インタビュアー:2015年度生 人間科学研究科 小林 勇輝
2013年度生 人間科学研究科 篠塚 友香子
インタビュイー:2015年度生 工学研究科 宮原 浩維

 大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム履修生に、学生視点からインタビューする超域人。今回は、超域4期生(2015年度生)の中から工学研究科の宮原浩維君がインタビューに答えてくれました。超域プログラムに入学して約半年、多様な活動を通して視野が広がると同時に、これまでの自分が揺らぐという経験の只中にいるという宮原君が、この半年で起こった自分の変化について、じっくりと、彼自身の言葉で話してくれました。今回の超域人は初めて、インタビュアー・インタビュイーともに4期生(2015年度生)でお送りします。

取材日 2015年9月15日

間伐材の体系的な生産システム確立を目指して

インタビュアー小林:えーっと、なんか僕が緊張するな(笑)。まずは研究について教えてくれる?

宮原:はい、工学研究科地球総合工学科建築工学コースで建築について勉強しています。建築は三つの分野に分かれていて、デザインや都市計画をする計画系、建物の構造を考える構造系、設備などを考える環境系があります。僕はその中の計画の分野で、間伐材(※1)を使用した建築について研究しています 。

(※1)間伐材とは密集化する木を間引く間伐の過程で発生する木材のこと。近年の日本では、安価の輸入木材に市場を奪われたことで国内の林業が衰退し、 多くの山が放置されるようになった。山が荒れると環境も乱れてしまうので、間伐材を家具や建築の材料として使うことに注目が集まってきた。しかし、間伐材の中には直径が小さく建物に利用しにくいものもあるため、宮原君の指導教員は、間伐材を大きい建築の構造物に使えるように、接合部の改良などを研究して、間伐材の利用促進を目指しているという。

図1

図1:建築工学コースのモデル図(☆印が宮原さんの専門分野の位置するところ)

小林:あ、インタビューだけど、敬語じゃなくても(笑)普段通りで。

宮原:あ、うん。僕は学部の時からデザインと構造の両分野をまたいだ研究に関心があったので、計画の研究室に所属しつつも、元構造分野の教授にも指導してもらっていて、構造の視点を取り入れているって感じかな。つまり、構造系の人たちがやっている専門的な構造計算とかまでは踏み込まずに、少し引いた立場から、そういった研究成果を世の中に流通させていくためにはどうすれば良いのかといったことを考えている。卒業論文は、デザインから組み立てまでを一連の流れとして捉える建築生産という視点から間伐材の建築について書いて、修士課程でも継続してこのテーマに取り組んでるよ。

図2

図2:宮原さん自身の立ち位置

小林:卒論の研究を、これからどう発展させていくの?

宮原:卒論は先生の研究を整理した内容で、知識の習得が中心だったから、修論ではそこに新しく自分の考えを入れていくつもり。例えば、間伐材の建築って雇用促進に繋がるんだ。もともと間伐材の利用って日本の森林環境の改善が目的ではあったんだけど、地元の人でも建設できるようにその組み立て方を簡略化して、生産性を高めるためにはどうしたら良いかという点を取り入れられれば、修論では、建築だけでなく経済や地方創生にも視野を広げていけるかもしれないな、と思ってる。超域の活動も活かしながらね。

小林:外部の構造分野の先生のもとで学んでいて、先生と自分の所属とのスタンスの違いから生まれうる利点ってどういうことになるのか、具体的に教えてもらっていいかな。

宮原:先生は構造が専門なので技術ベースで物事を捉えているんだけど、計画分野の人とも連携しないといけないと考えていて、構造分野は技術を向上させようという部分が中心だから、それを設計の意図をくんで施工したり、効率よく組み立てるといった部分までは考えられないことが多いんだ。そうすると 、設計者から構造の専門家、そして現場の人へのバトンタッチがうまくいかないという問題が出てくる。例えば、デザインの設計者が図面を作成しても、構造のことや現場で組み立てることまでしっかり考えていないと、現場でそのデザインや研究成果は活かされない。僕はそういう分野間のギャップという問題を踏まえたうえで、間伐材の体系的な生産システムを確立させることを目指しているかな。だから、もし計画分野のことしか学んでいなかったら、現場の様子や構造計算のことは分からなかったと思うし、全体的な視点に立つことができているのは良かったかなと思う。

研究と人と社会を繋ぐ「経営者」という将来像

小林:そっか。ところで、将来はどうしようと思っているの?まだ答えにくいかもしれないけれど。

宮原浩維

宮原:うん、まだふわふわしている部分もあるけれど、現在の考えでは、組織の経営者になりたいと思っている。いまの指導教員は自分の研究を基に技術を売るベンチャー企業を立ち上げて 11年目っていう人なんだ。でも、先生ひとりで研究と経営とをしているようなものだから、取り扱うことのできる案件も限られている。だから、僕が先生みたいに自分の研究を活かして何かをする時には、研究者としての立場ではなくて、経営者というか、組織を全体的に見る立場に立ちたいと思っている。その場合でも建築の専門知識は必要なので、博士課程の間は先生から知識を教わって、自分と同じような関心を持つ後輩とも関係を作っておきたい。ということで、ゆくゆくは経営者になりたいんだけど、いまの先生の会社にそのまま所属するのか、別の企業に就職するのか…そこはまだ決めてないかな。

小林:じゃあ指導教員の先生の仕事を発展させるみたいな感じ?

宮原:うーん、指導教員のパートナーというか。いまの指導教員みたいな技術者や研究者同士をつないだり、世の中のニーズと結びつけたり、組織を総合的にみる人というか。将来的には、僕が全体を見ている場所があって、そこに後輩が研究者として入ってくれたら嬉しいかな。

小林:そういったキャリアは昔から考えていたの?

宮原:学部の二回生くらいから、計画と構造の橋渡し的なことをしたい、って気持ちはあったけど、そのころは経営者になりたいと思ったこともなく、ただ世界で一番有名な構造デザインの会社に入りたいなと思っていた。でも、学部の時代の自分の研究や生活を振り返って、自分が本当にできることってなんだろうって考えた時に、修士卒業後すぐに建築の道に進むには知識が足りないな、と思った。学部の時は部活に打ち込んでいたこともあって、研究の時間も制限されていたし。そこで、自分のできることや好きなこと、これまで身につけてきたことを振り返った際に、建築の専門家になるよりも、専門家同士を繋げたり、社会のニーズに応えたりする立場に向いている気がして、 経営者というキャリアを考えはじめるようになった。このキャリアは超域に入ってからより具体的に考えるようになったかも。

小林:なるほど。超域の活動が研究に与えた影響ってある?

宮原:うーん、自分はいままですごく小さい世界で生きてきたところがあって。でも超域に入って、研究というか自分の考え方が変わっていって、研究領域や国をまたいだ視点を持てるようになってきたと思う。建築の分野にいるから建築の道に、という感じで遠回りを避けて生きようとする人も多い気がするけれど、でも、他のことを勉強することは別に遠まわりじゃない。そのことを実感することができたのは、超域に入ったからだと思うし、良かったかな。そして、「ドクター5年間」ではなく「超域5年間」という道を選んだのは、建築の専門家ではなく、その専門性を活かした経営者という道に進むことを応援してくれるプログラムだと思ったから。

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小林:でも、二回生の時点で計画と構造の研究領域を超えた研究をしたいという超域的視点を持っていたのはすごいなと思ったんやけど。その視点があったということが、超域への進学につながったの?

宮原:そうかもしれない。ただ、僕は自分の視野が超域的だったとか、広かったとは思わないな。大学や学科も偏差値で決めた部分があったしね。構造と計画の二分野をまたいだ研究をしたいと考えたのも、はじめ計画分野に興味があった中で、阪大の建築では構造分野が強いと聞いたからだったな。だから、もともと視野が広かったという訳ではないかもしれないけれど、何かあたらしいことをしようとか、領域を超えて行こうって考えがあったことが、超域への進学という選択に繋がったんだとは思う。

恵まれた環境を活かしきれないもどかしさ

小林:ところでちょっと話が変わるんだけど…ミヤって指導教員の会社に住んでるんだよね?

宮原:うん、会社の事務所が築90年ぐらいの大きい民家を改修したもので、一階が事務所で二階がシェアハウスみたいになっていて。そこに建築やっている学生が住んでいて、僕も住まわせてもらっている。だから下の事務所に下りたら指導教員がいる。

小林:それって、現場に近いという感覚?そこに住むメリットというか。

宮原:うーん、そうやな… 仕事の打ち合わせが事務所であったりもするし。先生の人脈も広いし、先生と一緒に工場に行って、学生として紹介してもらったり。色々な人の話を聞いて、自分を知ってもらえるという機会はありがたいなと思う。

小林:すごい特殊だよね、そういうところに住むって。すごい、何て言うか…

宮原:うーん、僕は逆にそういう環境があるのに、それを活かしきれていないのがもどかしいところで。事務所の上に住んで、そういう環境にどっぷりつかって自分のキャリアにつながるいろんなものを吸収できるという利点があるのに、超域が忙しかったりでそれができていなくて。先生も超域に対して理解はしてくれているんだけど、それでもなかなか研究が進まなかったりすると、いまの環境をうまく使わなきゃダメでしょと言われることもある。そこがもったいないなというか。

小林:なるほど。あと聞きたいことがあって…ミヤってすごい自分に厳しいんだなって普段から思うんだけど、自分の性格についてどう考えてる?

宮原:なんだろう、自分に厳しくできているのが、嫌いじゃないというか、それができているときの自分の方が自信を持てているから。それで自分の首を絞めることもあるけれどね。

小林:そういう風に思う理由は?

宮原:僕は小学生1年生のころから剣道をはじめたんだけど、それがもうすごく厳しくて。小学2、3年生で楽しいという感覚がなくなって、基本的にしんどいし、痛い、怖いとか。でも毎日練習に行って、優勝しないと意味がないという文化で育って。その時に、楽しくて一番になることはできないというのを、身を以て経験したというか、楽しいということはまだ追い込めるということだから。しんどい中でやるからこそ、上に近づけるというか。でも昔は、剣道の先生とかがビシバシ言ってくれたんだけど、いまは自分で自分を追い込まないといけない。それが割と大変で、気持ちが落ち込むこともある。でもいままでもそうやって少しずつ前に進めてきたので、自分のこういう性格のお陰かなとも思うし、昔の経験に感謝しているかな。

「誰か/何かのために」自分ができること

小林:いま何か悩んでいることとかある?

宮原:うーん、デザインと構造を両方する人になりたいとか、経営者になりたいとかいういままでの夢って 、結局は自分の自己実現というか、自分が一番活躍できる場所というか、そういう視点で考えてきた。でも最近、そういうスタンスでは一貫した軸を持てないような気がしてきたんだ。今までは「自分のできること」を目標にすることに対して疑問を持ってはこなかったんだけど、最近は新しい環境に身を置くたびに影響されて夢を変えるというのは、すごく情けないというかダサいというか、もっと根っこの部分を持ちたくて。自分の自己実現欲を満たすためじゃなくて、例えばいまの僕の立場だったら、日本の森林問題を解決したくてそのためには経営者として関わらなければいけないといったような、「誰かのために」「何かのために」という部分を見つけたい

小林:自分の「できること」ではなくて、「するべきこと」に駆動されるというか…?

宮原:うーん、漠然としたものでも、例えば「日本のために」とか思えたらいいんだけど。でもまだそういう人生の歩み方をしていないから、難しい部分もあるんだけど。まだ「何のために」という部分が弱くて、やっていることに対して自信が持てないというか。自分本位に考えていても、ついてきてくれる人もいないだろうし。「何かのために」があるからこそ、そこに共感してくれる人が出てくると思うから。 いままで閉じた環境で生きてきた分、自分の価値観が広がる環境に身を置いて「何かのために」を見つけたくて、超域の活動でも東北の野田村(岩手県九戸郡。2015年11月に授業開発の一貫として自主参加型の研修があった。第五部門がサテライトオフィスを有している。)にも行ってみたり、色々な活動に参加している。

野田村

小林:そういう話は自分も身につまされるな…。最後にもう一点、超域プログラムにこれから期待することってある?

宮原:うーん、僕が超域に行きたいなって思ったのは、環境を求めてという部分が大きくて。ただ独学でできることではなくて、人とのつながりからこそ学べるものがあると思うから。人との出会いって簡単には得難いものだし、そこを欲していたんだ。超域に入れば、優秀な人と知り合って、尊敬できる人との交流を通して自分も刺激されると思った。だから、すごく生意気なことを言うようだけど、履修生とはお互い刺激し合える関係を築いていきたい。誰々がいるから僕も頑張ろう、みたいな。

小林:じゃあ人との関わりを重視しているってこと?

宮原:そうだな…それが大きいかな。あとは、そのために自分がやっていかなきゃいけないこととして、ほかの履修生たちに自分が何を与えられるかということを考えないといけないと思ってる。大学を卒業した5年後も繋がっていけるような関係って、人生にプラスになると思っているんだ。でも、そういう関係になるためには、自分から与えるということを考えないといけない。だから、この半年間で、自分が他のメンバーに何を与えられるんだろうというのを考えるようになったかな。それを見つけることで自分のアイデンティティというか存在意義みたいのもできるのかなって。

小林:そっか…なんか、すごい良い話が聞けた。ありがとう。

超域

インタビュイーとインタビュアー共に4期生コンビでお送りした今回の超域人、プログラムの活動を通した環境の変化の中で奮闘する履修生の姿をリアルに映し出すものとなりました。プログラム履修開始から1年弱、今後の活動を通して宮原君は何を感じ取り、どのように成長していくのでしょうか。
超域人は、これからも超域生の等身大の姿を捉え、お伝えしていきます。