Texted by 大阪大学大学院工学研究科(超域2016年度生)桐村 誠

 2016年3月30日から2日間に渡り、超域イノベーション博士課程プログラムのオリエンテーション合宿が開催されました。このレポートでは、今年から超域プログラムの履修を開始する5期生の僕がこの合宿を通して感じたことを報告します。

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 合宿1日目は超域プログラム担当教員の紹介やマナー講習など、盛り沢山なスケジュールでした。その中で印象的だったのは、フューチャーリーダーズ・フォーラム(注)と3期生によるワークショップです。

 フューチャーリーダーズ・フォーラムでは、日立製作所 人財統括本部人事勤労本部 兼 ダイバーシティ推進センタ長の田宮直彦氏から、「日立が今、求める人材像」という演題で講演をして頂きました。田宮氏は、講演の中で「大学博士に望むこと」として、いくつかの要素を挙げられました。その中で僕が気になったのは、「広い視野・高い教養」「複雑で相反する現象、物事のトレードオフを考え解決していく」というものでした。この二つはまさに超域プログラムが養成しようとしている「高い専門力」と「専門を統合する汎用力」から成る超域力と一致すると感じました。すなわち、日立のような日本を代表とする企業が超域力を備えた人材を必要としていることを知り、超域プログラムの履修に対するモチベーションをさらに上げることができました。

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 夕食後には3期生の学生企画で、教職員や他学年の履修生との交流のためのワークショップが行われました。ワークショップに関する事前の連絡に「これなら熱く語れる、という本を持参すること」とあったのですが、本を普段あまり読まない僕はそもそも紹介できそうな本が漫画や雑書ばかりであったため、「これでは不味いかな」と不安になりました。結局、僕は人生で唯一読んだことのある自己啓発本で、僕が何かに迷った時に読むようにしている“ニーチェの言葉(白鳥晴彦訳, Discover, 2010年)”を持参しました。ワークショップの内容は書評対決で、本の紹介を通して先輩や教員との交流を図ることができました。自分が持ってきた本を堂々と説明する先輩方、面白くユーモアを持って説明する教員や事務職員の方々を見ることができました。人前での発表が苦手な僕にとって、自分にないものを持っている先輩方を尊敬すると同時に、自分もあんな風に堂々と話せる人になりたいと感じました。ただ、自分の尊敬できる人が周りに多くいるという状況は、自分が成長する上で最も恵まれた環境といえると思います。周囲の能力の高さに対して卑屈になるのではなく、食らいついていくつもりで、これから頑張っていこうと決心できました。 

 一日目の最後には交流会もありました。交流会では、たくさんの先輩や教職員とフランクに話すことができました。それまでの超域の先輩方に対する印象は真面目でかっこいいイメージが強かったのですが、交流会では先輩方の親しみやすい素顔や、苦楽を共にした同期生間の気安い雰囲気を垣間見ることが出来ました。またここでは、3月6日から7日の2日間に渡り行われた選抜二次試験以降、これまで会う機会がなかった他の同期の学生と、超域に入った感想やこれから超域の履修が始まる生活に対する不安と希望などを語り合うことができました。この交流会を通じて、これから互いに協力し、時にはぶつかり合うこともあるだろう仲間たちと交流できたことは非常に良かったです。超域の授業では、学生同士で議論することや、共同作業をすることが多いので、そういった今後の活動を円滑に進める上で非常に有意義な機会でありました。

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 超域プログラムでは、夏季休暇を利用した集中語学研修や、海外フィールド・スタディと呼ばれる海外で実施される授業があります。さらに、博士後期課程になると海外での活動など簡単にはできない経験をすることができます。二日目はそれらを経験した先輩方の報告会が行われました。

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 集中語学研修についての報告を行った4期生(2015年度生)の小林勇輝先輩は、研修先の学校での授業の様子や、留学先での日本語の使われ方の面白さを通して留学の楽しさを説明していました。僕たち5期生(2016年度生)の多くは、今年の夏にカナダのバンクーバーに集中語学研修に行く予定となっています。正直なところ、僕は英語の能力に自信がないため集中語学研修に対して不安が多かったのですが、先輩が充実した研修体験を生き生きと発表されているのを聞いて、海外から見た日本を知る機会にもなるのではないかと期待を持つことができました。ひとは海外に行った際、その国の文化や習慣に注目しがちです。しかし、超域生にとって重要なことは、その海外から見た日本の姿であると僕は思います。超域プログラムでは、「超えるべき8つの境界」として示されている中に“国境を超える”があります。この部分では、個人のグローバル化に目を向けられていますが、日本という国自体がグローバル化することも重要です。そして、グローバル化のためには自国だけでグローバル化について考えるのではなく、世界の国々との比較が必須です。その手段としては、海外から日本を見ること、より的確に言うと、海外の文化や習慣を感じたうえで日本を見つめることが挙げられます。今年度参加することになる集中語学研修では、研修先の学生や人々と議論することで、海外から見た日本の姿にも注目したいと思います。また、超域プログラムの登竜門とも言われる海外フィールド・スタディの報告会では、スリランカとマーシャル諸島を訪れた4期生がグループごとに、事前調査で調べた情報や訪問前のイメージと、現地で見て経験した事との間のギャップに驚いたことを発表していました。また後日、東ティモールに行った3期生の先輩に話を聞いたところ、“海外フィールド・スタディでは幸福というものを改めて考えさせられ、裕福であることと幸福であることは必ずしも一致しないことが分かり、人生観が覆されるいい経験となった”と言っていました。僕たち5期生も海外フィールド・スタディを通して、このような経験ができることを期待しています。

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 更に、二日目のスケジュールの中で最も印象的であったのは、昨年度に行なわれた課外活動の報告です。超域プログラムのカリキュラムを構成するひとつ、「超域イノベーション・アクティビティ」には、学生の自主性を尊重し、超域生が取り組みたい活動を自ら立案して実施できる枠組みもあります。その中で、3期生(2014年度生)の先輩方は「旧共産主義国ロシアから学ぶ世界の構図と社会大変革の実態」という題目で、超域生を対象としたロシアにおける研修を企画し実施するという活動を行われました。最も印象的だったのは、先輩が発表の際「これが超域なんだ」と言っていたことです。“これ”とは何なのか、今回の報告を聞いただけでは完全には分かりませんでした。ただこの言葉を聞いて、自分で何が超域なのかを考え、「これが超域なんだ」と自分で自信をもって言える活動を主体的にすること自体が「超域」であると痛感しました。「超域とは何か」という質問に対して、具体的な答えは今の僕には有りませんが、超域での活動を通して超域とは何なのかを考え、「これが超域だ」と言える活動に自分も取り組もうと決心しました。

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 二日間に渡るオリエンテーション合宿でしたが、超域生活に対する期待が増すばかりであっという間に終わってしまったというのが僕の印象です。そして、二日目の報告会で見ることができた先輩方のようになれるよう、さらには超えられるよう、超域プログラムの活動に取り組んでいきます。最後は生意気なことを言いましたが、5期生一同、これからよろしくお願いします。