インタビュアー:2014年度生 工学研究科  堀 啓子
2015年度生 人間科学研究科  小林 勇輝
インタビュイー:2014年度生 医学系研究科  澤田 想野


 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。Vol.21の今回は、医学系研究科保健学専攻で地域看護学を研究する澤田想野さんにインタビューを行いました。履修開始から2年という節目を迎える澤田さんが、これまでに考えてきたこと。インタビューでは、保健学専攻という立場だからこそ感じる思いを切り取ることができました。

取材日 2016年2月3日

閉じこもることへの疑問

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インタビュアー 堀:澤田はどうして超域に入ろうと思ったの?

澤田:2年前だからあまり覚えてないけど…。単純に海外に行きたかったってのもあるし、自分が所属している保健学科に慣れてきて、他に何か新しいことができたらと思ったから応募した…はず。保健学科って基本的には看護師とか放射線技師みたいな、医療系の職に就く人が大半なんだけど、そのせいか、どこか内向的なんだよね。カリキュラム上、物理的にも一つの講義室に閉じこもりがちだし。自分は学部時代何かを外へ発信することも、外から何かの刺激を受けることもなく過ごしてきたから、物事を一つの側面からしか見ることができていないような気がしたんだよね。すごく受け身な態度で、与えられたルーティンをこなすだけというか。しかも、一般的な保健学生の道を歩めば、そのまま病院に就職して、社会に出てからも閉鎖的な環境に身を置き続けることになるわけじゃん。そんな時に超域のパンフレットを見て、何か新しいことができそうだなって興味を持ったって感じだと思う。

:閉鎖的な環境っていうのは、具体的にどういうこと?

澤田:保健に限らず医歯薬みたいな専門職になる人が多い分野は、同じような専門の勉強をしてきた人だけが入ってくるから、その意味で閉鎖的ってこと。学部4年間を一緒に学んだ友達と話をするとき、たまに思うんだけど、バックグランウンドが同じ人とは、問題を把握するときに大体似通った側面から物事を見ていて、そこには新しい価値観とか異なった視点を持つ人が入ってこない。でも、医歯薬の学部はそもそも実社会とは切っても切れない関係で、実際にすごく多くの社会的課題と向き合っている。そこに関わる人がひとつの専門分野に閉じこもっていて、かつ価値観や思考を同じくする人とだけ交流していてもだめなんじゃないかなあ…と本当にぼんやりと思っているんだよね。だから、なんというか、もっと社会に積極的にアプローチして、新しい価値観を取り入れたり、逆に私たちの価値観を周りに知ってもらったりしなきゃいけないんじゃないかって思う。

:学部時代にそういう考えを抱いたんだ。

澤田:そうだね。学部での生活は、受け身だったってのに加えて、みんな“危機感”が薄いように思えたんだ。阪大ってやっぱり偏差値の高い大学だから、社会に出た後にもある程度の地位が約束されてしまって、変化を求めようとしない傾向があるんじゃないかな。保健学科っていう “温室” にいれば安心感は得られるかもしれないけど、何か問題が起きたときに、ほかの分野の人と話さないといけないことも出てくる。そのときに話が通じなかったらどうしようって。

:じゃあ、外にアプローチしようっていうその姿勢は、保健学科の人間としてってこと?

澤田:そうかな。でも一個人として感じる恐怖みたいなものも理由の一つなんだよね。自分の思考パターンって、もちろん幼い時から培ってきたものもあるけど、学部4年間の閉じた専門の世界の中で形成されたものも無視できないと思う。4年間いても学科の子たちとは喧嘩もせずうまくやってこれて、きっとこの子たちも自分もみんな同じ思考の傾向になってきてるんだろうなって。別に自分が穏やかな人間だからとかでもなく、同じ環境で共有された価値観を持ってるから、人生をうまく歩んでるように見えるだけなのかもしれないって思って、学部卒業が近づくにつれて、そのような現状に不安になっていった。

:なるほど。看護師資格がとれる保健学専攻って、多数派はそのまま学部で卒業して病院に就職することになるわけだよね。その中で外に出たいっていう気持ちはいつごろから抱いてたの?

澤田:はっきりとはわからないな。でも超域のパンフレットを見たときに、阪大が総合大学なんだってことに改めて気づかされたんだよね。他学部の人はもちろんいるけど、「他学部の人たちと社会的課題について議論してみよう」なんて考えたことなくて。だからパンフレットを見た時は、他学部の人たちと“言葉” が通じるのかなって気になった。「同じ専門でもないし、友達でもない人」と議論すると、私の価値観や思考は果たして理解されるのかなって。

:そこにはどういう期待があったの?

澤田:きっとそういう場では「私が私であること以外の価値」を提示していかないといけないと思ったんだよね。友達だったら「私」自身を好んで関係を作ってくれるわけだし、同じ専門の人だったら同じバックグラウンドってだけで話が通じる。でも社会って共通点もなく友達でもない人とうまいことやっていかないといけない。そもそも私を理解しようとしてくれるかわからないし、いくら自分が伝えても理解してもらえないかもしれない。そのような環境で、自分に耳を貸してもらえるような価値とか独自性みたいなものを発揮していけるかどうか試してみたくなったかな。

議論する

:なるほどね。他にも超域を魅力的に感じた点ってあった?

澤田:さっきも言ったように海外に行かせてもらえるのはいいなって思ったよ。あとは先生とフランクな関わりを持てそうっていうのもよかった。教育のかたちが指導的じゃないって感じがしたな。

アウェーであること

:超域に対していろいろ期待してたことがあったみたいだけど、超域に入ってから実際どう感じた?

澤田:自分のニーズに合ってるなっていう感覚はあるよ。思っていたような場でよかった。ただ最近感じるのは、履修生同士が少し仲良すぎるってこと。お互いにだんだんと馴染んじゃうものだけど、少し不慣れなくらいの関係性を維持したいなと思うんだよね。なかなか難しいとは思うんだけど、履修開始時に抱いたアウェーな感覚で、各人が試行錯誤しなきゃいけない状態を保持したいっていうか。私は超域に友達でも同じ専門でもないアウェーな場ってのを求めてたから、超域までホームになっちゃうのは良くないかなって思う。ある種のぶつかりあう状態がないと、みんなも燃え上がらないと思うんだよね。

:超域生っていろんな負荷をかけられるし、大変でもあるから、そういう負荷に対して一緒に戦う仲間って思うと戦友みたいな形で仲良くなるのはしょうがないかなとは思うけどね。

澤田:そうだね。けど2年も仲良くしてると,お互い色々わかってきちゃうというか。新鮮さがないというか。まあでも超域をホームとするなら、専攻をアウェーとして戦ってみるのもありかなとは思う。専攻に対して超域的な考え方をアピールするというか。専攻の中だとやっぱり超域みたいな活動に理解のない人も多くて、「忙しいのに何で海外なんて行くの?研究だけしてればいいじゃん」って言われることもよくある。そういう人たちと関わりを持って、専攻の中の異なる考えを持つ人と対話ができたらいいなってことも考えてる。自分みたいに、閉鎖的な生活になんとなく窮屈さを感じてる学部生だっているかもしれないから、そういう子たちにこういう道もあるかもよって知ってもらえたらいいなって。

:アウェーな場を常に探してるってことかな。

澤田:そうだね。自分でアウェーを見つけていく力みたいなのが、超域生には必要かなって思う。敵を作るって言うと語弊があるけど、自分を納得してくれないだろうなってところに飛び込んでいって、その中で自分の専門分野を再定義したり、学んだり…違う世界との関わりはいつも自己反省とがそういうのが絡んできて、それで成長することが多いと思うから。なんというか、不満足な状態でいるってことが大切なんじゃないかなって、超域で2年過ごして思ったりもする。

超域生としての責任

:海外プレ・インターンではどこに行ってたんだっけ?

澤田:ザンビアとウガンダ。

:それは専門の勉強のため?

澤田:えーと、研究とはあんまり関係ないんだけど、私の専門と同じ分野の問題とかを知りたいと思って。あとやっぱりアフリカって日本といろんな面で明確な違いがあると思うから、好奇心からってのもある。自分の好奇心を探求する機会を得られるのもすごく恵まれた環境だと思う。恵まれた環境で学ばせてもらった分、自分が将来どのようなことを、どれだけ返していけるんだろうって考えるんだけど、そんなときはやっぱり、研究科の閉鎖的環境になにかしらの形でアプローチしていけたらいいなって考える…かな。

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:恵まれた環境で学ぶことの責任もちゃんと考えてるんだね。

澤田:そうだね。それに、今は超域っていう恵まれた環境の中で生きていけるけど、社会に出たときに同じ環境が保証されているかといえばそうじゃないと思う。だから、今のうちから自分は何を与えられてきたのかとか、それに対して自分は何を還元できるかとかをしっかり考えて、責任を果たす姿勢を作っていかなきゃいけない気がする。そうしておかないと、長い目で見たときに、後々自分が困ることにもなると思う。
超域って、一学生にも対してもしっかりサポートしてくれるし、先生もよく話聞いてくれて…今まで先生とそんな風に対等な関係になったことがなかったから、それも恵まれていると感じる一つの理由かな……。

“他”への寛容性

:超域に入って成長したなって思うところってどんなとこ?

澤田多様な知識を得たっていうより、他人の見方を知ることができたという意味で、成長したと思う。この人たちはこういう考え方なんだっていうのを、複数の視点から理解することができるようになったかな。バックグラウンドが違えば考え方も大きく違うから、意見が対立したときには、相手のバックグラウンドも踏まえたうえでその意見を捉えることができるようになったと思う。一言でいえば、ちょっと寛大になったって感じ。

:他の人との考え方の違いを受け入れられるようになったってこと?

澤田:うん。ほーりーも思ったことがあるかもしれないけど、私は時々変わってるって言われるし、他人と価値観が違うなって感じることもある。でも、自分と価値観が違う人であっても、その人のことを理解できるようにはなった。自分がもしその人と同じバックグラウンドなら、そういう意見を持つんだろうなっていう考え方ができるようになったから。超域に入ったばっかりのころは、「この人なんでこんなこと言うんだろう」って思ったりもしたけどね。

:それはすごくわかるな。ちなみに、その変わってるっていうのは、どういうこと?澤田の変なところってどういうところなんだろう。

澤田:この質問、保健室の悩み相談みたい…。(笑) うーん。どこが変なのかって言われると自分ではよくわからないけど…。小さい時から何か回答を求められたときに、期待に応えて無難にやり過ごす、みたいなのができないってところがあって。相手がどう答えてほしいかはなんとなくわかるし、そう答えておけば場が丸く収まることもわかるんだけど、そこで自分を曲げて、周囲の期待通りにやっとけばいいとは思えないんだよね。こんな自分は幼いし、不器用だなと思うんだけど。でもそもそも、他の人がいちいちそういうこと考えて動いてるのかもわからないし、もう…わからない。

:なるほどね。そういう面があるなってことはこのインタビューでもよくわかったし、まさにそういう姿勢でクリティカルなこと考えていくってのが、超域に求められてることなんじゃないかなって思うよ。

澤田:うまくまとめてくれたね。

 狭い世界に閉じこもることへの疑問から出発し、超域に入った澤田さん。超域で過ごした2年間、彼女は自分の思考を止めることなく、挑戦とその還元ができる場を探し続けていました。その鋭い視点をもって、澤田さんが今後どんな世界で何を成し遂げていくのか、期待が高まるインタビューでした。
超域人は、これからも超域生の等身大の姿を捉え、お伝えしていきます。