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プログラム特任助教高田 佳奈Takada Kana

専門分野
芸術学、デザイン学、文化人類学
担当業務
広報
担当授業
デザイン思考
研究関心
民族芸術と観光の関係性、モノの価値と「美」の体系について

研究紹介

私の研究テーマは、人間が創り出す芸術的表現(一般的に「アート」と呼ばれているモノ)について、理論や技術、歴史などを文化人類学的見地から調査を行い、アートと人々の関係性、社会の記憶や文化資源の在り方を探っていくことです。

特に民族芸術と観光・お土産品との関わりについて考察し、様々なモノの「真正性(authenticity)」や「美」の要因を分析しています。民族芸術とはその土地の民族が制作するモノで、今日では装飾品や調度品として扱われるとともに、観光土産品としても制作・販売されています。民族芸術は元々日常生活品や儀礼用品を含む民具でしたが、主に西洋の先進諸国におけるアートワールドの視点が入ることにより「高尚な芸術品」という社会的価値が付与されてきました。この価値の変化がどのように起こったのか、変化の過程でどのような問題があったのかを美術史と人類学の文脈から経緯を追って民族芸術を再考しています。

現在、民族芸術品はその土地の民族自身が制作するものの他に、工場での大量生産による規格品が数多く出回っています。これらは近代における産物であり芸術品とは呼ばれず、工業製品や実用的大量生産品という枠組みで見られることになります。そのためこれらのモノには本来的には真正性が存在しません。
ただ、土地を訪れた観光客は観光体験とそのお土産品に真正性を求めることが多く、真正性をどのように補完するかという課題が発生します。そこでその補完を担うのがデザインです。

ところが、ここでも新たな問題点が表出してきます。それは模倣と知的財産権の諸問題です。土地の者が制作する図像やモチーフといったデザインが許可なく第三者に模倣され、大量生産されて安価に販売されることにより、知的財産権が脅かされる事態が起こります。同時に、制作したモノを販売することによって生活を成り立たせている土地の人間にとっては、模倣されることは経済的困難をもたらすことに他ならず、大変な弊害が及ぼされる事態になってしまいます。「アートは模写から入り、模倣は必要なプロセスである」と言われますが、模造品(偽造品)はそれとはまったく異なります。私が調査を行なっているアメリカ合衆国における現行の知的財産法では、個人の権利に基づいたもののみが保護対象となっており、民族の伝統的知識としてのデザインや形といったものは保護されないという問題点があります。この難題に対応するため、部族の中で調査や消費者教育を行ったり、アートショーを自ら企画・開催したり、コピーライトの刻印を押したり、真正性を保障するカードを品物と一緒に渡すなど、個人的権利に則った側面から対策を講じています。このように多くの課題を抱えつつも私たちの身近に存在する民族芸術品の展望を追っていくことで、アートというものがあらゆる境界線を超えコミュニケーションに似た文化伝達を行う装置として機能し、人々との持続的な関係性構築を可能にするという提案を行なっていくことを目指しています。

私にとっての超域とは?

私自身これまで様々な分野に関わってきました。自分とは関わりがないと思い込んでいた沢山の分野は非常に面白く知的好奇心をかきたてられます。私たちの日常は探究活動そのものです。専門性を持ち、それに特化することは重要なことです。しかし、その「区分け」を越えて活動していくことも同じくらいに不可欠なことなのだと考えています。辞書的に「超域」とは、「専門分野の垣根を超えて独創的な教育環境を構築すること」とあります。専門知を融合させ新たな知の体系を構築し、そこから社会の様々な問題や課題に対する解決策を積極的に提案していくことはもちろん、何よりも様々な分野を楽しむことが一番だと思っています。

超域生へのメッセージ

私はこれまで様々な形でアートと呼ばれるモノに関わってきました。アートというと、「高尚なもの」「近寄り難く自分の生活には関わりのないもの」と思われてしまうことも少なくありません。しかし、実際には非常に身近なもので、私たち一人一人が毎日関わりを持っているものです。例えば私たちが毎日身につける衣服、研究をするために必要な書籍やコンピュータ、机や椅子、ありとあらゆるものがアートと関わっています。表現活動というものは、人間の本質的な活動で、限られた人々だけのものではありません。

一つの分野を知っているだけではもはや強みを出すことができない時代になってきています。どのような分野と分野を融合すると新しい技術が生み出されるのか最初から予見することは容易ではありません。だからこそ色々な分野に関わり、興味を持ってほしいと思っています。ぜひ「超域」を楽しんでください。