北米進出の準備をしていたからこの名称になったのでしょうね。

岡田 具体的には、どういった国を相手に仕事をされたんですか?

坂本 私はエルサルバドルやガテマラなど、中米担当でした。でもあの頃、女性は通信文のタイプやお茶くみなど、サポート的な仕事しかできないのでつまらないと思っていました。

岡田 実際に、海外に行って何かお仕事されたのはいつですか?

坂本 2000年以降です。パナソニック系の会社で、電動文具を担当していました。例えば、鉛筆削り、電動パンチ、ステープラーなどをアメリカに輸出していたので、かなりの頻度でアメリカに行って仕事をしました。この時期からようやく、海外の現場で仕事ができるようになりました。

岡田 坂本さんは東南アジアに詳しいイメージがあったのですが、東南アジアの現場にはいつ行かれたんですか?

坂本 その後です。その後、勤めたのが中小の商社だったんですけど、主にアジア諸国でのOEM生産(original equipment manufacturer)、いわゆる受託製造業を中心とした貿易会社で、私の担当は大部分がベトナムでした。具体的には、お客さんである日本の企業から「ベトナムでこんなものを作りたい」という要望を聞いて、「それなら候補になる工場がいくつかあるので、見積と試作から進めましょうか」という具合に、企業と工場の間に入って、契約、生産・品質管理から出荷まで、全ての工程に携わる仕事をしていました。

岡田 では、これまでで一番責任のあるお仕事だったんですか?

坂本 そうですね、一番やることが多かった仕事ですね。単なる貿易だけではなく、海外ならではの想定外の問題も多く、結構タフな仕事でした。

岡田 そういった仕事を、何年ぐらいされていたんですか?

坂本 ベトナム関係の仕事が約10年で、その前のパナソニック系の仕事が約5年、トータル15年ぐらいは頻繁に海外に行っていましたね。

岡田 最後はご自身の裁量で工場を動かすところまで行かれたと。

坂本 工場動かしましたね、面白かったです(笑)。本当、面白かった。中国の人件費高騰から、東南アジアへ生産がシフトしていて、そのポスト中国の生産拠点としてベトナムが急成長していた時期だったので、すごく面白かったですね。

アメリカの文具ショーに出張中の坂本さん

海外で得た経験:「危機察知能力」と「戦略的に聞く」ということ

岡田 海外出張をして相手先の方と直接関わる仕事することで、身に付いた能力はありますか。

坂本 危機察知能力ですね。テロが起こりそうとか、そういう話ではありません。交渉ごとの舞台で、「今、自分が何を話せば、この先の危機を回避できるか」を察知する能力です。例えば、日本で作った商品に現地で不良が起きて多額の補償が必要といった時に、相手方とどのように渡り合えばこの危機を乗り越えられるか、少額の損失で済ませられるか、を察知し臨機応変に対応することです。それと、相手の話を戦略的に聞くことです。これが、一番身に付いたことだと思います。しゃべり倒して勝つ必要はないんです。相手が自滅するのを待つ作戦もあるんです。しゃべればしゃべるほど、自滅していく人っているんですよ。「柿の実が熟して落ちるのを待つ」作戦は、話を聞く力があってこそ実行可能です。やはり、相手の話をしっかり聞くことは、グローバルに打って出る上で、重要だと思います。

岡田 その交渉術と能力は、日本にいるときよりも高まりましたか?

坂本 もう全然違いますね。日本人同士だったら、お互いに分かり合える部分がありますが、海外で、しかも英語だと、そうもいかないので、いかにうまくコミュニケーションを取っていくかが重要です。

アメリカの大手文具メーカーoffice Maxに訪問した時の坂本さん

超域への転職:これまでとは異なる刺激

岡田 前職の刺激的なお仕事から、どうして超域の事務に転職されたんですか?

坂本 前職は輸入をメインとした商社で、ちょうど10年ぐらい前、円高とデフレの影響で1ドルが70円台だった頃は調子がよかったんですが、安倍首相に変わって、日銀が黒田バズーカ1 を打って日本の輸出産業を助ける政策が始まると、私が勤めていたような輸入メインの中小企業は、大きな痛手を受けました。仕事をすればするほど差損が膨らむ。それが蓄積して、財務的な問題が出て、もう辞めようと。もう疲れちゃったんですよね。
辞めた後、1年ぐらいは何もしないでいました。そんな中、ハローワークの人から「そろそろ真剣に就職活動をやりなさいよ」と言われて、紹介されたのが超域の事務の求人でした。ぱっと見たら、あ、自分の家(石橋)から近いし、これはいい!と思ったのは、勘違いだったんですけど(笑)。(注:超域のオフィスは吹田キャンパスである)。大学だったら絶対につぶれないと思ったのが本音ではあったのですが、前職で、まさに「一を聞いて十を知る」「かゆいところに手が届く」がごとく、私を助けてくれた若い有能な女性がいて、彼女が阪大出身でした。今度は私が、彼女のような優秀な人をサポートする「恩返し」をしたいな、と思ったのもきっかけの一つですね。

岡田 現在超域に在籍されて3年目とうかがいしましたが、超域に来られていかがですか?

坂本 本当、超域に来てよかったですよ。履修生の皆さんの発表や議論、雑談を聞いているだけでも刺激を受けますし、好奇心をかき立てられます。感心するだけじゃなくて、自分も一緒に勉強したいなという気持ちになる環境にいられるのは、とてもありがたいことです。

超域の海外系授業:その長所

岡田 超域でご担当されている業務を教えてください。

坂本 海外に関わること全てですね。まずは海外フィールド・スタディ(以下 FS)2 とグローバルエクスプローラ(以下 GE)3 、自主実践活動 4といった海外系演習のコーディネートです。そのほか、海外教務系研修各種の実施や海外活動時の危機管理、履修生の語学教育関係も担当しています。

岡田 超域の海外系担当事務として考える、超域の海外系の授業の良い点はなんですか?

坂本 良い点はやはり、海外での学びはSeeing is believing、百聞は一見に如かず、なので、それを履修生のみなさんが実際に体験できることです。特にGEは、個々人の興味関心を元に好きなように計画・実施できますので、非常に自由度の高い演習です。一方のFSも「実際に見る」ことを重視した研修になっています。なかなか自分でゴミの最終処理場には行かないですよね(注:2018年度のFSでは、インドネシア・バリ島のゴミ埋め立て地を訪問した)。私も、下見でバリに行かせてもらったんですけど、いい経験でしたね。これまで知らなかったバリを目にして本当に衝撃を受けました。その後、いろいろな人とお話をする際、あの時見たインドネシアの光景をシェアすれば、必ず興味を持って聞いてくれます。環境問題について、自分の目で見て体験できたことは貴重な機会でした。

岡田 超域で関わった中で、特に印象に残ったことはありますか?

坂本 超域の海外系の中で印象に残ることは、危機管理です。超域の危機管理のレベルの高さは、すごいと思います。予防接種や、危機管理研修、また、日本では疑問に思わなくても、海外では意識すべきことを改めて認識することは、大事だなと思いました。それと、海外研修の時は、体調管理が何より大切です。

インタビューイーの坂本さん

 

海外経験が人生に与える示唆:誠実さとサバイバル

岡田 そういった海外でのご経験の中で、人生に与えた示唆はありますか?

坂本 やはり、誠実さかなと思います。駐在員として赴任して、失敗して帰国した人を何人も見てきましたが、どの国でも「誠実さ」を意識して、現地の人たちに接していれば、結果は違ったかもしれない。私もベトナムで仕事をして、その大切さを実感しました。厳しく接すべき時は厳しく、一緒にふざけるときは、とことんふざけていました。相手を尊重し、仲良く働くことが重要です。でも、仕事をする上で線引きは必要なので、毅然としつつも誠実さが根底にあって、相手に信じてもらうことが大事かなと思います。あと、どんな状況でもサバイバルできることも大事だと思います。

岡田 サバイバルというのは、言葉も分からない状況で、1人の時にどう対処するかということですか?

坂本 そうです、まずそれです。対処すること、それと、判断です。私はベトナム関係の業務を担当しているとき、仕事でカンボジア国境辺まで行って帰ってきたのですが、ホーチミンのホテルに帰ってから熱が出ました。すでに夜遅く、翌日に帰国を控えていたので、その時に何がベストかを考えて、大量に水を飲んで寝ました。翌朝の状態次第で、次の行動を考えようと思っていました。運よく、熱が下がったので、予定通り帰国しましたが、熱の原因がわからない中、適当に薬を飲まなくてよかったです。種類によっては、症状が悪化しますから。
 あと、同じくベトナム関係の仕事でハノイに滞在した時、死ぬかと思ったことがあります。非常に深刻な問題があって、お客さんと一緒にある工場に行きました。最後は何とか交渉がうまくいって、「よーし、一緒に飯行こう!」ってなると、必ず、工場のスタッフが、工場オリジナルの密造酒をレストランに持ち込むんですよ。特にハノイの国営企業では必ず作っていて、それでもてなすのが彼らの流儀です。それがもう、アルコール度数が半端ではない。いつもは挨拶程度に飲んで控えるのですが、仕事がうまくいったことで極度の緊張から解放され、ついつい盛り上がってしまい、気がついたら、ホテルの自分の部屋にいました。駐在員事務所のスタッフが、みんなで抱えて連れてきてくれたと後で聞きました。ああ死ななくてよかった、と、恐ろしさに縮み上がりました。運もサバイバルのうち?と、無理やり収めてみましたが、いずれにしても、超域生の皆さんには無理をしないでもらいたいですね。

超域生へのメッセージ:履修生には「超域」であってほしい

岡田 それでは、最後に坂本さんから超域生に何かメッセージはありますか?

坂本 超域の皆さんには、ずっと、超域でいてほしいです。超域でいるって何?の解釈はそれぞれですが、一つだけ共通しているのは、自分らしく生きることかな、と思います。それによって、みなさんが既に備えておられる多様化に対する意識もなお向上するでしょう。みなさん、これからの社会に本当に必要な人材です。それと、海外で見てきたもの、経験したことも、超域的な視点で、共有してもらいたいと思いますね。

岡田 貴重なお話、ありがとうございました。

坂本 ありがとうございました。

 

 

 

(注)
1 黒田バズーカ:第31代の日銀総裁である黒田東彦氏が、デフレ脱却や景気刺激を目的に実施した金融緩和策のこと。
2 海外フィールド・スタディ:超域1年次に行われる海外実習プログラム。現地の人々との交流・実践を通じてグローバルな諸問題を発見し、それらに実践的に取り組む力を養う。
3 グローバルエクスプローラ:超域2年次に行われる実践型授業。履修生が自由に選択した海外の機関を訪問し、グローバルな行動力を身に着けるとともに、キャリアイメージを構築し4年次の自主実践活動などに備える。
4 自主実践活動:超域3・4年次に履修生が自ら企画し取り組む実践型授業。将来のキャリアを見据えながら、これまでのコースワークで獲得した知識やスキルを社会における具体的な実践の場で活用する。