Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

超×超域人
超×超域人 Vol.2
―「外から来たもの」を研究するということ―
 

2021/2/2

インタビュイー     :2018年度生 大津 真実
国際共創大学院学位プログラム推進機構 特任研究員 友尻 大幹
インタビュアー・記事編集:2018年度生 岡田 茉弓
記事編集・写真撮影   :2017年度生 沈 吉穎

大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの履修生や教職員にインタビューする「超×超域人」!今回は7期生の岡田茉弓が、言語文化研究科博士後期課程1年の大津真実さん(超域2018年度生)、国際共創大学院学位プログラム推進機構(超域)の友尻大幹先生にインタビューを行いました。今回のテーマは、「『外から来たもの』を研究するということ」です。大津さんは「ドイツの移民」、友尻先生は「外来魚」を対象に研究を行っています。人と魚と対象は異なるものの、外から来たものを扱う点で共通する二人の研究にはリンクする部分があるのでしょうか?

研究内容:現象に関心を持つか、課題解決志向か

岡田 お二人の研究内容を教えてください。

友尻 外来種の特に魚類(外来魚)に関する研究です。 外来魚の研究というと、生物学系の研究をイメージされるかもしれませんが、今は東南アジア地域の特にタイを中心に、外来魚が生態系に与える影響を評価するような生物学系の研究と併せて、外来魚が入ってきた時に地域住民の方々がどのように利用するのかを調査する、社会科学よりの研究もやっています。

大津 その利用というのは、具体的にはどういうものですか?

友尻 主要なものは食利用です。 私の研究対象は淡水魚なんですけど、タイの人って日常的にその辺の川や水路で魚を採ってその日のご飯にしたりするんですね。そういう盛んな魚食文化の中で、在来種と同じように外来種も利用されているのか、それともされてないのか。されているならどういうふうに利用されているのかを、聞き取り調査によって明らかにしてきました。

岡田 大津さんはどういう研究をなさっているんですか?

大津 私はドイツの移民を研究しています。修論では都市部をメインに調査していました。基本的に移民って都市に多いんですけど、そこでどんな問題があるのか、その中で移民たちがどんなふうにコンフリクトを乗り越えながらドイツ社会の中で共生していくのか、を研究していました。具体的には、移民家庭の統合支援プロジェクトの当事者たちに会って、インタビュー調査をしています。

友尻 大津さんの移民研究は、現象そのものに興味関心があるのでしょうか?それとも、課題解決的意味合いの強いものなのでしょうか?

大津 どちらかというと、目の前の対象を強く意識していますね。現象に対する興味関心を中心に、最終目標として「課題解決」を見据えているようなスタイルですかね。

岡田 友尻先生はどちらですか?現象を見るのか、課題解決型なのか?

友尻 僕も両方の側面を持った研究がしたいですけど、外来種が生態系に及ぼす影響を明らかにするのと、外来種問題の解決に取り組むっていうのは、扱う事象の種類と範囲が違うと思っています。外来種の生態系への影響などは生態学の枠組みの中で評価できるけども、外来種に関する問題をどう扱うかっていうのは、もっと社会的背景や多様な利害関係者などを考慮した、広い枠組みの中で考える必要があります。生態学者としては、外来種を取り巻く生態学的な現象を明らかにすることにある程度貢献できているように思いますが、外来種問題という大きな課題に取り組むにはまだ力不足を感じています。将来的に挑戦したいとは思っていますけども、現状では手を着けられてないっていう感じですかね。

岡田 外来種問題に取り組む際に、ご自身の中で目指すべき状態や最適な解決策というのはありますか?

友尻 ある生態系に外来種が持ち込まれたときにどういった現象が起きるかというのは、ほとんど予測不可能なんです。生態系は想像以上に複雑なので。さらに、生態系を取り巻く人間社会があって、もしかしたらそこでは外来魚が人間にとって重要なタンパク源になっているかもしれない。逆に、琵琶湖でブラックバスがアユを食べてしまうように、地域の漁業に被害を及ぼすかもしれない。そういった複合的な要素を考えると、外来種問題って極めて地域特異的ですよね。地域特異的なのに、広く一般に「外来種は悪影響があるから駆除しましょう」っていうコンセンサスがある。そこに大きな齟齬があります。だから、外来種問題はどう解決されるべきかという質問に対しては、地域特異的に合意形成を図っていくしかなくて、一つのルールの下での解決策はないだろうと思っています。

インタビュイーの友尻先生

研究のきっかけ:原体験との繋がり

岡田  現在の研究を始めたきっかけを教えてください。

大津  私は学部のときに日本語教育を専攻していて、外国人住民と授業内外で関わることが多かったんです。そういう経験があったので、もともと移民問題に関心がありました。また、第二外国語としてドイツ語を勉強をしていて、ドイツに留学したんですが、その時がちょうど2015年、2016年で、難民が欧州に押し寄せた時期でした。私が留学していた大学の体育館が収容施設として使用されていましたし、バス停で話し掛けられたこともありました。日常的に移民、難民の議論に触れていたというのと、私がドイツで関わっていた人たちがみんなどこか別の国にルーツを持っている、すごく移民が多い都市だったっていうのもあって、それがやっぱりきっかけですね。

友尻  やっぱり実態が知りたくなったわけですか。興味深いというか、面白いと。

大津  その時はそうですね。もっと知りたいっていう知的好奇心が大きかったと思います。それと並行して、なんでこの研究なんだろうと考えていくと、まだぼんやりですけど、自分の個人的な背景が関わっていると思っています。小さいときに何度か引っ越しや転校を経験していて、自分のアイデンティティや「地元」はどこなのかについて考えることが多かったんです。こういうところも、何か研究につながっているのかなと思ったりもします。

友尻  原体験的なものがあるわけですね。

岡田  友尻先生はどうですか?

友尻  研究を始めたきっかけは、もともと生物が好きだったこともあって、大学で生物学系の学部に入ったことです。私は生物の個体そのものよりも、もっと生物同士の関係や生物と環境の関係のダイナミックな動きに興味があったので、それを扱う生態学の分野を志しました。今どき生態学を学ぶと、必ず野生生物の保全や生物多様性の脅威みたいな話が出てきます。これも原体験かもしれないですけど、私が滋賀県出身で、琵琶湖で釣りをしたような経験があり、「魚を含め身の回りの生物がいなくなるのは嫌やな」みたいなうっすらとした問題意識みたいなのは当時からあったんだと思うんです。だから、徐々に単純に生物が好きっていうところから生物多様性の脅威みたいなところに興味が移りました。生物多様性の脅威って、生息地の改変とか、地球温暖化とかいろいろ挙げられるのですが、そのうちの一つが外来種問題といわれています。これらの脅威の中で外来種問題が個人的に一番興味深かったんです。ある生態系に全く違うところから持ってきた生物を放り込んだときに何が起こるのか、課題意識を持つと同時にシンプルに興味がそそられました。

なぜ「外」から来るのか?:あいまいな内外

岡田 お二人の研究対象はそれぞれ移民と外来魚で、「外」から来ているという意味で共通していると思いますが、なぜ「外」から来るのでしょうか。

大津 経済的背景から、より良い環境を求めてというのが大きな理由かと思います。ドイツ側も高度経済成長期、労働力の確保という観点から外国人労働者をたくさん受け入れていました。

友尻 どこからが「外」なのかみたいな話はありますよね。例えば、移民研究の研究者は、基本的に内と外を国境で区切るものなんですか?その空間スケールみたいなものって、個々の研究者によって異なるスケールで見ていたりするんですか?

大津 どこに焦点を置いているかで違うと思います。例えば、国籍、宗教、民族や文化圏で区切るとか、当事者が自分をどのようにとらえているのかという視点もあると思います。留学していたときには、国籍ではなく、地域や文化によってアイデンティティを形成する人たちともよく議論しました。どこから見るか、どこを視点にその対象を捉えるかで、境界も多様だと思います。

岡田 逆に、外来種問題での内外の線引きはどうされているですか?

友尻 魚を含め生物の場合は、外来というときの内外の線引きは生息域なんですよ。もう少し明確に言うと、生物種が自分たちの力だけで生息域を広げられる限界のことで、生息域の外に人為的に持ち込まれた生物種が外来種っていうことになるんですね。なので、なぜ外から来るのか?と問われると、外来種の定義から言うと、全部「人が持ってくるから」ということになります。

大津 気候変動といった環境変化の要因で新しく入ってくるものは、外来種じゃないんですか?

友尻 外来種の定義に従うと、意図的か非意図的かに関係なく人為的に本来の生息域から新たな生息域に持ち込まれたものが外来種と呼ばれます。なので、例えば地理的条件が変わるような環境変化が起きて、異なる生物が生息する川がつながってしまい、それらの行き来ができるようになったとしても外来種とは呼ばれないと思います。
ただ、ここで従っている外来種の定義には、実は恣意的な側面があったりもします。この辺のことは、それこそ移民の研究してる人などと議論できたら面白いだろうなとは以前から思っていました。例えば、環境省が定める日本の外来種は「明治期以降に持ち込まれた生物種」に関してのみ外来種と呼ぶことになっています。実は、日本でおなじみの生物であるモンシロチョウやスズメなんかは、はるか昔に人間とともに大陸から日本に入り込んだ可能性が高いと言われています。だけど、日本の環境省が定める外来種の定義では外来種にはならないんです。これってかなり恣意的な定義ですよね。長らく市民権を得ているから問題ないのか?影響がないから良くて、影響があると悪いのか?外来種というものをいかに定義するかはまだ議論に余地があって、今後も考え続ける必要があると個人的には思っています。移民問題も多分、そういった論点があると思うんですよ。移民か移民じゃないかの線引きとか、あるいは、移民じゃないとされてる人たちは均質な属性の人たちとして認識してよいのかみたいな。そのあたりは、移民研究の研究者の中でなにか議論があるのでしょうか?

大津 確かに、ずっとドイツでは移民はいないっていう態度を政府は取ってきました。ドイツは血統主義だったので、基本的に国籍で見て、外国人かドイツ人かっていう判断をしていました。しかし、これだけ外国にルーツを持つ人が、日常にあふれてくる中で、連邦統計局によって「移民の背景を持つ人」という新しい定義が2005年に作られました。主に2~3世までを指すのですが、移民はいつまで移民は移民なんだっていう議論もあります。やはり言葉で定義して政策を進めていく以上、その言葉に万人が満足することは難しいと思うんです。一方で概念化する意義も確かにあるんですが。

友尻 何世まで移民かみたいな話は難しいですよね。以前、超域で研究内容を紹介させていただいた際に、ある先生から「タイでは外来種が入ってくることによって懐かしい風景が変わってしまうことに対して、どういう意識がありますか?」という質問をいただきましたけど、古い外来魚だったら、もう50年、60年前に持ち込まれていたりするんです。だからもう今の若者世代にとっては外来魚も懐かしい風景の一部なんですよね。それでも外来種として何らかの対処をすべきかというのは、とても難しい問題です。外来種は基本的に駆除するべきという人もいれば、侵略的であれば駆除するべきという考えの人もいます。では、誰にとって侵略的なんですかって話でもあります。

岡田 移民問題にも同じような議論がありますよね。医者や弁護士のような国家資格がいる専門職の人などは好んで受け入れよう、一方で、いわゆる単純労働者たちは追い出そうみたいな意思が働きやすい。

大津 すごく顕著なのは季節労働者。必要なときだけに来てもらって、時期が来たら戻って、また来てもらってというような形は戦前からみられることです。

研究の大変さ:様々な葛藤

岡田 研究活動の中での大変さには、どのようなものがありますか?

友尻 いろんなレベルのものがありますよね。私の場合、労力で言うとやはりフィールドでの調査が一番大変です。泥臭い調査だと、サンプル採集ではドロドロに濁った川に頭まで漬かって魚を捕ったりするわけです。これは体力的にも精神的にもかなりしんどいです。あと聞き取り調査では、タイ語の習得も大変でした。
もう少し全体的な意味での大変さだと、個人研究として学際的なアプローチをとるのは大変でした。外来種問題含め環境問題に取り組む時、研究は課題駆動型になります。これは、「ある研究領域が専門だからその枠組の中で研究します」ではなく、「ある課題が存在するから、それに関連するあれもこれも調べないといけない」という組み立て方です。私が想定していた以上に、自分の専門と全く異なる分野の勉強もしなければいけなかったのがとても大変でした。

タイで調査中の友尻先生

 

 

岡田 大津さんはどうですか?センシティブなテーマがゆえの苦労、とかはありますか?

大津 ここまで踏み込んでいいのかな、というときもあります。聞き方には配慮していますね。

岡田 なるほど。やればやるほど苦しいとか難しいっていうのはありますか?

大津 いろんなものが見えてくる苦しさや難しさはあります。現場の声や政策担当者の考えなど、異なる視点から調査を進めていくなかで、問題の複雑性というのが浮かび上がってきたり。政策的、あるいは理念的なところと、当事者たちの意識の乖離に触れると、その問題のもっと深いところまでずぶずぶと入っていってしまうようなところがあります。

友尻 研究者の立場だからこそ、もどかしいみたいなことは結構ないですか?研究者ってなにもできない立場だなと。外来種問題を含む生物の保全分野では、例えば論文の考察でよく「この研究は将来の保全課題の解決に寄与するものである」みたいなこと言うんです。でもずっと言っているけど、なかなか研究成果が社会実装につながらない。そういう時に研究者ってなんのためにいるのかなって思ってしまいます。きっと社会だけの問題でもなければ研究者だけの問題でもなくて、その間をつなぐインターフェース的な機能を持ったポジションが必要なんだろうなとは思ったりはするんです。でも、現状そういう人ってほとんどいなくて。研究者としてはやれることが限られているじゃないですか。だから、そういったもどかしさみたいなものって大津さんもあるのかなと。
でも、人文社会系の研究者の場合はどうなのかが、私にはあんまりイメージできてなくて。私のような生物系の研究者よりも政策に絡みやすいものなのかな、とも想像したりします。その辺、実際のところどうなんでしょうか?あるいは、大津さんの中で、研究者はここまでしかするべきじゃないみたいなのはありますか?

大津 研究者っていう立場では現状を変えられないとか、それでも変えていきたいという葛藤があって、行政・政策関係のほうに行けばそれができるんじゃないかって思いますよね。でも実際に、実践の場に行ったら研究者として持っていた情熱や信念を貫けるのか、というと、その立場によって色々なしがらみが発生し、考え方が変わってしまうこともあると思うんですよね。なので、さっきおっしゃっていたように、つなぐ役割って重要だなっていうのは私も常々感じています。

友尻 思いますよね。超域的であってほしいですよね。

研究の楽しさ:対象地域が好き!

岡田 研究の楽しさや、やっていて良かったことはありますか?

大津 この問題に対する興味だったり関心だったりとか、その他にも調査に協力してくださる方々とのつながりとかですね。私、ドイツが好きなんです。

友尻 いいですね。それはめちゃくちゃいいことやと思います。

岡田 友尻先生はどうですか?

友尻 大津さんにとても共感します、私も調査地のタイが好きです。めちゃくちゃ面白い地域なので。ただ、研究していて楽しいなっていうのはあるんですけど、やっていて良かったと思うことは長いことなかったです。
研究って長く続けていると、色々な感動や共感、違和感などの「発見」が自分の中で当たり前になってくるじゃないですか。ですが、いろんなところで研究の話をするような機会をもらい始めてから、面白がって聞いてくれる人が意外といることに気づいて。そういうのを見ると、この研究をやっていて良かったなって思う時はあります。自分の研究に一般の人の興味を引くところってあまりないと思い込んでいたんですけど、意外とあるんだなっていうのは気付きだせると嬉しいです。本来の研究の目的じゃないですけど、やっていて良かったって思うようなことは、結構そういった小さいところに多いかもしれない。

大津 確かに、他者からの評価っていうのは、自分の中の満足感、この研究をやっていて良かったという感情を引き出すと思います。自分が話すことで議論が盛り上がり、広がっていくときもやっていて良かったって思います。あと、根本はドイツに行くことや、ドイツ語を使うこと、ドイツの人達と会うことが研究の楽しさにつながっています。

大津さんのフィールドであるドイツの景色

なぜ超域へ来たのか?:学際性を求めて

岡田 お二人が超域に来ることになった、きっかけを教えてください

大津 私は、移民研究自体が学際的な研究、超域的研究だと思っていたので、超域で学びたいなって思ったからです。また、課題解決という側面も意識しているので、学際的な視点から移民問題を捉えていきたいっていう思いもありました。

岡田 具体的に移民研究には、どういった分野が関連するんですか?

大津 人類学や社会学、法学、経済や歴史など、本当にさまざまな分野です。

インタビュイーの大津さん

 

 

岡田 友尻先生はどうして超域に来られたんですか?

友尻 私がここに来たきっかけは、大学院の先輩にあたる渕上先生(現・工学研究科附属 フューチャーイノベーションセンター 特任助教)が紹介してくださったことです。でも、もちろんそれだけで選んだわけではなくて、魅力を感じたので超域に来ました。それは、学際的な実践をしている人が沢山いるという魅力です。
大学院時代、私は比較的、学際的な研究をしてきたつもりです。ですが自分の研究も含め、「学際的」といわれる研究って、ある研究に複数の分野の視点があるとか、あるプロジェクトに複数の領域の専門性を持つ研究者が入っているとか、多くがマルチディシプリナリーなものだと思うんです。でも、「複数の専門領域からのアプローチ」だけじゃなくて、もっと「領域融合的な研究」があると良いと思うんです。現在のように学問分野が細分化されてしまっている状態では、ある専門性を持った人たちの中で議論し適宜づけられていることに対して専門外から意見することは非常に難しい。学際的といわれる研究の中で、本当に研究領域の枠を超えたディスカッションができている研究はどのくらいあるでしょうか。少なくとも、自分のこれまでの研究ではできていなかったと思っています。そういうマルチディシプリナリーからインターディシプリナリー(融合的な研究)を目指すときにどういった工夫が必要なのかみたいな点で個人的に悩んでいたこともあり、学際的な組織に一度行ってみたいなと思っていました。ちょうど超域がそういう実践をされているところだと知って、何か面白いものが見られたらいいなと思ったのが一番の理由ですかね。

超域で何を学んだのか?:人と出会う、技術を学ぶ

岡田 超域で学んだことで、自身の研究にフィードバック出来るような事はありましたか?

大津 例えば、システム思考(超域で開講されているシステム思考という分析手法を用い課題構造を俯瞰する授業)で学んだツールを用いて自分の研究課題を見直してみる、という手法のフィードバックがありました。それから、超域では異なる専門分野の教員・学生と一緒に学びます。分野の違う人たちに自分の研究を話す時に重要なのは、まず「誤解がないように伝えること」ですので、そういう意味では言葉の使い方も意識するようになりました。言葉に関しては学際的な研究を進めていく上でこれから先も必要になると思いますので、「超域という場にいること」自体が学びだという意識はありますね。

友尻 私は日常での学びだと、同じ超域の教員である友枝先生と平田先生と教員室が同じなのでよくお話をするんですが、その中身がとても面白くて勉強になったりします。それぞれのご専門が、友枝先生は社会学、平田先生は工学です。超域では教員と学生さんたちも含めて、今までほとんど接することがなかった異分野の人たちが身の回りにいます。そういう人たちと話したり議論することで、今まで意識できていなかった異分野間での共通性と特異性が明確になってきました。これは超域で学んだことだと思います。

大津 それ、すごく分かります!私も授業内外での学生同士の議論や先生方からのフィードバック、「超域への扉」での研究紹介を聞いたりする時に、それぞれ全然分野も思考も違うけど、私の研究対象である移民のことや、ドイツの事象と近いなって思う点も多々あって面白いなと思っています。

友尻 個人的には共通性が見いだせたときのほうが面白いかもしれないですね。例えば、平田先生と「アカデミアがもっと、こんなふうに発展していったらいいのに」みたいな話とか、研究成果のアウトプットの在り方だとか、あるいは研究者のキャリアだとかの話をすることがあります。そういう話をしている時に、専門分野はお互い全く違うけれども、本当にそうですよねって共感する事が結構ある。超域では周りにいる人たちの専門分野が自分と違い過ぎるからこそ、現代社会において専門領域を問わずに求められる本質的に重要なことを意識的に学べる場になっているのだと思います。
あと、広い意味で同じ理系の研究分野でも、専門分野によって色々と異なる傾向があるので、そこからの学びですね。例えば私の専門である生物の保全ってNGOや国際機関が頑張っている分野なんですけど、なかなか大きなインパクトを生むのは難しいです。なので今後はもっとビジネスベースでマネタイズするような方法も探った方が、社会的なインパクトは大きくなるんじゃないかって個人的には思っています。そういった時に、工学の研究者の考え方が参考になります。例えばですけど、工学系の研究だと成果がお金に直結することも多いじゃないですか。どう企業を巻き込んでいくかとかもそうだし、コラボレーションの在り方や、知財化、ベンチャー化などのノウハウや事例が身近にある。勝手な推測ですが、工学系の人のほうが研究室内のチームワークもしっかりしているんじゃないかな。生物系ももちろん研究室がありますけど、研究室内をみると個人プレーが多いような気がします。そういうちょっとした違いを見つけて、勝手に勉強している感じですかね。

大津 あと、理系分野の方々の発表を見た時に思ったんですが、パワーポイントのスライドの作り方は勉強になります。

友尻 それはめちゃくちゃ分かりますね。私は逆にレジュメの作り方を学ぶことが多いです。僕は理系でパワポは比較的強い方だと思うのですが、文章だけで表現するのは苦手なんです。文章もいろんなパターンがあるじゃないですか。そういうところは文系の人のレジュメとか見せてもらうと、めちゃくちゃ勉強になります。

最後に

岡田 それでは皆さんから、最後に一言ずつお願いします。

大津 友尻先生の今日のお話に関してなんですけど、個人的な関心で聞きたいところがすごく沢山ありました。先生の外来魚の研究と、私の移民の研究の間には客観的にも似た部分があるから、今回こういう場を設定して頂けたんだと思います。ですがその「似た部分」の中にも、共通点とその特異性っていう違いがあったりして、あらためて考えさせられることだらけでした。

友尻 今回は「外から来るもの」というテーマでしたけど、これは、もっと沢山の人を巻き込めそうな面白いテーマだと思いました。大津さんの研究についても、まだまだ知りたいことも突っ込んで聞きたいこともあるし、私の研究に参考になるようなことも沢山あるんだろうなと思うので、また議論する機会があるといいですね。

岡田 これにてインタビュー終わらせていただきます。ありがとうございました。

インタビュー風景。左から友尻先生、岡田、大津さん