Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 超域イノベーション総合


過疎地域の将来を描く

2016/2/2

課題提供者: 京都市右京区京北地域

本チームの課題は、過疎指定地域である京北地域に対し、地域振興につながる空き家活用策を提案することでした。
 全国の状況を踏まえつつ地域特有の問題を明らかにするため、行政、NPO、住民等との意見交換を重ね、課題解決へ向けた提案を行いました。

■活動概要&成果

空き家問題の背景にある複合要因

まずは現場に足を運び、京北地域という場所とそこに住む人たちを知ることで、地域が置かれた現状を理解し、解決すべき課題を洗い出しました。空き家問題には、少子高齢化や都市への人口流出による地域の過疎化といったマクロな問題と、家の相続をめぐる所有者側の事情などミクロな問題が複合的に絡み合っており、これらの問題を一挙に解決することは非常に困難です。マクロな問題とミクロな問題の相互関係を明らかにすることで、空き家問題の全体像を描きながら課題解決の糸口を探っていきました。

空き家活用の障壁となっている構造上の問題

京北地域では現在、行政や自治振興会を主導に空き家活用が進められています。そこでは空き家所有者への連絡・交渉、住民への啓蒙活動といった取り組みがなされていますが、こうした取り組みが実際に効果を上げるためには、さまざまな構造上の問題をクリアする必要があります。たとえば、行政・住民間の対立構造はそうした問題の最たるものです。京都市との合併後、京北地域では住民の求めるサービスと行政の提供可能なサービスとの間に乖離が生まれ、そのことで行政に対する不信感が醸成されてきたことが、インタビュー調査から明らかになりました。こうした構造上避け難い不信感や対立があることで、行政や自治振興会主導の空き家活用策には住民からの十分な協力が得られていないのが実情です。その結果、空き家の数自体は増加傾向にあるにも関わらず、活用可能な空き家を確保するのが難しいという状況にあります。

住民主体の空き家活用

こうした状況の中、空き家活用を効果的に進めるためには、住民が当事者意識を持ち、主体的に動き出すことが必要不可欠です。そこで注目したのが、京北内で動き始めている住民主体の空き家活用です。本チームでは、黒田地区にある「おーらい黒田屋」の活動を例に住民主体の空き家活用について調査を進めました。地域の細やかな事情を把握している住民が活動主体となることで、空き家情報の把握や所有者との連絡が円滑になるだけでなく、地域のニーズに基づいた活用方法を探ることが可能となります。地域問題の当事者である住民が主体的に活動できる環境をつくるべきだという立場から、最終的には、①行政が住民主体の活動を支援する体制づくり、②住民主体の活動を継続させるための交流活動という、二段構えの提案に行き着きました。

行政が住民主体の活動を支援する体制づくり

京北地域で空き家活用を進めていくためには、現在並行して進められている行政主導の活動と住民主体の活動が有機的に連動することが重要です。そのためには、住民の中から生まれた活動を行政が支援する体制を確立する必要があります。これは〈地域のための〉施策が生まれる理想的なボトムアップ型の行政体制を確立すること意味しています。現在も住民の意見を反映するためのワークショップなど、ボトムアップ型の行政が試みられていますが、前述した行政・住民間の対立構造を踏まえると、両者の協働のためには、より抜本的な体制改革が必要になると考えられます。

住民主体の活動を継続させるための交流活動

今回、本チームは、行政が住民の活動を支援する方法のひとつとして、他地域との交流活動「ふるさと友達ネットワーク」を提案しました。住民は地域の将来への強い危機感から活動に携わっていますが、それが負担になりつつあることもわかってきました。このままでは住民の中に疲労感が蓄積し、活動が衰退する危険性があります。このような状況を踏まえて、本チームは、住民が継続的に活動できる仕組みをつくる必要性を認識しました。
他地域との交流によって、住民は自分たちの活動に対する気づきや活動を評価する視点を獲得し、その結果、目的意識を持って活動を続けていくことが可能となります。そしてこの交流活動は、忌憚のない意見交換会や地元紹介など、住民が楽しさを実感できる内容となっています。この楽しさは住民の負担や疲労感を軽減し、活動意欲を維持するために重要な要素です。本提案は地域内の活動を展開・継続させる仕組みであり、また地域間の横の繋がりを充実させることも可能だと考えています。

■履修学生チームの声

今回、空き家という観点から過疎地域を調査する中で、空き家問題は単に空き家の利用方法だけを考えれば良いというものではなく、考えるべき指標が非常に多い複雑な社会問題であることを実感しました。そういった問題の解決のために、与えられた問題を巨視的な視点と微視的な視点に加えて、その中間的な視点でそれぞれ再定義しながら整理していくことが必要不可欠であると感じました。
(工学研究科 博士後期課程 1年)

プロジェクトの活動期間中、現地を6回訪問し、地元の方や移住者の方にインタビューを行いました 。私の専門領域では、実験から得られた数値などのデータのみを扱うため、それぞれの人の京北に対する想いといった定量化が困難な情報を扱う経験は初めてでした。当初はそのことに戸惑いを覚えることもありましたが、普段扱っている情報とは異なる情報を扱いながら、半年間ひとつの課題とじっくり向き合った経験は、今後の専門研究を進める上でも思わぬところで活きてくると感じています。
(生命機能研究科 博士課程 1年)

■ 課題提供者の声

京都市左京区副区長・京北出張所長 片山博昭

平成17年に京都市と合併した京北地域(旧京北町)は,合併後も人口減少,高齢化に歯止めがかからず,まさに日本の社会的課題の縮図ともいえる地域であり,複数の大学が京北を社会的課題の研究フィールドとして活動しています。中でも,超域イノベーションの皆様は,各研究分野での高い専門知識を持つ大学院生が,学問領域を超えて困難な課題に取組んでおられ,毎回,既存の枠組みに捉われない発想で,本質を鋭く突いた調査研究をされています。今後も,複雑な現代社会の課題に,未来志向で積極的に踏み込み,「超域力」を発揮されることを望みます。

Related Posts