Activity Reports超域履修生による、ユニークで挑戦的な活動のレポート。

活動レポート
履修生主導型企画 ロシア海外研修<2>
全体ワーク

2017/6/1

Text: 立山侑佐 工学研究科

ロシア研修中のワークショップは、2016年2月29日(火)および3月1日(水)に、Financial University under the Government of the Russian Federation(以下、Financial University)のご協力のもと、開催されたものである。事前の国内学習で得たロシアに関する知識をもとに社会の諸問題についてロシアの大学生と実際にディスカッションを行い、ロシア研修の到達目標のひとつである「ロシアに関する知識習得とロシア社会の実見から、国際社会の情勢や構図を理解できるようになること」を本ワークショップの目的とした。参加者は、Financial UniversityにおいてInternational Finance Faculty(以下IFF)に所属する大学生、大学院生合わせておよそ20名、および大阪大学大学院超域イノベーション博士課程プログラム(以下CBI)受講者18名である。

■ワークショップのスケジュール

2月29日(火)13時30分にFinancial Universityに着いてから学校に併設されている寮を見学し、学校長であるAlexander ILYINSLY教授と挨拶を交わした。その後、我々のために用意してもらった昼食を頂き、すぐにワークショップの開催場所となる教室に向かった。大学の校舎内の移動にも関わらず、教室まで向かう道のりは長く、ロシアの広大な土地を誇るかのようにいくつもの建物をつなげて一つの校舎としてそびえ立つ巨大迷路のような校舎に驚嘆した。新学期に教室の場所がわからず遅刻する人が続出するという話にも納得するほどの校舎の巨大さと複雑さであった。

1日目のワークショップでは、表1に示した通り、ロシアから4組、日本から2組の計6名がプレゼンテーションを行った。それぞれが自身の興味に引き付けて調査、発表し、内容に則したディスカッション用のテーマを提示した。ロシア側からの発表はロシアと日本の比較という形で発表する形式が多く、International Finance専攻とはいえ、必ずしも専門ではない日本の実情も詳細まで調べられていると感じられる発表が数多く見受けられた。

1つ目のDiscussionテーマは、ロシアと日本の文化や歴史における共通点および相違点、2つ目のテーマとしては貧困やsocial benefitの在り方を中心に議論した。基本的には、ロシア学生3人、超域生3人のグループとなることを想定していたが、少し超域生が少なかったこともあり、各班入り混じった構成となった。

2日目のワークショップは表2に示す日程で開催された。経済・ジェンダー・環境・教育など多岐にわたる分野について、ロシアから6名、超域から3名がプレゼンテーションを行なった。1日目と同様に各発表者による問題提起を受けて、日露学生の混合したグループで議論を行い、議論した内容について発表しあった。

また、ワークショップの合間、終了後には大学に併設されているシアターにて2つの公演が開かれ、観覧する機会を得た。1つ目は、ソビエト時代から活動し、「ロシアのフランク・シナトラ」と称される歌手Joseph Kobzon氏のコンサート。2つ目は、「世界女性の日」を祝うために在露ベトナム人学生が行なった公演である。

■ワークショップを通しての学び

ワークショップの中で最も強く感じたことは、ラベリングやフレーミングの危険性と、対話や経験を基にした学習の重要性である。先述の様に、ワークショップは両国の差異や社会問題に対して各国の学生から発表を行い、話されたテーマに関してグループでディスカッションをする形式で行われた。そのテーマの中で印象的だったのは、ロシア人学生にとって終身雇用や上意下達な組織が「日本的な企業文化」であるということである。確かに「文化」という視点で見れば述べられていたことは間違いではないように感じる。過去ほぼ全ての企業がそうであったし、現在も「日本的な」風土を持った企業は数多く存在する。しかしながら、我々はそういった文化は変わりつつあると認識しており、文化と一括りに表現できるものなのかどうか違和感を抱いた。このようにラベリングやフレームによってある事象を捉えること、いわゆるハイコンテクストな対話においてはわかりやすく便利な方法である。しかし一方で、本来は含まれるべきものが取りこぼされてしまう危険性をはらんでいる。

例えば、出国前に我々の多くが抱いていたロシアに対する「こわい」といった漠然とした認識もその一つであったように思う。実際にロシアに行ってみると、このような認識はバイアスであったと気付かされる。ワークショップに限らず様々な方々と対話をする機会があったが、出会った全ての人間の言動を「旧社会主義国の人だから」、ましてや「こわい人達だから」なんて単一の視点で一概に片付けることは到底できない。また、ロシアは面積が世界最大であり、国内には多くの民族を抱え、周囲には多くの隣国が存在する大国である。そもそもロシアという枠組みはあってもロシア人という人は定義できないのであろう。つまり、ロシアに対して短い言葉で語ろうとするには、一側面的な見方であるという前提を置きながら、論を構成していかなければならないのだ。以上のように、自己の中にあるバイアスに気付き、そうでないものに対して目を向けること、そういった対話や経験の場を自ら作っていくことが大切なのだと私たちは学んだ。このような営みを繰り返すことで独善的ではなく包括的な社会へ変えていく超域型のリーダーシップが身につくのであろう。

■ さいごに

このワークショップの開催に当たりFinancial UniversityのAlexander ILYINSLY学校長、Alexandra KAZAKOVA副学校長、モスクワ大学のValeriy CHASTNYKH氏、大阪大学の藤田喜久雄プログラムコーディネーター、企画責任者の檜垣立哉教授をはじめとする様々な方々から多大なる協力を得た。ここに記し、感謝申し上げる。

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