Career path修了生インタビュー

下 剛典

出身研究科
薬学研究科
専門分野・領域
核酸化学、分子生物学
人工修飾核酸を導入した核酸医薬品によるRNAスプライシング制御に関する研究
現在の所属・役割
中外製薬株式会社 研究本部 創薬基盤研究部 発生工学G
創薬プラットフォームの開発および新規薬剤のアイデアクリエーション
キーワード
発生工学、分子生物学、
ワークライフバランス(海釣り、バンド活動)

2017年度修了生

博士人材として社会に出ることについて、大学院での研究内容との関わりや今の仕事を選んだきっかけ、博士人材だからこそ社会に提供できる価値など、感じるところをお聞かせください。

 現在は製薬企業に勤務し、創薬の基盤技術開発を担う部署で仕事をしています。現職における専門領域と大学院時代に修めた専門領域は大きく異なっています。以下の経緯で、新しい研究領域に挑戦することにしました。
 以降の設問でもキャリア志向の変化について回答しておりますが、博士課程在籍中、超域イノベーションプログラムにおける様々な経験を通じて研究者としてのキャリアを継続したいと考えるに至りました。そして、当時所属していた薬学研究科における研究テーマを継続するべくキャリアを選択しようと、当初考えていました。しかし、講義(超域イノベーション実践)にて提供いただいた資金を活用してアルバータ大学医学部に研究留学した際に、キャリア志向が変化しました。留学先は自身の専門とは異なる分野を専門としていたのですが、異分野融合による新たな価値創出を達成することができ、面白さややりがいを感じたのです。将来、自分自身の研究力を一層向上させるためにも、異分野において広範な専門性を獲得した上で優れた研究を遂行したいと考えるようになり、結果、自身の専門性と大きく異なる強みを有した現所属先で研究に従事することを決めました。
 現在の職場では多くの博士人材が活躍し、創薬開発を通じて社会に貢献しています。日常的に様々なバックグラウンドを有した研究者と綿密に協力しながら大規模なプロジェクトを推進していく、やりがいのある仕事です。協働には、高度な専門性は勿論、ネットワーキング力や思考力、リーディング力が必要不可欠だと感じています。超域を通じて専門研究にプラスする形で様々な挑戦をする機会に恵まれました。これらを通じて専門力以外の総合的な能力の底上げもできた点は私自身の財産だと考えています。

大学院生活とその後のキャリアパスに対して超域プログラムが果たす役割について、超域での学びが就職活動や現在の職務へ与えた影響や、履修によって生まれた新たな視点や考え方などがあれば教えてください。

 超域プログラムを履修したきっかけは、元々専門分野以外への興味関心が広かったこと、指導教授の薦めがあったことなどが挙げられます。
 超域プログラムを履修する過程でキャリアの志向に大きな変化がありました。大学院に入学した当初は行政の立場から創薬活動を推進することに興味を有していました。そこで、超域で受けられる講義や資金(海外プレインターンシップや独創的教育研究)を活用して、海外の行政機関を中心にインターンシップ活動に挑戦しました。具体的には創薬を後押しする諸外国の地方行政やバイオクラスターを中心に訪問して活動しました。沢山の学びがあった中、重要な気付きとして現場で活躍する方々の多くがアカデミアや製薬企業にて第一線で研究を究めた博士人材であったこと、またセカンドキャリアとして行政にて活躍していたことが挙げられます。これを受けて私自身のキャリアパスとしても、第一に製薬企業の研究員として研究を究めたいと考えるに至り、現職を選択しました。
 その他、超域の講義で強く印象に残っているのは、海外フィールドスタディです。この講義では履修生5名と共に、南太平洋地域で2週間に渡る調査活動を実施しました。滞在期間のうち1週間はクック諸島マンガイア島の現地家庭に単身ホームステイしました。ホームステイ期間中の一日の生活と言えば、家畜の世話(野生のヤシの実をナタで割り豚に与える)、海で魚を獲り、自作したタロイモやバナナを収穫して食事するといった内容でした。都会で育ち、大学院で日々創薬研究に励んでいただけの私のスキルは現地の生活においてほとんど役に立たず、とても虚しい気持ちになりました。更に追い打ちをかけた体験として、余暇の時間に島民に対して自分自身を表現する術(例えば、楽器の演奏や特技を披露するなど)を十分に持ち合わせていないことに気が付いた点です。この体験は私自身の生き方を根本から見直す契機となりました。現在の勤務先は、ワークライフバランスをとても重視しています。研究者として世界トップレベルの研究成果を出すべく努力することに加え、余暇を活用してできる限り新しいことに挑戦しています。研究者ではない、私自身をどのように自己表現できるかは、私の生涯の課題です。

日々研究に励みこれから社会へ飛び立つ超域生に一言お願いします!

 専門研究に並行して超域に参加することは非常にタフな選択だと思いますが、超域で経験した事柄は成功も失敗も含めて、貴重な学びの機会でした。ぜひ体力の続く限り積極的に挑戦し続けてください。
 また、超域の活動を通じて知り合った同窓生との繋がりはとても貴重なものだと実感しています。実際、修了後も超域を通じて知り合った方々からは日常的に多くの刺激を受けています。仲間を大切にしながら充実した大学院生活を過ごして頂ければと思います。

(2021年02月)