Interviewee: 大阪大学大学院 人間科学研究科 大門 大朗(超域 2014年度生)
Interviewer: 大阪大学大学院 工学研究科 井上 裕毅(超域 2012年度生)
Texted BY: 大阪大学大学院 工学研究科 白瀧 浩志(超域 2014年度生)

 超域的研究、第5弾となる今回は大阪大学大学院人間科学研究科に所属する超域3期生(2014年度生)の大門 大朗さんが熱く語ってくれた。大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムでの活動と、履修生が行う独創的な最先端の研究を中心に、彼らが描く未来についてインタビューしていく。

 

被災地のより良い復興を考える

 大地震で被害を受けた人々の声を、実際の復興に繋げるには
どうしたら良いのだろうか?

超域3期生の大門さんは被災からの復興を専門とし、日々このような難題に取り組んでいる。阪神・淡路大震災や東日本大震災を始めとする震災は、多くの死傷者を出し、多くの建造物を破壊した。大震災が与える被害はそれだけではなく、地域が潜在的に抱えていた問題を健在化させている。例えば、東日本大震災によって、地域の過疎化や高齢化がさらに進行し、大きな問題として認識されるようになった。これは日本が今後直面すると予想される社会問題を顕している可能性があり、被災からの復興はこのような地域が抱える社会問題を踏まえた上で、議論されていく事が望まれる。つまり、単純に大震災によって破壊された建造物などを建て直すだけでなく、今後どのような地域を目指して復興していくかというビジョンを地域の被災者と考える必要がある。しかしながら、そのような被災者目線の復興を目指した数多くの努力が行われる一方、被災者間での合意形成に至らず、震災から4年が経つ現在においても、阪神・淡路大震災とくらべ復興はまだまだ進んでいない。大門さんの研究はこのような現状を踏まえて、より良い復興の方法を被災者の視点から考えると共に、お金や物資以外の被害地域への支援方法を考えることに重きを置いた研究である。

 大門さんの日々の研究活動は、主に災害地域のフィールドワーク調査によって行われる。具体的には、月4〜5日の頻度で複数の被災地に出向き、地域間でどのような連携がなされているのか、特に同じ災害で生じた連携ではなく異なる災害がきっかけで生じた被災地間の連携に焦点を当てた研究を行っている。例えば、新潟中越沖地震(2007年7月16日)で被災した刈羽村では、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)、新潟中越地震(2004年10月23日)、東日本大震災(2011年3月11日)での被災者とともに、物産や地域祭の出店者として招きいれ、人的な交流が行われているという。他にも、阪神・淡路大震災が起こった年から20年目の節目である2015年1月17日には、各地の被災された方々を招いての交流会が開かれた。このような交流は「被支援者」が「支援者」になるという相互協力関係が築かれている非常に興味深い活動例である。大門さんは、そのような被災地間の交流現場に実際に赴き、「人」の復興を手伝いながら共に復興を目指す、被災地介入型の研究活動(アクションリサーチ)を行っているそうだ。

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超域で得られるアイディアと新しい出会い

 災害によって引き起こされる問題は一つの分野では決して解決できない。例えば、電気・水道・ガスなどのライフラインの復旧や、住居などの建造物や、人の心身面での復興など、様々な復興の形があることからも自明である。このような現状を踏まえ、大門さんは超域的なアイディアが被災地復興に必要であると考えており、本プログラムが提供する授業において活発な議論の中でアイディアが生まれることが非常に魅力的だったそうだ。加えて超域プログラムに入る事で、様々な人々と出会う機会が多く得られている。例えば海外フィールド・スタディという授業を通して、東ティモールに訪れ、現地の家族との交流の機会を得ることができた。さらに、大企業や行政の方との交流も多く企画されている。このように海外での出会いや国内の多様な機関に所属する方々と知り合えた事は研究だけにとどまらず、新たな挑戦を活発に行いたい大門さんにとって非常に良い影響を与えたそうだ。

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人生が変わった3.11

 「学部生時代のボランティア活動の経験から、災害関連の研究がしたいと思うようになりました」と話す大門さんは、昔から災害地域に興味があった訳ではなく、学部4年生までは大阪大学理学部で生命科学の勉学に励む理系学生であった。しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災後の被災地訪問が彼の人生を大きく変える事となった。
 「震災現場も衝撃でしたが、大阪に帰ってきた後に周りの人は普通に生活を送る一方、現地で暮らす人は非日常が今も続いている。同じ世界にいるはずなのに異世界にいるような感覚を初めて経験しました」。彼はその後、金銭的にも時間的にも限られた資源の中でどのような支援が出来るか考え始めるようになった。例えば、学生間でボランティア活動に関する報告会を主催する、学生の被災地でのボランティアを支援するボランティアセンターを設立するなどの活動に取り組んだ。そして数々の苦労を重ねた結果、大学と学生ボランティアの協力関係を築くことができた。現在では、どうすれば大学と協力関係を維持しつつ、継続的に被災地の支援活動を行う事が出来るか日々考えているそうだ。

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「やってみる事」を大切にする

 現在彼の取り組む活動は、大学生と高校生を繋げる活動(http://kmcollege.jimdo.com/)や日本酒とその文化の普及活動など、研究活動だけに留まらない。酒造ボランティアに関しては、唎酒師の資格も取得し、活動を発展させている。「私の活動を一見すると一貫性が無いように見えますが、社会を良くしたいという想いでいつも行動しています。」そう熱く話す彼が大切にしている事は、『とにかくやってみる事』。実際に活動していく中で、当初は見えなかった関係が初めて見えてくる。そのような関係の中で生まれる、批判やアドバイスを真摯に受け止め、紆余曲折を経た後に、何かしらの成果物まで到達する事が重要だと考えている。このように専門知識と行動力を併せ持つ大門さんが、超域で得た新しい出会いを駆使して、今後ますます活躍していくことだろう。

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