Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

授業レポート | 社会課題を解決する授業


海を超え、人びとと繋がる海外フィールド・スタディ

2016/6/30

Text: 原めぐみ、マーシャル諸島実習引率教員

飛行機の窓から見える圧倒的な青色。高度が下がるにつれ、うっすらと見えてくる白い連なり。「青い大陸」に浮かぶ「真珠の首飾り」にうっとりしながら着陸を待つ。小さな島では確保できる直線が短いため、機体はランウェイにドスンと音を立てて着地する。どの大陸からも遠く離れているにも関わらず、大国に翻弄され続けるこの島国。ここで超域生は何を感じ、何を学び、何を超えようとするのか

海外フィールド・スタディは、履修生が世界の多様性と複雑性を体感し、グローバル時代に発生する様々な課題を背景の異なる人びとと協働することにより解決を目指すための授業である。そのために、履修生の生活圏とは文化的・政治的・社会的・経済的に異なる国や地域に約2週間滞在する。海外フィールド・スタディの行き先は、現地でリソースとなる個人や団体との関係性や、実施における実現可能性を勘案し、決定される。2015年度、4期生(2015年度生)は二手に分かれ、スリランカとマーシャル諸島を訪れた。

南アジアのインド亜大陸の南東に位置するスリランカは、長年、植民地支配と内戦の歴史を歩んできた。かつての紛争地における国際NGOの草の根活動を体験し、開発の課題と可能性を発見・検討することが、スリランカチームの実習内容であった。

 

太平洋上に浮かぶ島国、マーシャル諸島は、これまで4つの国(スペイン、ドイツ、日本、米国)に植民地支配され、冷戦期には米国により核実験が頻繁に行われた過酷な歴史のある国である。1986年に米国から「独立」し、自由連合国となった今も米国の政治的プレセンスは大きい。さらには、近年の気候変動の影響による新たな問題などが浮上している。グローバリゼーション下における太平洋諸島の課題を包括的に検討することが実習内容であった。私は引率教員としてマーシャル諸島の実習に参加した。

 

両国ともに日本とは歴史的な背景や政治体制が異なり、履修生が訪れたことのない未知の国である。とはいえ、その国について無知なまま訪問するわけにはいかない。本プログラムは、フィールド・スタディを単発的な体験学習にしないために、事前・事後学習にも力を入れている。マーシャル諸島チームの場合、事前学習として、マーシャル諸島研究者で今回の実習の引率教員であるグレッグ・ドボルザーク先生や、マーシャル人留学生のハナコ・ハイネさんを大阪大学に招き、講義を受けた。また、関連するドキュメンタリー映像を数本鑑賞し、図書や論文も事前に読むという宿題が出ていた。そして履修生は、すでに無知の状況から一歩進み、マーシャル諸島の歴史や政治についての外枠を理解して日本を飛び立った。また、最初に訪問した太平洋諸島の玄関口であるハワイでも、ハワイ大学マノア校や在ホノルルマーシャル諸島領事館においてオリエンテーションを受けた。

 

そして、ホノルルから世界最大の環礁、クワジェリンへと移動した。最初の目的地であったクワジェリン環礁内のイバイという島では、公立学校の校長、デオ・エデ・ケジュ先生が私たちを迎えてくれた。デオ先生の案内で私たちは、徒歩で1周することのできるイバイ島を「チャンボ」(語源は日本語の「散歩」)した。事前学習で見たドキュメンタリー映像の中では、「太平洋のスラム」と呼ばれていたイバイであったが、街を歩けば路上で音楽が流れ、人びとが笑顔で挨拶してくれ、子どもがハイタッチを求めてくる、そんな活気のある街のように思われた。と同時に、デオ先生が紹介してくれたヒラタ市長や、学校の教師、病院の看護師などとの対話を深めていくうちに、履修生たちはこの社会の問題を実感するようになる。例えば、環礁内に巨大な米軍施設があることによる米国との経済的政治的依存状況、急激な人口過密によって教育の質が担保されず、高等教育へのアクセスが困難なこと、健康的な食文化の衰退とそれに伴う生活習慣病患者の増加などである。こうした個々人の専門や興味に基づく気づきや学びは、毎晩設けられているリフレクションの時間に共有された。事前学習で収集した外枠的な知識が、マーシャルでの体験とシンクロし、履修生たちの発言に内在化されていくのが見てとれた。

イバイでの濃密な4日間の後、首都のあるマジュロ環礁へと移動した。1日目は、環礁内のエネコ島を訪れた。クワジェリン環礁でもカルロス島とピケージ島を訪れ、浜辺で泳いだり海の中にもぐったり、島内を探検したりした。環礁の内海(ラグーン側)と外海(オーシャン側)の波の違いを体感し、島内で採ったココナッツを自力でかち割り喉を潤した。このような、日本の都市部に住んでいてはなかなかできない大自然と身体を一体化させるような体験も海外フィールド・スタディの醍醐味である。

マジュロでの一大イベントは、2泊3日のホームステイであった。事前出張の際、教員とWUTMIという地元の女性団体が丁寧にマッチングを行った甲斐があり、それぞれの学問的関心と家族の職業等が合うようにうまく調整することができた。例えば、法学研究科法学・政治学専攻の山本くんは夫婦ともに上院議員を務めるモモタロウ家へ、医学系研究科保健学専攻の清重さんは福祉系NGOと保健省に勤めるワセ家へ、経済学研究科経済学専攻の後藤くんはマジュロの資産家レイマーズ家に滞在した。皆それぞれの家庭で3日間を過ごし、3日目の夜に、履修生・教員とホストファミリー、WUTMIメンバーとの交流会を行った。3日前に会ったばかりとは思えないほどに、どの家族も打ち解け、別れの寂しさを噛みしめていた。

マーシャル諸島の人びとと対話をしている履修生は、相手の魅力を反映してか、感受性がスパークしているように見えた。例えばイバイの広場で子どもと汗だくになりながら鬼ごっこしている時、例えばローラ島でホストファーザーの農作業を手伝っている時、例えばホームステイ先のエジット島からマジュロまで船の中でホストブラザーと語り合っている時。事前学習で得た外枠の知識を、フィールドでの経験が補い、さらに人びととの触れ合いによって共感性が増していった。

こうした彼女/彼らのフィールドでの知見は、マーシャル諸島大学、ホノルルに戻ってから在ホノルルマーシャル諸島領事館とハワイ大学で履修生と教員以外の人びととも共有することができた。また、帰国後には引率教員らとふりかえりの授業を行い、フィールド・スタディによって得た気づきと、それによって超えられたバウンダリーは何だったのかを話し合った。さらにもっと先を見据え、フィールド・スタディから今後の自分への「未来のふりかえり」を行った。

今回の海外フィールド・スタディを履修生らはどんな視点から見たのか、そして今後のキャリアにおいて、どんな意味があったのかは、個々人によって大きく異なる。しかし、いずれにおいても、数か月前まで未知だった太平洋諸島のとある国が、フィールド・スタディの滞在先になり、歩いたり話したり考えたりするリアルな現場になり、そして、また会いたい人びとがいる愛着のある場所となったことは確かだろう。その過程において、履修生は、海を越えるというチャレンジをし、人びとと繋がるというチャンスを得た。海外フィールド・スタディは、今後世界を舞台に活躍する超域生が、チャレンジを乗り越え、チャンスを掴むための第一段階なのである。今後、彼女/彼らが世界のどこへ、どんな目的で行こうとも、今回の海外フィールド・スタディで得た経験は応用することができる。本授業を経験した履修生には、今後の超域生としての活動、その先のキャリア形成において、今回の実習での学びを生かしてくれることを期待する。そして、マーシャルで出会った人びとの穏やかで時に険しい表情、フィールドでの自らのまなざしを忘れないでいてほしい、そう願う。

今回、お世話になったマーシャル、ハワイのすべての人びとに感謝して。
Komol tata!!

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