Career path修了生インタビュー

稲富(今井) 桃子

出身研究科
理学研究科
専門分野・領域
基礎生物学(進化生物学、行動学、発生学)
現在の所属・役割
ロート製薬株式会社
キーワード
進化生物学、行動学、昆虫、素材開発、読書

2018年度修了生

稲富

博士人材として社会に出ることについて、大学院での研究内容との関わりや今の仕事を選んだきっかけ、博士人材だからこそ社会に提供できる価値など、感じるところをお聞かせください。

私は現在、日焼け止めなどの基礎化粧品の原料開発や測定技術開発に取り組んでいます。分野としては、化学系の業務となります。就職先は様々な分野の研究・製品開発を行っているため、将来的に「新しく挑戦したいこと」ができたときに選択肢が豊富だと考え、入社を決めました。
大学院時代では、「昆虫の交尾体位と生殖器の進化」というザ・基礎生物学研究に没頭していました。そのため、学生時代とは全く異なる領域に飛び込んだことになります。とはいえ、実はそんなに心理的抵抗があったわけではありません。大学院は「専門研究を追求しながら、同時に考え方のトレーニングをする場所でもある」と考えており、そこで身についた能力は様々な領域で生かすことができるはずだ、という思いがあったためです。

その考えは社会人となった今でも生きており、将来希望するキャリアパスにも影響しています。現在は「新しいビジネスにつながる技術シーズを探す基礎研究」に従事しているものの、将来的には研究だけではなく、例えばマーケティング等の異なる分野の業務にも携わりたいと考えています。博士課程、そして超域プログラムで培った思考法は、研究だけでなく広範な活躍場所があると感じています。

大学院生活とその後のキャリアパスに対して超域プログラムが果たす役割について、超域での学びが就職活動や現在の職務へ与えた影響や、履修によって生まれた新たな視点や考え方などがあれば教えてください。

超域プログラムを履修したきっかけは、「色んな人と関わるのが面白そう」ぐらいの軽い気持ちでした。しかしいざ履修が始まってみると、強烈な個性を持つ超域生たちとの授業は「面白そう」では収まらないほどの刺激とハードさに満ちたものでした。当時はへとへとでしたが、今となっては「この経験は間違いなく自分の糧になった」と断言できます。

超域で学んだことはたくさんありますが、特に役立っているのは、「多面的思考」と「デザイン思考」です。
まず、多面的思考について。超域の授業では、異なる専門分野の学生たちと一緒に一つの課題に取り組むことがほとんどです。その中で「自分とは異なる背景・考え方を持つ人はたくさん存在する」ことを認識し(頭では理解していても、研究室などのコミュニティでは実感が難しいものです)、さらに「その人たちの中でどうやって課題を一緒に解決するか」のトレーニングを積めたのは本当に良かったと思っています。
また、「デザイン思考」は社会人になってもよく求められる能力ですが、それを学生のうちから学んで実践する機会を得ることは大変貴重だったと感じています。残念ながら、まだデザイン思考を使いこなせてはおらず、「知っている」と「使いこなせる」の間には大きな壁があることを感じています。しかし同様に「知っている」と「これから知る」の間にも大きな壁があります。そのハードルを社会人になる前に知ったことはアドバンテージになっていると感じています。

超域から受けた影響で、特に大きなものは2つです。
一つは、キャリア志向について。本来はアカデミア一本志望だったのですが、超域での授業や経験、また履修生を含む様々な人との関わりを経るうちに、企業で働くことも楽しそうだと思えてきました。中でも印象に残っている授業が「グローバルエクスプローラ」です。これは「任意の海外機関に2-3週間訪問する」というもので、私はシカゴ大学の進化生物学で有名な研究室に滞在しました。その際、現地の日本人の方に産学含めた様々な方をご紹介いただきました。そこで企業からの出向者の方にもお会いし、初めて「企業所属でも、様々な場所で色んなことができるんだ!」と気付きました。その後紆余曲折あり、最終的に企業就職の進路を取ったので、この経験は自分にとってのターニングポイントになりました。

もう一つの影響は物事の考え方についてで、「前例がないなら自分が前例になればいい」と思えるようになったことです。どちらかといえば元からそのタイプではあったのですが、超域では自分よりもさらに“ぶっとんだ履修生”が多かったため、「自分がやりたいことのハードルは、実はそんなに高くないな」と感じることが増えた気がします。

日々研究に励みこれから社会へ飛び立つ超域生に一言お願いします!

超域で「考え方も専門も性格も全く違うメンバーに揉まれる経験」は、その時は大変かもしれませんが、絶対に後で活きてきます。それは、あなたを間違いなく成長させ、苦しいときにあなたを助けてくれる宝物になります。
また、この経験はあなたの視野も広げてくれます。普段の研究室生活だけでは関わることのない人々(教員、関係者の方々、そして履修生たち)と接するうちに、純粋な知識量・幅だけでなく物事の考え方まで、今までの自分よりも高い視座で捉えるようになっていることに気付くと思います。

(2022年3月)