スクールレポート ー超域スクール第4回

「研究における境域の超え方」

~自らの専門を超える事で自らの専門性を高める~

大阪大学未来戦略機構の設置

2012年10月26日、大阪大学吹田キャンパス 理工学図書館 会議室にて、コーディネーターに黒崎 健 氏(大阪大学工学研究科 准教授)と飯島 玲生 氏(大阪大学大学院生命機能研究科一貫制博士課程在籍)、平井 啓 氏(大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室 准教授)を迎え、超域スクールが開催されました。
第4回目となる今回のテーマは「研究における境域の超え方」~自らの専門を超える事で自らの専門性を高める~。学生・社会人を含めた16名が参加し、自らの専門における超域について考察しました。

◆超え方を探るための4つのカタチ

開始に当たって、平井准教授は、これまで3回に亘って開催された超域スクールを振り返って、超域とは自らの専門分野を超えることによって、より専門性を高められることであると説明をした上で、「今回は、実際の大学の研究の上で、どのように超域するかを考えたいと思います」と挨拶しました。
そして「本校大学院での超域イノベーション博士課程プログラムは全研究科を対象にしているので、いろんな分野の大学院生がいます。ですから、研究に関する超域もいろんなカタチがあると思います」と、サトウキビ研究を例に4つの超域のカタチを説明しました。



まず1つ目は、超域で得たノウハウを産学連携に伸展させるという、超域に対して一番イメージしやすいカタチ。従来であれば、サトウキビに特化し徹底的に研究を重ねてきたことを、境域を超えてサトウキビの研究成果をどう市場で展開するか考えるということです。
次に2つ目は、サトウキビの研究で得たノウハウを使ってブドウの研究をしていくという、自らの分野で得た知見を他分野へ応用するカタチ。
3つ目は、ブドウの研究で得たノウハウをサトウキビに活かすという、他分野・他領域から得た知見を自分の分野に導入するカタチです。
そして4つ目は、ブドウでジャムを作るなど、異なる複数の分野のノウハウを統合し、新しい分野・領域を創造するというカタチです。
平井准教授は、「今日は、実際に我々が研究を進めてきた事例を紹介しますので、それぞれの研究や今後目指す方向性を考える上で、自分にあった超域の方法を見つけヒントにしてほしい」と企画の意図を語りました。

◆サイエンスを成り立たせる研究者と実践家の関係とは?

続いて、平井准教授は自身の研究「乳がん患者へのカウンセリング効果」について紹介し、その研究現場での研究者と実践家の隔たりについて言及しました。
「法則を導き一つの理論を作るのが研究家の仕事で、そこで得た理論を現実化していくことが実践家の仕事。この両方がスムーズに一周回ってこそ、サイエンスという円環が成り立ちますが、多くの分野において、研究者と実践家がお互いの分野を理解し合えていないというのが現状です。ですから、超域プログラムのようにいろんな分野の人間が交流しお互いの分野を学び合うことで、他の分野の人の話を理解できる人を育てることができるのではないかと期待しています。一人の人がサイエンスという円環を全て担うのではなく、いろんな人が繋がって一つの円を形成し、世の中の仕組みを作っていければいいなと思います」と自らの思いを語りました。

そして講義は、コーディネーターである黒崎准教授と飯島氏の実際の経験談に移ります。

◆“やめる”ではなく“加える”がポイント!
 黒崎流・超域の仕方

黒崎准教授はまず、専門分野がどんどん細分化されボーダレス化しているという現状に触れ、今後は専門分野を超えて新たなものを生み出していく人材が求められると超域の必要性を説きました。そして、科学研究費補助金の細目表を使って、いかに多くの専門分野が存在するか、また自分自身の専門分野がどこに位置するかを説明しました。
黒崎准教授が現在並行して研究を進める2つの専門分野は、理工系の工学分野、総合工学、原子力学でキーワードは原子力材料・核燃料。さらに、同じ工学分野内の、材料工学、金属物性でキーワードは超伝導・半導体材料です。
しかし、同じ工学分野とはいえ、原子力学と金属物性は似て非なるもの。黒崎准教授はこれらを、①いつ超域できたか? ②なぜ超えようとしたのか? ③なぜ超えることができたのか? と、②③について参加者にクイズ形式で質問しました。
受講生らは②につい「一通り自分の専門分野を勉強して飽きたのでは?」「現在の分野での行き詰まりを感じ、新たな分野で誰も考えなかった発見ができると思ったのでは?」、また③について「研究予算をうまく獲得できたから」「異分野の人との交流によって」など自由に意見を発表しました。

黒崎准教授は、平成10年、担当教授の誘いで原子力工学専攻のドクターコースを中退し助手に採用されました。その際、教授の勧めにより、原子力学分野における原子力材料・核燃料の研究に加えて、金属物性分野における超伝導・半導体材料に関する新たな研究に挑戦したのです。
「僕の場合、2つの専門分野の基礎学問が共通しており、さらに研究設備や機器も共通。研究対象とする物質こそ違えども、評価し理解し制御すべき物質の性質も共通していました。こういう共通部分をうまく使えば、一見全く違うように見える原子力学と金属物性でも超域することができるわけです」。
さらに、「元々の専門分野である原子力学に関する研究を“やめて”ではなく、金属物性に関する研究を“加えて”という点が非常に大きかった」と語り、2分野の専門を行き来することでの人脈の拡大、両分野での予算獲得、豊富な経験とメリットを挙げ、超域を考える上で、新たな専門を学びつつ従来の専門を維持することがいかに重要かを熱心に語りました。

 

 

◆先輩院生が伝授!大学院生活で超域するための2つの方向性

 

続く飯島氏は、冒頭で、大学院で博士号を取得することについて円形の図を使って説明しました。
 この円を人類の築き上げた全ての知識だとした場合、この世に生まれてから知識を習得していくことは全体の円の中で、自分の知識の幅を広げていくことだと例えました。そして、大学で学士を取得し、大学院で博士号をとることは円の淵にあたる知識の最先端に辿り着き、さらにそれを超えて未だ誰も知り得なかった新たな知識を獲得することだと説きました。
実際の大学院での飯島氏は生物の適応進化の研究をすることで、専門の生命科学分野において学術的な成果を残しました。また、専門の研究だけではなく、生命科学に携わる全国の若手研究者の組織「生化学若い研究者の会」に所属し、生命科学分野の研究会の開催や学術会議におけるフォーラムの開催を通して、最先端の研究に関する知識や、科学を取り巻く社会の問題に関する知識を広げてきました。
一方大阪大学の中では、専門分野を飛び出し、理系、文系の垣根を越えて様々な分野の学生が意見交換できる場「Scienthrough」という組織を創設しました。  「発足のきっかけは2007年9月に受けたコミュケーションデザイン・センターでの集中講義です。高レベル放射線廃棄物の処理問題に関する議論で、処理問題には科学的なデータに基づいた判断だけではなく、経済、政策、地域などの社会的要素が複雑に関わることを体感しました。と同時に、科学研究以外に科学を取り巻く社会の問題についてもっと知らなければいけないと痛感しました」
 発足後、Scienthroughは分野や立場の異なる様々な人たちが、新たな視点、発見と出会える場として、学術交流を促進する活動を行ってきました。現在では、サイエンスカフェや合同研究交流会「合ケン」の開催、学問の楽しさを発信する冊子「SKHOLE」の発行を定期的に行っています。さらに自分たちの研究を一般の人にも知ってもらおうと、豊中キャンパスのすぐ近くにある石橋商店街や、京阪電車なにわ橋駅にあるアートエリアB1で研究発表をするなど、積極的に街中に出て活動を展開しています。このようなScienthroughでの実践的な活動についても飯島氏は学術論文に成果をまとめています。
「自分の専門分野において、人類の知識の最先端部分に辿り着いて研究成果を残すことで人類の知識を少しだけ押し広げる。一方で、大学院課程中に積極的に活動していくことで違う方面にも知識を増やしていく。そして、学術論文を書く。このようにして大学院在籍中に自分の知識の幅を広げてきました。」
 その他にも、飯島氏は単身渡米し米国科学振興協会(AAAS)の年次総会のフィールド調査を行い、学術論文を執筆した実例を挙げて、「大学院で身に着けた力は、様々な方面に活用できます。私は、「超える」には2つの方向性があると思っています。一つは学術分野における人類の知識を大きく押し広げていくこと。もう一つは学術分野で得た知識を社会で活かしていくことです。」と語りました。
そして「私が大学院で行ってきたことは一つのケースです。何に興味を持ち、どのように知識を広げていくか。そして、その身につけた知識を今後どう活かしていくか。それは皆さんが考えていくことだと思います」と締めくくり後輩たちにエールを送りました。

 

 

◆さいごに

 

講義を受けた学生からは、「境域を超えることに対して漠然としていたが、自分の専門を基軸に興味のある分野に知識を広げていきたい」「今春から別の専門分野を新たに始めることになり、これまで学んできた専門分野を置き去りにしていたが、並行して続けることで自らの武器にし新たな研究の上に活かしていきたい」「自分の専門分野に欠けていることや自分にできないことでも、他の分野の人たちの知識や力を借りればもっと面白いことができると可能性を感じた」など、講義を受け自らの超域に対し手応えを感じた様子でした。
 また中には、「初めてこういう機会に参加し自分自身新たな視点ができたと思う。今後もこういった場に参加していきたい」「今回の講義はいろんな分野の人が参加しており、こういう場を活用し自分の知らない分野の人たちと話をしていきたい」と超域スクールに向けて意欲的な感想もあり、次回スクールへの期待と共に第4回超域スクールは閉会しました。